芸術かポルノか…ある絵画が「治安違反」の疑いで警察に通報。その絵画とは?

  • 文:宮田華子
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@ poppygraceartist – instagramアカウントのキャプチャ画像

イギリス・ウェールズにある小さな町「ヘイ・オン・ワイ」は、古書店が連なる街並みで有名だ。文学フェスティバルが開催される等、文化的な町としても知られている。

この町の中心部にあるギャラリーで起ったある出来事が「騒動」に発展し、話題となった。

「ザ・チェア」はコンテンポラリーアートを中心に個展やワークショップを行っているギャラリーであり、町のアートをけん引する存在だ。

 



「ザ・チェア」の内観と外観。

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ギャラリー・オーナーのヴァル・ハリスさん。「ザ・チェア」近くにもう1つ、「ザ・テーブル」というギャラリーも経営している。

ハリスさんは2人のアーティスト(ポピー・ベイナムとオリー・ヴァレンタイン、2人は姉妹)による個展をキュレーションし、9月16日~22日まで開催した。ギャラリーのウィンドウには2人の作品が展示された。

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ポピー・ベイナムの作品(左)とオリー・ヴァレンタインさんの作品(右)が飾られたウィンドウ。前に立っているのはベイナムさん(左)とハリスさん(右)。

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苦情が寄せられ、警察が出動!その作品とは?

ウィンドウに作品が展示されるとすぐに、ベイナムさんが製作したこちら(↓)の作品に、苦情が寄せられた。

 


「It’s Party Time」(ポピー・ベイナム・作)。この個展のために製作された作品だ。

ブーツをはいた女性が脚を大きくひろげた様子が描かれた作品。ある住人は、この作品が道路から見える場所に展示されていることを「不快」と感じた。

展示から約1時間後に一人の女性がギャラリーに来て、「これはポルノだ、窓から外して」と叫んだと「Daily Star」が報道している。

その後、苦情を受けた警察が2人の警官をギャラリーに派遣した。警官は作品が公共秩序違反とみなされる可能性があると警告した。

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ギャラリー側の決断

こうした市民の反応や警告は、ハリスさんにとってもベイナムさんにとっても予想外のものだった。特に普段ロンドンで暮らしているベイナムさんは、自身の作品がそのような反応を受けたことはなかったという。

警察からの警告に対し、ハリスさんはアーティストと相談の上、「作品の撤去はしない」という判断を下した。

 


「ザ・チェア」での展示の前に立つベイナムさん。アーティストであり、ロンドンにある芸術大学「セントラル・セント・マーチンズ」の学生でもある。

しかし作品に対して様々な考えを持つのは自由であるため、ハリスさんはコメントを残すことができるノートをギャラリーに設置した。加え、作品について話し合うディスカッションの場も設けた。

ディスカッションの場でベイナムさんは声明を読み上げ、この模様はinstagramでも配信された。

ベイナムさんは声明の中で、下記のように述べている。

「(男性の)ペニスはコミカルな存在としてみられることがあるにもかかわらず、(女性の)外陰部はいつも性的なものとして見られます。私が男性の体ではなく女性の体を描くのは、世界の50%が持っているこの“ノンセクシャル”な体の部分を『ごく普通の存在』として受け取ってほしいからです。これはまた、私がこの作品を撤去したくない理由でもあります。もし撤去したら、私がアートを制作する理由が覆されてしまうでしょう」

「この作品を描き始めたとき、コメントが寄せられるなんて思いもしませんでした。世の中にあるアートの半分はヌードです。なぜこれを撤去しなくてはならないのでしょうか。なぜ不適切なのでしょうか。淑女(Lady)らしいポーズではないからでしょうか。淑女らしいポーズについてのルールを作ったのは誰ですか? 男性ですか? 世界はこうした規範的なルールから脱却し、ヴァギナ(膣)を『ごく普通の存在』にする必要があります」

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「ヌードか? ポルノか?」

裸体(ヌード)は、もっとも人気のアート作品の題材である。それだけに「ヌードか? ポルノか?」と「アートか? ポルノか?」の論争はこれまでの数多く繰り広げられてきた。

今回の出来事で、ギャラリー側には多数のコメントが寄せられた。ハリスさんはこのことをポジティブに受け取っている。またベイナムさんは、The Guardianの取材に対し、「ロンドンのギャラリーでまったく同じことをやってもらい、ロンドンでの反応や人々が何を言い、何を感じるかを見てみようと思います」と語っている。

ベイナムさんの作品はこちら(↓)から見ることが出来る。