肉体うごめくダンス舞台『ミラージュ[トランジトリー]』、美術:名和晃平、音楽:元ダフト・パンクの鑑賞レビュー!

  • 写真(取材)・文:一史
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『MIRAGE [transitory]』の公演会場「THEATER 010」。

凄かった!
肉体美溢れるコンテンポラリーダンサーたちのフルスロットルの激しい動きを、これほど間近に観られるとは。
事前情報から感じたデジタル的な印象とは「ぜんぜん違う!」と嬉しい驚きのローファイ、アナログな舞台。
非日常の空間に包まれて目前で繰り広げられるハプニング。
小劇場に足を運んだ“あの頃”を思い起こさせる、コンパクトで濃厚な芝居小屋。
観る者にも対峙する姿勢が望まれる、互いが真剣勝負になる70分。

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2024年9月27日(金)の初演前日に開催されたゲネプロ(本公演と同じ状態で行う通し稽古)での初鑑賞です。
東京・羽田空港から福岡空港まで航空機で移動して。
そうです、このパフォーマンスアート舞台『ミラージュ[トランジトリー]』の会場は、博多駅から徒歩圏内にある『THEATER 010』。
観に行ける人が限られるのがネックでしょうか。
わたしは丸一日をこの体験に費やしても(記者会見や記念ディナーの試食なども含む)大満足でした。

正直言うと観る前は、自分の好みでないかもしれない不安感もありました。
予告ムービーやビジュアルがデジタル的に思えて、「プロジェクションマッピングみたいなものかなぁ」と。
生身の人間の体温を期待できなかったのです。
それでも興味をそそられたのは、メインのクリエイターが彫刻をベースにする現代美術家の名和晃平さんだったこと。
音楽がエレクトロシーンの超有名二人組であるダフト・パンクの片割れであるトーマ・バンガルテルさんであること。
さらに、衣裳がアンリアレイジ(森永邦彦デザイナー)なこと。
(わたしの仕事の主軸はファッション)
好きなエッセンスが重なり、「このチャンスは見逃せぬ」と観に行くことに。

舞台のレポートにあたり、まず最初にご覧いただきたいのが以下の4点の写真です。
公演終了後に明るくした会場で、森永さんを除く制作者3名が会見に登壇した様子。
お伝えしたいのは、「この横幅の狭い黒いステージで、8名のダンサーが全身を駆使してダイナミックに踊った」こと。
この演目では空間がものすごく重要なのです。

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徹底して黒く仕上げられた部屋。上演直後なため、高い天井からダンサーの身体に降らせたメタリックな粉がステージに散っています。登壇人物は左から、美術家の名和晃平さん、振付家のダミアン・ジャレさん、音楽家のトーマ・バンガルテルさん。
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天井から横、手前の張り出しまで空間のすべてが美術演出とダンスに活用されました。
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バーのある上階から見下ろしたステージ。立ち見席はここから観ることになります。

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観客席は黒ベンチの上に黒クッションの簡易なもの。

徹底して真っ黒に仕立てられた“闇”の空間は、まるで昔ながらの芝居小屋。
会場に踏み入れると驚くと思います。
手づくり感漂う部屋で、簡素な観客席が芝居小屋感を増幅させてます。
これらを頭に入れたうえで、以下の公式ステージ写真3点をご覧くださいませ。
(ゲネプロの上演は撮影禁止で、ここに掲載できるのは公式のみ)

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8名が一体化した瞬間の切り取り。上演では手を大きく上に突き上げたり絡み合ったり、常にうねうねと大胆に動き続けます。ダンサーの肌はオイリーに濡れたノーマルなもの。化粧っ気もなく、ひとりひとりの顔つきや表情が印象的。演目の中盤までこの肌と衣裳の場面が続きます。Photo: Yoshikazu Inoue
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ステージの張り出しに開けられた穴に天井から水を落とし、プログラム制御されたストロボを照射したもの。まるで光と水が天井に遡っていくように錯覚させる、ハイテク技術の光のアート。真っ暗空間だからこそできる手法です。ダンサーの身体はブロンズ調に塗られ、メタリックな粉が全身に振りかけられてます。Photo: Yoshikazu Inoue
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天井まで積み重ねた椅子にダンサーが座り、足と手を絡め合う動く人体彫刻。写真はひとかたまりの彫刻のように見えますが、実はオレンジ色の6名は背景の布の位置にいて、青い2名は手前の張り出しにいます。斜めから観る観客がこのような一体化を感じることはないでしょう。Photo: Yoshikazu Inoue

