日本酒カスクでフィニッシュした、ウイスキーの枠を超える「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」とは?

  • 写真:齋藤誠一 
  • 文:佐野慎悟
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シーバス・ブラザーズ社のディレクター・オブ・ブレンディング兼マスターブレンダーのサンディ・ヒスロップ。

世界で愛飲されているウイスキーブランドのひとつで、プレミアム・ブレンデッドスコッチウイスキーの象徴と称されるシーバスリーガルから、ウイスキーの“枠を超える”革新的な新製品が登場した。「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」と名付けられたその製品は、12年以上熟成したシーバスリーガルの一部を、富山県の銘酒「満寿泉(ますいずみ)」を寝かせたオーク樽でフィニッシュさせるという、長いウイスキーの歴史の中でも前例のない試みから生まれたもの。シーバス・ブラザーズ社のディレクター・オブ・ブレンディングであり、マスターブレンダーのサンディ・ヒスロップに、「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」が生み出された経緯と、その味わいの特徴について訊いた。

革新を求める、日本とスコットランドの酒造り

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富山県富山市東岩瀬町で1893年から続く桝田酒造店。五代目の桝田隆一郎は使われなくなった土蔵群や家屋を改修してアーティストの拠点や飲食店を展開するなど、東岩瀬町の町づくりにも力を入れている。

「数年前に日本を訪れた時に、日本酒好きの同僚に促されていろんな種類の日本酒を飲み比べてみたんですが、日本酒とひと言で言っても、実に多種多様な個性があることに驚かされました。その後ほどなくして、すっかり日本酒に魅せられた私を、満寿泉を手掛ける桝田酒造店の桝田さんと引き合わせてくれたのです」

伝統的な酒造りにとどまらず、常にイノベイティブな施策を繰り広げている桝田酒造店では、これまでも、日本酒の可能性を押し広げるさまざまな製品を展開してきた。一方でサンディも、日本のミズナラ樽をフィニッシュに使った「シーバスリーガル ミズナラ 12年」の開発プロジェクトに、樽の調達をおこなう段階から関わるなど、スコッチウイスキーの常識にとらわれない実験的なアプローチを得意とする人物だ。彼らの出会いがさらなる革新へと向かっていったことは、至極当然の結果とも言えるだろう。

「桝田酒造店では、日本酒をウイスキー樽で熟成させるという実験的なアプローチにも前向きだったため、我々はスコットランドに帰ってからシーバスリーガルのスコッチウイスキー樽を提供することにしました。彼らはその樽でさまざまな種類の日本酒を熟成させて、それをブレンドすることで、これまでの日本酒にはない個性を持った『リンク8』という革新的な製品を生み出したのです」

その後、桝田酒造店で使い終わった樽をスコットランドに引き上げたサンディは、日本酒を寝かせた樽を使った、特別なシーバスリーガルの開発に取り組んだ。

「日本から戻ってきた樽をすべてノージングして、それぞれの樽が獲得した個性を確認しながら、最終的にどのようなブレンドを目指すべきか、チームとともに入念に考えました。日本酒を寝かせた“日本酒カスク”を使うなんてことはこれまでに前例がないことですから、この製品をつくり上げていく一つひとつのプロセスは、とてもビスポークなものでした。『シーバスリーガル 匠リザーブ 12年』は12年以上熟成させた原酒のみをブレンドしたものですが、これは既存のブレンドではなく、この製品のために一から考えたものです」

 

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シーバスリーガルが所有する集中熟成庫。サンディ率いるブレンディングチームは、それぞれのウイスキー原酒の熟成度合いや特徴を管理しながら、適宜製品に使用していく。

しかし、新しい試みを成し遂げるためには、品質のほかにも乗り越えなければならないハードルは無数にある。まずはチーム全体の意識を高く保ち、最後までやり抜くことが大前提となるが、ウイスキーの製品開発には多くの資金と時間がかかり、常にリスクを背負いながら走り続けることになる。

