いまファッションの世界で、日本人デザイナーの感性が高く評価されている。岩井良太が手掛ける「オーラリー」、森川拓野による「ターク」そして桑田悟史の「セッチュウ」。 独創的なアプローチが際立ち、勢いを感じさせる3ブランドの服に注目した。
Pen最新号は『2024年の名品を探せ!』。人気ブランドによる秋冬の新作から、国内外のデザイナーが提案するアイテムまで広範にリサーチし、“名品”と呼ぶにふさわしい服・小物を探し出して紹介する。さらに、上質な素材を世界に供する国内メーカーを訪ね、あらゆる名品を知る目利きたちにも話を聞いた。心動かされる服や小物が、ここからきっと見つかるはずだ。
秋冬ファッション特集『2024年の名品を探せ!』
Pen 2024年11月号 ¥990(税込)
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オーラリー/AURALEE:生地への深い造詣と、こだわりのシルエット
2015年に創立。デザイナーは岩井良太。日常に溶け込む洗練されたデザインと高品質な素材が特徴。アウターやニットを中心とするコレクションは、ヨーロッパ、北米、アジアにおいて100以上の店舗で展開される。19年よりパリ・ファッションウィークに参加し、同年に第37回毎日ファッション大賞新人賞を受賞。24年1月のパリでは、初となる公式スケジュールでのランウェイショーを行った。
上質素材が織りなす、ミニマルなデザインの洗練された日常着
オーラリー(AURALEE)の真髄は、デザイナー岩井良太の素材とシルエットへのこだわりにある。生地への深い造詣をもとに、岩井は革新的な素材開発を先行させ、その特性を活かすデザインを生み出す。よりよい原料を求め、自ら国内外の産地を飛び回り、カシミア調達のためにモンゴルの遊牧民族と交流するほどだ。色づかいにも独自の視点が光り、パントンのカラースワッチを徹底研究し、上品な色彩を追求し続けている。
デザインのプロセスでは、服のイメージから原料を探索したり、原料の特性からデザインを発想したりと双方向的アプローチを取る。さらに、「朝が似合う服」というイメージのもと、軽やかで気持ちのいいブランド像を描き、ミニマリズムと現代的エッセンスを融合させた。近年は、パリコレ参加を機に、ブランドの世界観を伝えていくことも重視し、控えめなデザインに細部への配慮を織り込んでいる。
クリエイティブな視野は、他分野とのコラボレーションにも及ぶ。2019年から継続しているニューバランスとのプロジェクトでは、スニーカーだけでなく、ウエアのコレクションも2回発表し、オーラリーの世界観を新たなかたちで表現することに成功した。こうした積極的な取り組みと独自の美学が、オーラリーを日本発のブランドとしてグローバルな舞台で高く評価される存在へと押し上げているのだ。
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ターク/TAAKK:技術革新を背景に、デザインの可能性を追求する
2013年に創立。デザイナーは森川拓野。革新的な素材開発が特徴で、生地の組成がグラデーションで変化するファブリックや、デニムのアタリを柄としてジャカードで織り込む技法など、従来の概念を覆す服を提案。17年にTOKYO FASHION AWARD、19年にFASHION PRIZE OF TOKYOを受賞。21年にLVMHプライズセミファイナリスト選出。パリコレで発表を続け、国際的な評価を高めている。
素材と技術の革新が斬新なデザインを紡ぎ、服の概念を塗り替える
森川拓野が手掛けるターク(TAAKK)は、「形に、中身に、素材に、技術に、方法に、体験をなぞり、新しい体験を重ねる、終わりのない探索のデザイン」をコンセプトに、独自の素材開発と技術革新で業界に新風を吹き込んでいる。森川のクリエイションプロセスは、「原石」と呼ぶサンプルや既存の技術をもとに、新しい可能性を探るものだ。この過程で工場と密接な協力関係を築き、各工場の得意分野を把握した上で斬新な提案を行う。
ブランドの代名詞は、素材と技術の革新的な融合だ。生地の組成がグラデーションで変化するコートや、一筆書きの刺繍テープでバンダナ柄を描くセットアップなど、他にない表現を追求。特にコートは、ウールからコットンへと素材がグラデーションで変化する技術の集大成。途方もない長さの刺繍セットアップも、手仕事の限界を超え、技術革新の力を感じる逸品だ。これらの革新的なアプローチによる服は、パリファッションウィークの公式スケジュールでの発表を通じて、国際的な注目を集めている。
森川は「デザインをしないように、デザインをする」というアプローチで、強い個性を持ちつつ、着る人の個性を引き立てる服づくりを心がけている。「着てくれた人の1日が幸せになる」ことを目指し、素材からのデザインを追求し続ける—この哲学が、ファッションの新たな可能性を切り拓いている。
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セッチュウ/SETCHU:和洋を織り交ぜ、新たな造形美を描きだす
2020年創立。デザイナーは桑田悟史。ブランド名は「和洋折衷」に由来し、異なる文化の融合から新しい価値を生み出す概念を体現。水と油のように異質な要素を結合させ、折衷によって本質を溶け合わせる。24年4月、ヴェネチアでサヴィルロウのブランド「デイヴィスアンドサンズ」とビスポークのコレクションを発表。独創的なデザインと革新的な商品ラインで、世界的な評価を獲得している。
折り紙から生まれた遊び心と機能性を備え、時代を超える美を追求
創立わずか4年にしてセッチュウ(SETCHU)は、ファッション界に広く存在感を示すまでに至った。ブランド名に込められた「和洋折衷」の概念は、桑田悟史の美学そのもの。折り紙からインスピレーションを得たアプローチは、2次元から3次元へと変化する服のパターンを生み出し、日本人ならではの造形美を表現している。
セッチュウの服には、桑田の多彩な経験が息づく。サヴィルロウで培ったテーラリング技術、ジバンシィで磨いた高級素材への理解、カニエ・ウェストのもとで学んだ斬新なデザイン手法。世界各地で得た知見が、独自の美学として結実した。デザインからドレーピングまでを一貫して手掛ける桑田の手法が、ORIGAMIシリーズやZIPファミリーといった革新的なシリーズを生み出す原動力となっているのだ。
桑田のクリエイションは、クラシックな要素に新たな視点を加えることで成り立つ。サヴィルロウの伝統技術を現代的に解釈し、クラシックとモダンの絶妙なバランスを追求。オートクチュールレベルの贅沢な生地づかいにも、その姿勢が表れている。イタリアの工場との緊密な連携により実現した手作業中心の生産方式も、桑田の理想を具現化する上で欠かせない。こうしたアプローチを通じ、セッチュウは伝統と革新が融合した新たな価値観を、グローバルなファッションシーンに投げかけている。
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