『約束のネバーランド』や『ブルーピリオド』などの映画作品で知られる人気若手俳優、板垣李光人の初個展『愛と渇きと。』が、渋谷パルコのGALLERY X BY PARCOでスタートした。NFT作品の販売やファンイベントでの作品展示も行ってきたことから、ファンの間ではイラストを描くことも知られていた板垣。
今回の個展では、デジタルと油絵を組み合わせて制作された複合的な新作キャンバスアート作品11点を発表。個展に込めた思いや影響を受けた画家についてなど、“アーティスト・板垣李光人”としてのインタビューをした。
——デジタルと油彩を組み合わせた表現に初めて挑まれたそうですが、きっかけをお聞かせいただけますか。
『ブルーピリオド』への出演をきっかけに、初めて先生から油絵を教えていただく機会がありました。これまでにずっとデジタルでイラストを描いていましたが、デジタルの絵をキャンバスにプリントして、画面の凹凸やツヤなどがない無機質ともいえる絵と、油絵具の質感の面白いコントラストが生まれるのではないかと考えて、この技法で制作するようになりました。
——今回の個展に出品された作品は、すべて個展開催のために制作された新作だと伺いました。作品の順序によって展開する色使いがまず印象的でした。
最初にテーマを決め、作品展示で生まれるストーリーのようなものを考えたのですが、冒頭に並ぶビビッドなピンクや白い作品には、ある種のカオスのようなものを描いています。徐々に黒を用いた作品へと展開し、青や赤、紫など前半の作品と共通する色に黒で締まりを与えるようなイメージです。カオスに始まり、時間を経てやがて涅槃寂静(注 あらゆる煩悩や苦しみから逃れ、真理に到達することを示す仏教の言葉)に至るような、そのような流れを『愛と渇きと。』というテーマで描こうと考えました。
——例えば黒を例にとると、マットな黒やツヤのあるもの、凹凸など複数のテクスチュアを使い分けています。黒へのこだわりについてお聞かせください。
人の背中の上に抽象的な黒い丸が載った作品がありますが、これに関していうと、ブルーがかった青い円を描いてから、純粋な黒を載せているので、角度によって青みがかって見えると思うんですね。ここには、デジタルの下地があり、ブルーブラックと、純粋な黒という三層があります。その質感と色の表情によって、人間の感情というか、深さのようなものを抽象的な黒い丸で表せると思って描きました。
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——すでに板垣さんの表現からは独自の世界観を感じられますが、影響を受けた画家などはいますか。
好きな画家としては、ダリやマグリットの名前が思い浮かびます。意識的ではありませんでしたが、頭の部分に花を描いた作品など、完成した作品を見るとマグリットからは影響を受けているんだなと感じましたね。肖像画の顔の部分に花や果物を描いた作品シリーズがすごく好きでしたから。それと、美術以外のもっと幼いころの体験として、ティム・バートンの作品が自分にとっての原体験のようなものとして残っています。作品の持っている雰囲気だとか、色の感じ、独特なムードに小さなころから惹かれながら見ていたので、影響を受けていると思います。
——ファンタジーだけど暗い部分があったり、ビビッドな色と黒を象徴的に組み合わせたり、たしかに板垣さんの絵画からはティム・バートンに通じるものが感じられます。
例えば『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』などにしても、キャラクターを通して人間のいやらしさや卑しい部分をしっかり描いている部分が魅力的です。今回の展示の最後のペインティング作品になりますが、最終的に自分の汚い部分や嫌な部分、黒い部分を認め、背負い、そのうえで花を咲かせるようなイメージで描いていて、そういう描写はティム・バートンと共通するのかもしれません。
——胸元には布で制作した花が立体的にあしらわれています。洋服作りも行う板垣さんらしい表現だと感じました。
油彩で花を描こうと最初に考えたのですが、花が咲くことを表現するのに油絵具だけでは物足りないと思って、2枚の布で立体的に花を作りました。デジタルと油絵具とファブリックが組み合わさり、自分らしい作品になったと感じています。
——そのペインティング作品の隣には、エピローグのように白い額装された作品が架けられていますが、どういった想いがこめられているのでしょう。
自分がペインティングを描く際に手がけたラフスケッチを集め、最後に誰に宛てたかわからないような書き損じの手紙を貼りつけました。フランス語で「愛とは渇きである」という言葉を書いたのですが、意図としては、それまでに誰かを求め、愛を求めてきた雑念をすべて捨て、最後に愛とは渇きであるという悟りの境地に至る。その流れの余韻のようなものとして展示しました。
——初の個展から丁寧に構成を考えて作品を制作されており、またファブリックを取り入れたり、ラフスケッチをまとめて作品にしたりするなど、新しい表現への貪欲な姿勢が伝わってきました。最後になりますが、制作をしていてもっとも好きな瞬間、エキサイティングな瞬間を教えてください。
どこでしょうね。油絵の話になりますが、最初に筆を入れる瞬間ですね。変な色の出方をしたらどうしようという緊張感と、どんな色になるのだろうという楽しみもあります。そういう意味で、ドキドキが詰まっているのはその瞬間ですね。
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板垣李光人個展「愛と渇きと。」
会期:2024年9月27日(金)〜10月7日(月)
会場:GALLERY X BY PARCO(東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO B1F)
※大阪、名古屋を巡回予定
https://art.parco.jp/galleryx/detail/?id=1534