人体彫刻として瞬間を切り取ったステージ写真。
強烈なビジュアルイメージに仕上がってます。

ただ実際は照明がめちゃめちゃ暗いのです!
最初から最後まで暗い。
観客は暗いステージを真剣に見つめ続けることになるでしょう。
(目が疲れる……)
決して単調でなく照らし方は刻々と変わりますし、終盤にはストロボ点滅により静止したモノが動いて見えるアート手法も登場します。

この照明演出によりダンサーの身体に明暗のメリハリがつき、筋肉の動きやシルエットが強調されていました。
たぶんそれが舞台美術の名和晃平さんや振付けのダミアン・ジャレさんによる人体彫刻の表現なのでしょう。
ただ私的にはその狙いを理解しつつも、「もう少し明るいほうが嬉しかったかなぁ」という意見。
ダンサーの肉体や動きが美しすぎて、よりしっかり見たくなったからです。

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上演前半にはノーマルな肌でカジュアルな服を着て踊っていた国籍も性別もバラバラなダンサーたちが、後半に天井から降り注ぐメタリックな粉を浴び人体彫刻や不思議な生き物に変貌していく様子は必見です。
人間味豊かなダンサーたちだと観客が知っているからこそ、彫刻化した人体にもしっかり体温が感じられて。
これは全70分の演目を最初から観続けた観客だけが感じ取れるニュアンスだと思います。
ステージと客席の距離がごく近く、ダンサーに親しみを覚えるからこそ生まれる共感もあり。
「あの人がこうなったんだ!」という驚き。
後ろの席に座っても、汗が飛んでくるんじゃないかと錯覚するほどのリアリティ。

MIRAGE [transitory] Teaser

踊りのローファイな身体性とコントラストを成す重要な要素が、バンガルテルさんによる硬質なエレクトロ音楽。
DJがクラブで流すようなビート系でなく現代音楽に近いものです。
音量も舞台に溶け込むさりげなさ。
80年代ディスコ音楽を復活させたダフト・パンクとは別のベクトルに向かった緊張感のあるサウンド。
バンガテルさんはバレエ音楽も手掛けたことがあるようですね。
振付家のジャレさんとはフランス人つながりでしょうか。

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会見では概念的な解説コメントを口にした3名のクリエイター。

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ここで総評を。
というか私的な感想を。

●国籍多様なコンテンポラリーダンサーたちの生身の肉体と動きの素晴らしさを実感。

●人が静止した瞬間の彫刻表現も混じったミクスチャー表現を堪能。

●小さな芝居小屋のなかで派手なエンターテインメントが繰り広げられた驚き。

●SF映画(エイリアンシリーズや未知の惑星モノのように生命創造と関わるもの)とリンクする、人が異質な生き物に変貌していく凄み。

●演目を引き立てた知的なエレクトロ音楽の存在感。

●衣裳は……暗すぎてよくわからず w

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本公演のために名和さんが特別に制作した彫刻。立つ人の頭部にもうひとりが重なった、ダンスのシーンとリンクするもの。会場内のバーに設置されてます。

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それでは最後に会場の建物と、観た人だけが注文できるレストランでの記念ディナーコースのご紹介を。

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「THEATER 010」は上階まで螺旋状に上がっていく構造。
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1階レストラン「GohGan」のオープンキッチン。本公演の記念ディナーはここにて。
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ディナーのメイン肉料理を調理するスタッフたち。
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コースのメインの肉料理。
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GohGanのテラス席。那珂川(なかがわ)沿いにあり、夜間は遠くに博多らしい屋台の光が見えます。

舞台『Mirage [transitory]』の詳細は以下より。
https://010bld.com/mirage-transitory/
「THEATER 010」は以下より。
https://010bld.com/theater/
チケット情報はこちら(イープラス)。
https://eplus.jp/sf/detail/4143000001-P0030001

今回のレビュー記事では、データ掲載を思いっきりすっ飛ばしました。
(制作者の思い、ダミアン・ジャレさんと名和晃平さんのコラボ舞台が4回目になること、福岡での初演のあとスイスをはじめヨーロッパで巡回する予定であること、記念コラボはディナーに加えてカクテルの酒もあることなど多数)
10月6日(日)までほぼ連日19時より(土日は14時の回もあり)開催中のこの公演は、まだチケット入手できそうです(お調べを)。
お早めにチェックなさってください!

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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