幼少期から最晩年まで、田中一村の生涯をたどる大回顧展『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』が開催

  • 文:河内タカ(アートライター)
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右:『アダンの海辺」1969年絹本着色 個人蔵 左:『不喰芋と蘇鐵』1973年以前絹本着色 個人蔵 © 2024 Hiroshi Niiyama

いまから遡ること約45年前、NHKのディレクターが奄美大島に立ち寄った際、地元ダイバーの家の壁に無造作に貼られていた魚の素描に釘付けになった。そのなんとも言えぬ迫力に驚き、作者の名前を尋ねると、「田中一村という人が描いたものだが、3年前に亡くなった。生前は染色工の仕事をしながら絵を描き続け、奄美の風景を描いた絵が30点ほど残っているはず」と教えてくれた。

それから4年後の1984年、NHKの「日曜美術館」がこの画家の特集を組んだことが契機となり、一村の作品が広く世に知られるようになった。

田中一村は栃木に生まれ本名を田中孝という。幼少の頃から大人顔負けの画才を発揮し、「神童」と呼ばれるほどの腕前だったものの、青年期以降は中央画壇からは受け入れられず、千葉市に20年暮らした後にひとり奄美へ渡る。借家でひとり暮らしをしながら、紬工場で数年かけて働いて制作資金をため、地元の亜熱帯植物や鳥などを題材に絵を描き、金が尽きたらまた働くという生活を晩年まで続けていたという。ずっとギリギリな状況に置かれてはいたが、渾身の集中力と卓越した画力で描き上げられた作品は、黒を基調とした大胆な構図と繊細な画筆で、まるで一つひとつの植物が語りかけてくるような圧倒的な存在感がある。

本展は幼年期から終焉の地となった奄美で描かれた最晩年の作品までを網羅する大回顧展で、一村の代表作である『アダンの海辺』と『不くわずいも喰芋と蘇そてつ鐵』が揃って展示されるのは14年ぶりとなる。この2点は自身の書簡に「閻魔大王えの土産品」だと記したほどの渾身の作品として知られているが、まさに全身全霊をかけた一村の生涯をたどっていくうちに自ずと涙が出てしまう人もいるのではないだろうか。

『田中一村展 奄美の光 魂の絵画』

開催期間:~12/1
会場:東京都美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:9時30分~17時30分(金曜は20時まで) ※土・日・祝および11/26~12/1のみ日時指定予約制(当日の空きがあれば入場可)。入室は閉室の30分前まで
休館日:月曜日、10/15、11/5(10/14、11/4は開室) 
料金:一般¥2,000
https://isson2024.exhn.jp

※この記事はPen 2024年11月号より再編集した記事です。