緻密な計算のもと様々な素材をミックスし、創造性に満ちた至高の一杯をつくりあげる。そんなカクテルメイキングの世界で、28歳にして頂点に立った後閑信吾。2012年にバルセロナで開催されたカクテルの世界大会「バカルディ・グローバル・レガシー・カクテル・コンペティション」、後閑はアメリカ代表として出場し、見事に世界一の栄冠を獲得する。大会の優勝カクテルであり、彼の名を世界に知らしめることになった一杯が「Speak Low(スピークロウ)」だ。
ホワイトラムをベースに、茶筅で立てた抹茶とペドロヒメネスシェリーを合わせ、柚子の風味を纏わせた「Speak Low」。祖母の影響もあり学んだ茶道と、日本での修行時代に培ったシェリー酒の知識を、アメリカで磨き上げた技術と掛け合わせて世界一のカクテルへと昇華させた。
そんな「Speak Low」が後閑の原点だとしたら、現在を象徴するカクテルが「ヤンバルダイキリ」だ。ベースには、後閑が率いるSG Groupと沖縄の瑞穂酒造が共同開発したスパイスドラム「KOKUTO DE LEQUIO Yambaru Spiced Rum」を使用。シンプルな構成のダイキリでありながら、爽やかなシークァーサーのフレーバーや徐々に深みを増す黒糖のコク、アフターには月桃や島胡椒(ヒハツモドキ)の風味が感じられ、驚くほど複雑な味わいに仕上がっている。
「SG Groupとして沖縄に出店したことをきっかけに、現地で大量の黒糖が廃棄されている現実を知りました。そこで黒糖を使ったお酒をつくることで、廃棄の問題の解決や地元の生産者さんたちに貢献できるのではないかと。同時に泡盛の消費量も落ち込んでいるという話を聞いて、第一弾として泡盛をベースにした黒糖のリキュールをつくり、第二弾としてこのスパイスドラムを開発したんです」
他にも後閑は、日本が誇る蒸留酒である焼酎を世界に発信すべく、バーなどに向けた「The SG Shochu」の開発も行なっている。NY禁酒法時代の“スピークイージー”を現代に蘇らせた「Speak Low」(上海)や、「江戸時代に渡米した侍たちが帰国して開いたバー」というコンセプトを持つ「The SG Club」(渋谷)をはじめ、バーファンを唸らせる店を国内外で次々にオープン。文字通り世界中を飛び回りながら、日本の酒の未来を見据えたプロダクト開発にもチャレンジする。そんな後閑の驚くほど創造性に富んだ活動は、従来のバーテンダー像からするとある意味では異質だ。
「過去のインプットやインスピレーションから、オーダーをもらって一瞬でカクテルを仕上げていく。バーテンダーとして培われたそうしたミックス思考は、新しいお店やプロダクトを生み出す時にも共通するもの。歴史や伝統を含め、様々なものをミックスして新しいものを生み出すことが自分自身も好きですし、チャレンジし続けるからこそまた新しいミックスが生まれ、次のクリエイティブへと繋がっていくんです」
自身が手掛けた初めてのプロダクトである焼酎のラベルに刻んだのは、「Tradition in Evolution(進化する伝統)」という言葉。
「まだ誕生から200年に過ぎないカクテルカルチャーは今も進化のプロセスにあり、伝統(クラシック)はこれからつくられていくもの」。そう話す世界で最もクリエイティブなバーテンダーが、バーやカクテルの未来のクラシックを創造する。