「私は、最初からこのアイデアが必ず素晴らしい結果をもたらしてくれることを確信していましたが、なにしろ、前例のないことに取り組んでいるわけですから、私のチームはもちろん、社内の営業やマーケティング部門など、このプロジェクトに関わるすべての人たちにも、私を信じて辛抱強く待ち続けてもらうしかありません。実際に、酒カスクにウイスキーを寝かせて6カ月経った段階で仕上がりを確認してみた時には、まだまだ素晴らしい出来とは言えないような状態でした。でも辛抱強く待ち続け、12カ月が過ぎた頃には、これまでにないシロップのようにクリーミーなテクスチャーとともに、甘く、トロピカルなフレーバーが現れ始めたんです。最後は1カ月ごとにサンプリングしながら、ベストな状態を見極めて製品化しました」

もうひとつのハードルが、“酒カスク”というまったく新しい樽を使用することによって生じる、既存のルールとの乖離だ。前述したように、酒カスクはもともとシーバスリーガルでスコッチウイスキーの熟成に使われていたもので、100%オーク材でつくられたスコッチウイスキー専用の樽ではあるが、これまでスコッチウイスキー協会の規定では「日本酒を寝かせた樽」が使用された前例がなく、スコッチウイスキーの熟成容器として認められていない。

「そのため、英国内ではこの製品を『スピリットドリンク』として登録する必要がありました。だから私たちは、英国の規定に従い、ごく少量のホップフレーバーを加えることで、その要件を満たしました。味覚上その影響を感じることは、非常に困難です。日本においては日本酒を寝かせた樽の使用は規定上問題なく、『シーバスリーガル 匠リザーブ 12年』は、日本の酒税法に基づき『ウイスキー』と定義づけられています。これまでもシーバスリーガルでは、さまざまな種類のカスクフィニッシュや、異なる材質の樽を組み合わせた“ユニティカスク”の使用など、前例のない新しい試みにも果敢にチャレンジしてきました。時に既存のルールの枠組みを超えていくことで、もっと新しくて実験的な挑戦をするための扉が開かれていくことになります」

 

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「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」をテイスティングするサンディ。日本酒に由来するなめらかなテクスチャーと、和三盆、サトウキビ、梨、ハチミツなどの繊細な甘さが特徴。

インタビューの会場にザ・リッツ・カールトン東京の「ザ・バー」を選んだサンディは、「ザ・シーバス マスターズ 2018 カクテル コンペティション」の世界大会で、日本代表を務めた経験を持つヘッドバーテンダーの和田健太郎とともに、「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」の愉しみ方について意見を交わした。和田はブレンドについてサンディに質問する。

「伝統というものは、常にブレイクスルーの繰り返しで築き上げられていくもの。でもその根底には、必ずゆるぎない本質があります。革新的なプロセスから生まれた匠リザーブも、これまで慣れ親しんだシーバスリーガルらしさは保ちつつ、日本酒のすっきりとした甘みを感じさせるとてもデリケートなブレンドですね。主張の強いスコッチウイスキーの特徴と、繊細な日本酒の特徴を掛け合わせることは、とても難しいことだったのではないですか?」

サンディはそれに答えて、「そこがいちばん気を遣った部分ですね。酒カスクでフィニッシュした原酒には、日本酒に由来するなめらかなテクスチャーと、サトウキビや和三盆のような上品で香り高い甘みが現れました。その魅力を引き立てながら、同時にシーバスリーガルらしい調和を目指しました」と語る。

 

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ザ・リッツ・カールトン東京の「ザ・バー」でヘッドバーテンダーを務める和田健太郎とともに、「シーバスリーガル 匠リザーブ 12年」の特徴を語り合うサンディ。

「その根底にあるシーバスリーガルらしさが、ブレンドとしての完成度の高さにつながっているんだと思います」と和田は続ける。「だから、私はこの匠リザーブのお薦めの飲み方を聞かれると、必ず『お好きなように飲んでみてください』とお伝えするんです。ニート、オンザロック、加水はもちろん、ハイボールやいろんなカクテルまで、どんな飲み方でもきっと、匠リザーブの魅力を感じられると思います」

サンディは和田のコメントに大きく頷きながら、自身のブレンドに込めた思いを語る。

「どんな飲み方でも構いません。このボトルをパーティーに持っていけば、誰もがそれぞれの愉しみ方で、最高の時間を過ごすことができる。私はそんなブレンドを目指しているんです」

シーバスリーガル 匠リザーブ 12年の詳細はこちら

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