いま百貨店がおもしろい!髙島屋若手バイヤーたちと探した旬のブランド、旬のアイテム【着る/知る Vol.184】

  • 写真・文:一史
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髙島屋 CSケーススタディ担当の谷地森バイヤー(左)、岩佐バイヤー(右)。ふたりともに私服姿で、谷地森バイヤーはアンリアレイジを、岩佐バイヤーはカラーを着用。

老舗百貨店の髙島屋が攻めている。自主編集ショップの「CSケーススタディ」に若手バイヤーを起用して、次世代ファッションに積極的に取り組む。バイヤーが自ら着たいと感じる、等身大でエッジーな品揃え。海外ブランドも日本ブランドも対等に並べ、競合他社ともコラボしてしまうしなやかな姿勢がスマートだ。
今回のファッション連載「着る/知る」では、同ショップを担当する岩佐脩平(いわさ・しゅうへい)バイヤーと谷地森健(やちもり・けん)バイヤーとともに、CSケーススタディの今季ラインナップから注目ブランドとアイテムを探した。日頃着ている服がマンネリ化してきた大人層のワードローブもアップデートさせる、フレッシュなセレクションだ。

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08サーカスの支持率が上昇中

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鮮やかな色のウールニットは、編地が厚く形もたっぷり。ハイネックの上品さとクラッシュした裾との対比が個性的。ニット ¥59,400/08サーカス

岩佐バイヤーが着用したニットは、ベテランの森下公則デザイナーによる08サーカスのもの。もともとコアなファンを持つブランドだが、多くのデザイナーズを集めるCSケーススタディの顧客にも響いているようだ。
「着心地のこだわりやほかのブランドとのコーディネートのしやすさで、リピーターのお客様が多いブランドです。上品でありつつも自分らしさを出したい方にご提案したいです」(岩佐)
2024-25年秋冬のボリューミーなニットは、裾をクラッシュさせ着丈をやや短かめに仕上げたユニークなもの。古着ふうに加工された服が再び人気になってきたファッショントレンドともリンクする一着だ。

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国内外の客層にタークが大評判

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エレガンスも得意なタークの今季コレクションから、主張の強いアイテムをピックアップ。凝った加工のデニムはメンズのビッグトレンドのひとつ。右からケーブルニット ¥96,800、中に着た長袖Tシャツ ¥28,600、ケミカルウォッシュの繋ぎ合わせデニム ¥79,200/ターク

パリコレ発表をはじめてから世界的知名度が上がったメンズブランド、ターク。かつてイッセイミヤケの企画チームに所属していた森川拓野デザイナーの服のアイデンティティは、開発に力を注ぐオリジナルの生地。クセがありつつも確かな高級感があり、髙島屋に来店する世界各国の人に支持されているようだ。
「着用すると独自のクリエーション(加工感、細部へのこだわり)を肌で感じることができ、直感的に『すごい!』と感じます」(岩佐)
タークは直営店がなく、セレクトショップの買付けによる品揃えがモノを言う。CSケーススタディのセレクトはどのような観点なのだろうか。
「コレクションを象徴するアイテム、グラデーションで生地が変化するアイテムなど、タークしか表現できないアイテムを買付けています」(岩佐)

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ストーンアイランドが若い古着世代にも大ブレイク

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緑と黄色の丸いマークがブランドアイコン。ファッションとスポーツウェアの中間的立ち位置のブランドだ。ジャケット ¥10,8,900、インナーのニット ¥71,000、パンツ ¥85,800/ストーンアイランド

谷地森バイヤーが全身で着用したのはストーンアイランド。スポーツウェアをファッションに高めた作風のこのイタリアブランドは、古着のアーカイブ市場でも高値がつくほど若い世代にも注目されている。人気の理由はどこにあるのだろうか。
「ブランドの代名詞ともいえるガーメントダイによるカラーリングや、機能美を備えたデザイン性が魅力であり、それが永く愛されている理由ではないでしょうか。 昨今の若い世代からの人気は『フーリガンスタイル』の流行がひとつの理由と考えています。20世紀には英国のフーリガンの象徴でもあったブランドですから、フットボールカルチャーへの関心が高まっていることから一種の“フーリガンへの憧れ”が人気につながっていると考えます」(谷地森)
次に掲載するサッカーブランドのアンブロと同様に、サッカーシーンがいまのメンズウェアの重要なカルチャーになっている。

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アンブロ×ボイラールームの英国同士コラボ

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車のライトのような照明を浴びてリフレクターの線が輝くトラックジャケットと、セットアップのパンツ。ジャケット ¥30,800、パンツ ¥23,100/アンブロ×ボイラールーム

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トラックジャケットの背中には、アンブロのひし形マークとボイラールームのネーム刺しゅうつき。谷地森バイヤーはジャケットの裾を上に持ち上げ腰に乗せ、旬の短丈バランスにして着用している。

