初の死亡を確認したが関係者を逮捕…物議をかもす「安楽死カプセル」とは?

  • 文:宮田華子
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@MailOnline – Xのキャプチャ画像

今年7月17日、スイスにある自殺ほう助の権利を訴える団体「ザ・ラスト・リゾート」がプレゼンテーションを行った。この場で同団体は、ボタンを押すだけで医療従事者の手を借りることなく自死を可能にするカプセル型安楽死マシーン「サルコ」を近く実働することを発表。大きな話題となった。

 


「サルコ」は3Dプリンターで製造されている。その外観からテスラ(車)に例えられることもある。

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記者会見をする、「ザ・ラスト・リゾート」の創設者フローリアン・ウィレット氏とフィオナ・スチュワート氏。

「サルコ」は近未来を思わせるデザインだ。開発を担当したのは、自殺ほう助団体「エグジット・インターナショナル」(本部:オーストリア)の創設者であるフィリップ・ニチキ氏。

 


「サルコ」の中に横たわり、デモンストレーションを行うニチキ氏。

安楽死希望者がカプセルの中に入ると、「死を希望する場合はボタンを押してください」という音声が流れる設定となっている。ボタンを押すと、密閉されたカプセル内は窒素で満たされ、酸素レベルが約21%から約1%に低下する。これにより安楽死希望者はすぐに意識を失い、10分もかからずに死に至るという。

カプセル内に設置されたカメラが死に至るプロセスを撮影し、この映像は検視官に渡されることになっている。

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最初の利用者になるはずが…

「もうすぐ実働」のニュースだけでもショッキングだが、2週間後の7月末、新たなニュースが報道された。Daily Mailの報道によると、55歳のアメリカ人女性が「サルコ」を使用した安楽死第一号となる予定だったが、7月17日に急遽キャンセルされたとのこと。

「ザ・ラスト・リゾート」がプレゼンテーションを行った日と同じだが、このキャンセルがプレゼンテーションの先なのか後なのか、経緯は分かっていない。

この女性は腎不全や神経系の痛みを伴う疾患に侵され、安楽死を望んでいた。「サルコ」を利用するためにアメリカからスイスにすでに渡航済みだったが、「精神状態が悪化している」ことを理由に「安楽死に適さない」と判断された。そして突然「サルコによる安楽死」をキャンセルされてしまった。

「エグジット・インターナショナル」によると、女性は「サルコ」の使用を拒否された後、7月中旬に失踪。彼女の失踪は警察に通報された。

しかしドイツのメディア「NZZ」やスイスのメディア「The Local」は、女性は安楽死をキャンセルされた後、「ザ・ラスト・リゾート」のメディア戦略に利用されたと不満を訴えていたと報道。詳細は不明だが、彼女は他の安楽死団体の助けにより、7月26日に死去したという。

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森の中で実施された「サルコによる安楽死」

「サルコ」を使った初の安楽死が実施されたのは、9月23日だった。亡くなったのは64歳のアメリカ人女性。「激しい痛みを伴う重い病」に苦しんでいたこの女性は、少なくとも2年間は安楽死を望んでいた。

 


後ろ姿は今回「サルコ」で安楽死した女性(64歳)。使用前に説明を受けた。

彼女はスイス・シャフハウゼン州メリスハウゼンの森の中に置かれた「サルコ」の中で最期を迎え、「ザ・ラスト・リゾート」により9月23日16時01分頃(スイス時間)に死亡が確認された。

 


美しい森の中に置かれた「サルコ」。

「ザ・ラスト・リゾート」側は彼女の死を「平和で迅速、かつ尊厳のある」最期であったと発表。同団体が彼女の死亡を警察に届け出ると、シャフハウゼン州警察はこの死に伴う関係者数名を逮捕&拘留した。「初の死亡ケース」だけでは済まない、逮捕劇に発展した。

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「サルコ」は合法なのか?

スイスにおいて自殺ほう助は法的に認められているが、その方法や条件は厳しく規制されている。「エグジット・インターナショナル」や「ザ・ラスト・リゾート」側は当然ながら「サルコの使用は合法」という見解のもとで稼働させたが、「サルコ」による死がスイスで容認されている規定に該当するのかについては是非がある。多方面から反対の声が上がっているだけでなく、「支持しない」とする自殺ほう助団体もある。

「ほう助による自死」の定義は難しい。難病等により耐えがたい痛みや苦しみを伴う人が、医療従事者が処方した薬を自分で服用する方法による「安楽死」と、医師の監視なくボタンを押して死に至る「サルコ」による「安楽死」は「異なるもの」という考え方がある。

正確に何人逮捕されたのか警察側は発表していないが、ロイター通信はメリスハウゼンの森の現場にいた「ザ・ラスト・リゾート」のフローリアン・ウィレット氏に加え、オランダ人ジャーナリスト1名、スイス人2名の計4名が逮捕されたと報道している。

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利用希望者が後を絶たない…

上記にように賛否両論あり、議論が尽くされていない感のある「サルコ」だが、利用希望者は後を絶たないという。Daily Mailによると、現在利用希望申請者は約120人。うち1/4は、安楽死が認められていないイギリスからの申請とのこと。

 


2人で一緒に「サルコ」での安楽死を希望しているイギリス在住、ピーター・スコットさんとクリスティン・スコットさん夫妻。クリスティンさんが脳血管性認知症と診断されたことがきっかけだ。

「ザ・ラスト・リゾート」によると、1人用のポッドと同様に、近日中に2人用のポッドも3Dプリンターで作られ、早ければ1月にも使用可能になるという。

ちなみに「ザ・ラスト・リゾート」によると、「サルコ」利用に掛る費用は窒素ガス料金と、死後に葬儀業者に遺体を運ぶため料金のみとのこと。渡航費用やスイスへの滞在費は自費で支払う必要がある。

 

【次ページ:閲覧注意】映像で見る「サルコ」

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「サルコ」を利用した女性の死去を伝えるニュース映像。映像には自殺に関係する内容が含まれるので要注意。