考古図譜から絵画、漫画まで。『ハニワと土偶の近代』で辿る、ハニワと土偶のイメージ

  • 文&写真:はろるど
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出展作品のうち、実物のハニワは2体、土偶はゼロの『ハニワと土偶の近代』(東京国立近代美術館にて開催中)。タイトルの「近代」が表すように、明治以降のハニワや土偶をモチーフとした美術や工芸、それに背景にある思想などを紹介するユニークな展覧会だ。ハニワと土偶のイメージの変遷とは?

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右から斎藤清《ハニワ》(1953年)、《土偶》(1959年)、ともに福島県立美術館。戦後、ピカソやマティスの展覧会が開かれると、円筒、円錐、球からなるハニワは、キュビスムと結び付けられて語られるようになる。右の《ハニワ》は二体の背後に大きなハニワの足が見えることから、ここが国立博物館であることがわかる。

万世一系を象徴する。戦前のハニワのイメージの意外な広がり

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神武天皇即位2600年記念として特別グッズが多く発行された1940年。身近な印刷物にも建国神話の図像が浸透していった。煙草の銘柄「ひかり」では、同じ赤色に塗られた日本列島と朝鮮半島、それに台湾を、神武天皇が眺める様子が描かれている。

いまでこそかわいらしく、ゆるキャラとして人気のハニワや土偶。しかし近代日本の形成において、ハニワは万世一系を象徴する存在だったとは良く知られていない。日清・日露戦争の後、古墳の発掘が増えると、出土したハニワは皇室財産として収集。太古の生活など伝える資料として、画家の日本神話イメージの創出に利用される。そして1940年、神武天皇即位2600年の奉祝ムードの中、仏教伝来以前の日本の姿としてハニワの美が語られると、雑誌で多くの特集が組まれるなど、ハニワのイメージが国粋的な高揚とともに生活へと浸透していく。「子が戦死しても涙をこぼさない」というハニワの顔が、日本人の理想として語られていたというから驚く。

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神武天皇即位2600年を記念した特別グッズにも、ハニワが登場

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都路華香《埴輪》(1916年 京都国立近代美術館)。明治天皇の伏見桃山陵造営は、当時の人々が初めて経験するような復古的大事業だったという。陵墓を守るための新作ハニワは、彫刻家の吉田白嶺が手がけた。

戦前の作品や資料をピックアップしたい。都路華香の『埴輪』とは、古墳時代の豪族、野見宿禰がハニワを作る様子を想像して描いたもの。明治天皇の伏見桃山陵(京都府)の造営が始まった当時、千数百年途絶えていたハニワ作りが復活し、新作ハニワの記事が新聞を賑わしていたという。京都住まいの都路にとって、ハニワ製作中の場面は、遠い昔の出来事でありつつ、時事的な主題だったに違いない。また神武天皇即位2600年を記念した特別グッズも、戦時中の世相を伝える貴重な資料だ。スポーツ大会の記念メダルに挂甲の武人が採用され、絵本の付録にて武人が「たのしく勉強いたしませう」と呼びかける様子も見られる。

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戦後の考古学の進展とハニワや土偶のイメージの変遷とは? 

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一番右下に岡本太郎《犬の植木鉢》(1954年、滋賀県立陶芸の森陶芸館)などが並ぶ展示風景。左上は建畠覚造の《はにわ》(1953年、和歌山県立近代美術館)。戦後、日本におけるフランス抽象彫刻の紹介者となった建畠が、渡欧中に初めて挑んだ木彫作品だ。

復興と開発のためにあらゆる場所が発掘現場となった戦後、考古学は実証的かつ科学的な学問として脚光を浴びるようになる。登呂遺跡(静岡県)の再発掘は明るいニュースとして受けとめられ、子どもや女性らが参加した月の輪古墳(岡山県)の発掘は、地域の人々が歴史を明らかにした取り組みとして注目を集めた。また画家たちは海を渡り、欧米の文物を見聞する旅から帰って、ハニワや土偶の魅力を再発見。1950年代後半からは、原始、古代、化石といったタイトルを冠した美術作品が多く作られたほか、1970年の大阪万博では、進歩を問い返すように怪異な仮面や神像が集められる。

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ハニワや土偶を表現した多くの作り手たち。猪熊弦一郎から斎藤清、岡本太郎まで

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猪熊弦一郎《猫と住む人》(1952年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)。マティスに学び。イサム・ノグチとも交流した猪熊。「ハニワのシンプルな美には世界性があり、未来の作品を見せつけられているような錯覚を抱く」との言葉を残している。

前衛画家としてハニワや土偶にいち早く着目した長谷川三郎の『無題ー石器時代土偶による』(1948年、学校法人甲南学園長谷川三郎記念ギャラリー)は、土偶をモチーフとした絵画の中でも特に直接的に描いた作例だ。また国立博物館の「日本古代文化展」(1951年)にてハニワを絶賛した猪熊弦一郎は、『猫と住む人』においてハニワや土偶を思わせる顔をした猫や人を描いている。さらに入れ墨部分には色を挿して、キュビスム化したようなハニワを描いた斎藤清をはじめ、無類の古美術愛好家でしばしばハニワや壺などをモチーフに取り上げた鳥海青児、またともにプリミティブな造形が魅力的なイサム・ノグチや岡本太郎のテラコッタと陶なども見ておきたい作品といえる。

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サブカルチャーとハニワと土偶の関係にも注目!

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タイガー立石《富士のDNA》 1992年 アノマリー。中央にいるのは若い頃のタイガー立石。画面中には立石の過去作が散らばり、左上には逆さの土偶が並んでいる。

特撮やマンガなどにて、先史時代の遺物に着想を得たキャラクターが量産された1970年代から80年代。ハニワと土偶も、SFやオカルトブームを背景に、異人などを表す素材であったことから広まっていく。そのイメージにおいて、ハニワは挂甲の武人か踊る人々、そして縄文関連は遮光器土偶か火焔型土器と極端に偏っているという。展示ではこうしたサブカルチャーとハニワや土偶の関係にも注目。最後は土偶をモチーフに取り入れたタイガー立石や、群馬の古墳を描き続ける衣真一郎など現代の絵画が登場して、ハニワと土偶のイメージを辿った長い旅の幕が閉じる。

『ハニワと土偶の近代』

開催場所:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー(東京都千代田区北の丸公園3-1)
開催期間:開催中〜2024年12月22日(日)
https://haniwadogu-kindai.jp/