デンマークの社会とともに歩んだ、照明ブランド「ルイスポールセン」社の150年の歴史を綴った書籍が発売

  • 文:長谷川香苗
  • 写真:ルイスポールセン提供
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『Louis Poulsen: First House of Light』(ルイスポールセン特装版) Phaidon出版 ¥13,200

1874年創業のデンマークの照明ブランド「ルイスポールセン」。その名前を知らなかったとしても、ランプを見れば知っているという人は多いだろう。それほど暮らしのどこかに存在してきた照明器具だ。そのルイスポールセン社が150周年を迎えた2024年、記念書籍『Louis Poulsen: First House of Light』(Phaidon出版)が出版された。

書籍には、ルイスポールセンが築いてきた灯りの歴史だけでなく、 建築家のアルネ・ヤコブセン、デザイナーのヴァーナー・パントンらと共に生み出した名作照明にまつわるエピソード、なぜそのデザインが生まれたのかが窺い知れる図面の数々、そして過去未発表のアーカイブ写真を含む7つの章が収められている。

本書を執筆したのは、英国のライフスタイルマガジン『Wallpaper』誌の前編集長のTFチャン。ルイポールセンのアーカイブを掘り起こす作業や、関係者への取材を通して意識したのは「ルイスポールセンの150年を年表のように時代ごとに記すのではなく、デンマーク社会の文脈の中で語ることです」と話す。

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電力が導入され、初めて取り組んだ照明器具づくり

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著者であるTF Chan。 

本書の冒頭では、ワイン輸入業者としてのルイスポールセン社の始まりから、1891年にデンマークで初めての発電所が開所し、やがてデンマークの一般家庭に電力が導入される社会の変遷について綴られている。ルイスポールセンが創業した1874年、デンマークにはまだ電気が通っておらず、夜間の室内は暖炉か蝋燭、オイルランプから灯りを取っていた。しかし、一般家庭に電力が供給されるようになった1920年代、電力の普及とともにスイッチ一つで灯りがともる未来を思い描いたルイスポールセンは、電灯が登場すれば、暮らしの充実度が高まると考え、建築家で思想家のポール・ヘニングセンと初めての照明器具づくりに取り組んだ。

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対数らせんを用いたシェードは、光を効率よく均等に反射する

ヘニングセンが照明においてなにより重視したのは、目に害を与えない灯りをつくること。まぶしい光は目に大きな負担となる。だから、登場し始めた白熱電球を単に覆うだけのランプシェードではなく、人が心地よく感じるために灯りをどう制御するかに意が注がれたことが語られ、本書にはランプシェードに対する光の反射、屈折がどのような光線を描くか、計算から導かれたシェードの対数らせん曲線も掲載されている。

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経済性を第一に、パーツが少なくてすむシンプルなデザインからスタート

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1926年に登場したPHランプ。

「ルイポールセンには、安らぎを感じる灯りを享受する権利を誰もが持っているという民主的な姿勢がありました」とチャン氏は言う。続けて、「当時は第一世界大戦後、デンマークの国自体も豊かではなく、一般家庭においても照明器具は贅沢品であった頃だから、手の届きやすい経済性を第一に、パーツが少なくてすむシンプルなデザインが特徴でした」。

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1958年に登場したPH アーティチョーク。

シンプルで律したデザインは、いつの時代も変わることなくルイスポールセンの照明器具に言えることだが、社会が豊かになるとともに、照明器具のデザインにも豊かさが反映されることになる。たとえば、1926年に生まれたPHランプ(デザイナーのポール・ヘニングセンの頭文字をとって命名)はシェードが3つであるのに対して、第二次世界大戦後の1950年代に入って誕生したランプは、デンマーク経済の成長に合わせるようにシェードの数が5つに増えている。さらに1958年には72枚の金属の葉がシェードを成すPH アーティチョークランプが生まれたように、国の豊かさと共に、ルイスポールセンの照明器具も豊穣さを増していった。

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豊穣さが増す一方、多くの人が手に取りやすいランプに

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ルイスポールセンは誰もに良質な照明を提供することを目指していたものの、実際の照明器具は高価で、誰もに届く価格ではなかった。「しかし、ルイスポールセンの照明器具は1920年代に道路や映画館、学校、孤児院にも導入されています。そうした場で人々は良質な灯りに触れることができたのでしょう」とチャン氏は言う。「加えてデザインを合理的にすることで製造コストを抑え、より多くの人にとって手に入れやすい照明器具を目指したのです」と続ける。たとえば同じデザインのPHランプをペンダント、デスク、フロアランプへと展開し、シェードの大きさにもいくつものバリエーションをもたせた。

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現行製品のPHランプやPHアーティチョークがディスプレイされたルイスポールセン東京の店内。

本書ではデザインの長命さにも多くのページが割かれている。PHランプが最初に登場したのは1926年だが、いまでも製造されているルイスポールセンを象徴するランプだ。長きにわたってつくられ続けているから、私たちの目に触れる機会も多く、ルイスポールセンの照明器具にはどこかで見たことのあるものが多い。そして同じデザインが長くつくられ、使われているということは、定期的に新しいデザインを投入する必要に迫られないということだ。

ルイスポールセンは万全のタイミングでしか新商品を発表しない。そのため、150年におよぶ歴史の中で余りあるほどのデザインが生まれているわけではない。「長く存在しているデザインということは、一家の中で何世代にもわたって親しまれているということにもなります。本の執筆にあたり、知人のデンマーク人に話を聞くと、祖父母からルイスポールセンの照明を譲り受けたという人も多いのです」とチャン氏は言う。

デンマークの多くの人の暮らしとともに存在してきたルイスポールセンのランプは、日本とのつながりも深い。本書では日本人とルイスポールセンの照明との関係についても言及があるので、手に取って見るのはどうだろう。

なお、ルイスポールセン東京では、150周年を記念し、1925年のパリ万国博覧会のデンマーク館のためにルイスポールセンが制作したパリランプのオリジナルを特別展示中。99年前の照明の姿を目で確かめてもらいたい。

書籍『Louis Poulsen: First House of Light』

ルイスポールセン特装版はルイスポールセン東京ストアおよび公式オンラインストアのみで発売。
¥13,200
www.louispoulsen.com/ja-jp/first-house-of-light-book

ルイスポールセン東京ストア
東京都港区北青山3丁目2−2 A.Yビル1・2F


通常版は出版元であるPhaidon社のウェブサイトで販売
www.phaidon.com