連載「大人の名品図鑑」の小暮昌弘が語る、2024年のお薦めアイテム

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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Pen Onlineで2018年から続く連載「大人の名品図鑑」。300を超える名品を紹介してきた出演者の小暮と井藤が、連載を振り返りながら、今シーズンの“推し”を選んだ。今回は、小暮の話を掲載したい。

Pen最新号は『2024年の名品を探せ!』。人気ブランドによる秋冬の新作から、国内外のデザイナーが提案するアイテムまで広範にリサーチし、“名品”と呼ぶにふさわしい服・小物を探し出して紹介する。さらに、上質な素材を世界に供する国内メーカーを訪ね、あらゆる名品を知る目利きたちにも話を聞いた。心動かされる服や小物が、ここからきっと見つかるはずだ。

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名品には語るべき物語があり、掘れば掘るほど新たな発見がある

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小暮昌弘●フリー編集者。1957年生まれ。法政大学卒業後、82年に婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社する。83年からメンズクラブ編集部に。2006年から07年まで同誌編集長を務め、09年からフリーランスに。

フリーランスとして働くようになった時、事務所の名前にしたのが「LOST & FOUND」。意味は「遺失物取扱所」。空港でよく見かける言葉だ。これからは忘れ去られたものを探し出すような仕事ができればと、事務所名にした。

「大人の名品図鑑」の企画が持ち込まれた際、そんな自分の考えが少しでも反映できればと、連載を引き受けることにしたが、当初テーマにしたのが「ファッションアイコン」あるいは「名品が登場する映画」だ。しかしそれだけではネタ切れするとテーマに「スタイル」も加えたが、スタイルは 2018年11月からの「フォーマル」ぐらいで、その後はやっていない。回を重ねるうちに、テーマは変遷し、いまに至っている。

マックイーンやヘミングウェイのようなレジェンド、あるいは007シリーズのような映画をテーマにする場合は、ある意味楽だ。しかし得意でない分野や未知の人物が選ばれると編集者魂に火が点く。終日音楽を聴き、インターネットや本で勉強して名品を探す。映画はDVDで再生し、気になるアイテムが見つかると、ストップと巻き戻しを繰り返す日々が続く。掘れば掘るほど発掘できる、そんな感じで名品を探し続けた。

20年公開の記事「バック・トゥ・ザ・フューチャー編」のダウンベストもそのひとつ。ちょうど主人公マーティが着たものと同じ、クラスファイブの製品が日本でも展開されていて、当時を彷彿させるダウンベストを紹介できた。

俳優がテーマになると、作品を観るだけでなく、本人のプライベート写真や自伝等の本もチェックするのが常だ。21年に特集した「ジョニー・デップ編」で紹介したのは、彼が私服で着ていたウエスタンシャツ風のジャケット。コロラドで創業したロックマウント製で、私もよく着ていたブランドだ。しかも同じものが高校生の頃に私が通っていた、上野・アメ横で販売されているとわかり、井藤さんにお願いして借りることができた。

22年の「バスキア編」は面白いものが集まったと記憶している。リサーチ中、バスキアが1987年のコム デ ギャルソンのパリコレに出演したという記事を発見。ショーの模様を観ると、彼は「メリージェーン」の靴を履いていた。タイミングよく同ブランドの展示会があり、同じ靴の新作を発見。まだ発売されていない靴を紹介させてもらった。想いは通じる─この連載をやっていると、そう感じる瞬間も多い。

「大人の名品図鑑」では、2021年の「ゴッドファーザー編」からPodcastを始めている。原稿にはならなかったこぼれ話をふたりの会話で読者に伝えたいと始めた。

昨年11月にダウンジャケットで紹介したのが、エディー・バウアーの「スカイライナー」で、これは1936年、世界で初めて製品化されたダウンジャケット。その回のPodcastでは、スカイライナーより10年以上前に製作されたダウンジャケットがあるという話をした。実は今回、2024年版の名品として推薦したナイジェル・ケーボンの「フィンチパーカ」は、そのダウンジャケットをモチーフにつくられた製品。

人類がエベレスト初登頂に成功するのは1953年。エドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイが登頂に成功した。しかしそれ以前にも多くの登山家が国家の威信をかけてこの山に挑んでいた。英国のジョージ・マロリーもそのひとり。3度のエベレスト遠征隊に参加、1924年の第三次遠征において頂上付近で行方不明になり、登頂に成功したか否かは未だに登山界の大いなる謎だ。

そのマロリーが登山の相棒に選んでいたのが、ダウンジャケットの名前になったジョージ・フィンチという人物。マロリーは彼と組まない限りエベレストには登らないと言ったという話もある。科学者でもあったフィンチは早くから登山における酸素吸引を提唱。このダウンジャケットも極寒の山で過ごすことを考えて羽毛で仕立てたのだろう。マロリーのエベレスト挑戦から100周年を記念した製品で、Podcastでの話が現実になったと感激して“推し”にした。

ナイジェル・ケーボンのフィンチパーカ

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デザイナーが長く注目してきた英国人登山家ジョージ・マロリーの謎多きエベレスト登頂から100周年を記念した限定コレクション。これは、マロリーとともにエベレストに挑戦した登山家ジョージ・フィンチが着用したアウターからインスピレーションを得たダウンジャケットだ。表地には第二次世界大戦時に英国空軍向けに開発された高密度に織り上げたベンタイルコットンを採用。中綿のダウンにはマイナス40度の環境下でも耐えられる高品質のグースダウンを使用。襟にはシープスキンのボアが配されている。製作は英国のマンチェスターにある有数の工場で、全世界限定で100着の生産。¥583,000/ナイジェル・ケーボン

アウターリミッツ

TEL03-5413-6957
www:outerlimits.co.jp

 

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どんなに年月を経ても輝きは失われない、小暮が選んだアーカイブ3選

 

コム デ ギャルソン・オム プリュスのメリージェーン

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2022年9月公開の「バスキア編」から。1987年のパリコレに出演したバスキアがそのショーで履いた「メリージェーン」と呼ばれる靴。このモデルはジョージ・コックスとジョン・ムーアとのトリプルコラボ。残念ながら現在は販売されていない。

ロックマウントのウエスタンジャケット

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2021年10月公開の「ジョニー・デップ編」で紹介した、彼が私生活でよく着ていたウエスタンジャケット。1946年にコロラドで創業した老舗が50年代に製作したモデルがベース。¥28,800(石原商店 ワンアンドハーフ TEL:03-3831-5226)

クラスファイブのダウンベスト

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2020年9月に公開した「バック・トゥ・ザ・フューチャー編」から。主人公マーティが着たのは1971年にカリフォルニアで創業したクラスファイブだ。カラーが当時を彷彿とさせる。¥20,680(ヘルスニット・ブランズ TEL:03-3833-1641)

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