サッカーウェアを代表するアンブロがいま、街着として世界的に人気だ。海外ではサッカー系スポーツウェアの流行が「ブロークコア(Blokecore)」と呼ばれ、大きな潮流になっている。日本人でも90年代に英国カルチャー&サッカーシーンに夢中になった人は多いだろう。
岩佐バイヤーはパリ出張したときに、同じ英国の音楽プラットフォームであるボイラールームとアンブロとのコラボウェアを買い付けた。
「音楽とファッションの親和性を感じて買付けました。仲間やコミュニティを大切にしている陽気なパリのセールスチームの雰囲気のよさも買付けの決め手のひとつです!このコラボアイテムはサイズ感やデザイン含め、UMBRO、BOILER ROOM両者のルーツであるイギリスのユースカルチャーの雰囲気が感じられます。90年代のブリットポップの文脈を持つUMBROと、現代のクラブシーンを牽引するBOILER ROOMのコラボは、『洋服×音楽』という文化的な背景が感じられる魅力的なコラボレーションです」(岩佐)

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注目のトラックパンツをニット専業のコーヘンもリリース

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ニット専業メーカーが手掛けた異素材ミックスの華やかなトラックパンツ。パンツ横の縦長ラインの素材がニットだ。左右ともに、¥26,400/コーヘン

「近年の全体傾向として、どのブランドもトラックスーツのようなレトロなスポーツアイテムをコレクションに加えるようになったことが印象的です」(谷地森)
70年代ストリートなリラックス気分が高まってきたようだ。山形に工場を構えるニットファクトリー米富繊維のコーヘンもトラックパンツをリリース。美しい色彩を持つコーヘンらしい上質なアイテムだが、大人が着こなすのはハードルが高そうにも思える。どのようなコーデが合うのだろうか。
「特徴的なカラーリングを活かし白や黒の無彩色と合わせて、大人の落ち着いた装いの“はずし”にするのはいかがでしょうか」(岩佐)
「比較的ワイドかつスポーティなシルエットなので、コーディネートがカジュアルになりすぎないようにしましょう。トップスをキレイめなジャストサイズのシャツやニットに、シューズをローファーなどの革靴にするのがいまの気分です」(谷地森)

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ジェンダーレスの定着でメンズアクセにも変化が

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ユニセックスと明記されたパッケージデザインもお洒落なステンレス製イヤーカフ。※CSケーススタディでの展開店舗は、髙島屋 大阪店、横浜店、日本橋店。¥12,650/Yパリ

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下の波型モデルは岩佐バイヤーの愛用品。「毎日身につけてるので、周囲の仕事仲間から『好きなのわかったから、もういいよ!』と言われます(笑)」。

「CSケーススタディのお客様にもジェンダーに囚われない自由な服装が広がってきたことを感じています」(岩佐)
そう話す岩佐バイヤー自身も愛用するプッシュアイテムが、Yパリのイヤーカフ。
「イヤーカフというとレディースのイメージが強かったのですが、パリの展示会で薦められ実際につけてみると『かっこいいな!』と買付けを決めました。複数つけて組み合わせたり、その日のスタイリングで種類を変えたり、色々な楽しみかたができるブランドです」(岩佐)
誰もが気軽にトライできる1万円前後の価格帯も、彼の買付けを後押ししたそう。外しても耳に穴が残るピアスと違い、イヤーカフはいつでもつけ外しできる。新しいメンズアクセとして大人世代も取り入れたい新ジャンルだ。

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CSケーススタディの品揃え

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写真は新宿店で、主な取り扱いブランドがリストアップされている。全国の店舗により取り扱いブランドと品揃えが異なる。

今季のCSケーススタディでは暖冬傾向に合うライトなウェアが増えている。バイヤーたちが捉えている全体的なトレンドの流れは以下の通り。
「ジェンダーレス化が進む中で、各ブランドの男らしさの提案方法が変化しています。この流れを今後も品揃えに活かしていけたら。また趣味嗜好が多様化するマーケットにおいて、共通の好きなモノ・コトに集まるコミュニティがファッションシーンにも影響を与えていると感じます。わたしたちもカルチャー要素に注目していきたいと思っています」(岩佐)
「ワーク・ミリタリー要素や90年代スポーツカルチャーなど、泥臭さのあるアイテムを各ブランドが再解釈したアイテムがトレンドと感じています。若い世代には新鮮に映り、当時のリアルタイム世代には懐かしさも感じるアイテム(M-65コートやトラックジャケットなど)。またお客様の購買の傾向として、ブランドやアイテムの背景やルーツに共感した上で購入される方が増えているようです。CSケーススタディとしてもただ商品を提案するだけではなく、品揃えの想いをお客様にお伝えする機会を増やしていきたいと考えています」(谷地森)

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CSケーススタディの全国展開店舗は、髙島屋 日本橋店、新宿店、玉川店、横浜店、大阪店、京都店、ジェイアール名古屋タカシマヤ店。

今回の記事では日本のマーケットで勢いのある「旬のブランド、旬のアイテム」を、リアルな販売現場からお届けした。バイヤー両名への取材を通して印象的だったのが、おふたりが抱くブランドへの深い尊敬心、クリエイティブなファッションを盛り上げようとする気持ち。店に並ぶアイテムにもファッション愛とブランド愛が息づいている。本物志向の老舗の百貨店において、CSケーススタディには個人店にも似たローファイな体温がある。セレクトショップから久しく離れていた大人たちも、近くの髙島屋に立ち寄ってみよう。固くなった頭をほぐしてくれる、ワクワクするファッションとの出会いが待っている。

CSケーススタディ

www.takashimaya.co.jp/store/special/casestudy/

 

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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