2020年から始動した「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」。日本初上陸となるフェスティバルが、10月4日〜11月16日まで京都と埼玉で開催される。全3回に分けて紹介するフェスティバルについて、最後に触れるのは「ダンス リフレクションズ」とパートナーシップを育んできた劇場や芸術祭。そのキーパーソンたちにこれまでの取り組みや今回のフェスティバルの魅力を訊いた。
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パートナーシップの土台となる、創造・継承・教育への共感
「バレリーナ クリップ」などを産んだフランスのハイジュエリーメゾン、ヴァン クリーフ&アーペルは、創作のインスピレーションを身体表現から多く得てきた。メゾンはコロナ禍の2020年、恩返しとして、メセナの中でもダンス支援を強め、「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」を立ち上げる。これまでにない充実した活動にすべく、ディレクターにはパリのポンピドゥー・センターで舞台芸術の要務を担っていたセルジュ・ローランを抜擢。活動の基幹を「創造」「継承」「教育」と定め、その一環として22年春にフェスティバルを開く。
フェスティバルは、ロンドンを皮切りに香港へと続き、昨秋、舞踊史にとって重要な地であるニューヨークでの開催をもって華開いた。今回、日本では初の2都市開催にて、京都と埼玉で行われる。10月4日から11月16日まで、京都−埼玉−京都の順に、公演やワークショップが約6週間にわたって実施される。それぞれの都市で協働するパートナーは、「ダンス リフレクションズ」とこれまでに催事をともにしてパートナーシップを育んできた劇場や芸術祭だ。
まず、オープニングから10月の後半までを協働するのは、今年15周年を迎え、KEXの愛称で知られる「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」。10月後半から末にかけては、この春リニューアルオープンした彩の国さいたま芸術劇場。そこからクロージングまでは、紅葉も美しい、京都の文化エリア岡崎に位置するロームシアター京都。
今回のフェスティバルは、ショーの公演と並び、関連のトークイベントやワークショップもあるのが特徴だ。ほぼすべてのアーティストが、ポストパフォーマンストークとは別に、作品の背景を知れたり、基礎のトレーニングや創作の一端に触れたりすることのできる機会を設けている。KEXの3名の共同ディレクターのうちのひとり、ジュリエット・礼子・ナップはその点を次のように考える。
「KEXは『ダンス リフレクションズ』がメセナ活動の柱とする『創造』『継承』『教育』に共感しています。そもそもその共感がなければ、芸術の仕事を一緒にすることは叶いませんよね(笑)。『ダンス リフレクションズ』がそれらの言葉のうちで行っていることは、KEXが『Shows』『Kansai Studies』『Super Knowledge for the Future』のプログラムでしていることと重なりもします」
そしてナップはこれまで「ダンス リフレクションズ」との協働を通じて力を入れてきた「継承」の面についてこう続ける。
「KEXはエクスペリメントの名前からして、実験的なこと、先鋭的な体験を本分としますが、ともすればそれは前だけを見て、昔の成果を蔑ろにする姿勢へとつながりかねません。いまの人たちに刺激や影響を与える、あるいは与え続けるかつてのこと、それを愛し敬う『ダンス リフレクションズ』とともに催しを行うのは、私たちにとって大切なことです」
彩の国さいたま芸術劇場の舞踊部門プロデューサーを長年担い、現在アドバイザーを務める佐藤まいみは、フェスティバルのラインアップを見て「こんなにワクワクした気持ちになるのは久しぶり」と心を躍らせる。佐藤はこれまでに自らも「ヨコハマ・アート・ウェーブ’89」や「神奈川国際芸術フェスティバル」など、日本の舞台芸術祭のランドマークになるような催事を営んできた。早くも80年代末に、ピナ・バウシュの『カーネーション』やアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの『ミクロコスモス』を、あるいはフェスティバル以外でも90年代初頭にアンジュラン・プレルジョカージュの『肉体のリキュール』などの逸品を、首都圏で多くの観客に届けた功績は大きい。彼女の作品を見る目、未知なる刺激に開かれた感受性、自分の得た感動を人へも届けようとする情熱は讃えられたい。
「私は80年代にダンスを見たり体験したりするためにパリに住んで、たまたまヨーロッパの舞台芸術シーンがおおきく変化する節目の時代だったのですが、それまでの価値観がひっくり返るような強烈なダンスや演劇の作品に出会いました。そこで身についた視点や感覚や記憶がその後の自分のもとになっていると感じます。今回のフェスティバルの演目はどれも魅力的で、当時私がパリで驚いたような経験をみなさんも得られるんじゃないかと想像します。ぜひできるだけたくさんの作品を見ていただきたいです」
ロームシアター京都でプログラムディレクターを担う小倉由佳子は、2年前に「ダンス リフレクションズ」の支援で、佐藤とともにギリシャの演出家ディミトリス・パパイオアヌーの作品を日本で公演したことがある。彼女は、当時受けた恩恵(コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争の勃発でアーティストの渡航や装置の運搬に難が生じたことへのサポート)を思い出しながら、今回はどんな観客が来るのだろうと、この共催を楽しみにする。
「パパイオアヌーの公演ではダンスファンのみならず、絵画や写真などのヴィジュアルアートを好む人にもアプローチできました」
今回の振付家たちは、とりわけ広い間口で深い内奥へと誘い込む術を持っている。小倉は「この公演を機に『ダンスはちょっと……』と二の足を踏んでいる人にも来てもらえたら」と期待する。私たちはきっと、踊り手の超絶技巧に目を奪われながらも、その身体から滲み出る情やメッセージに心を掻き立てられるのだろう。ダンスに心身が照り返される、そんな「ダンス リフレクションズ」の6週間がまもなく始まる。
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ダンスプログラムを共同主催する、KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭
2010年から開催する「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」は、KEXの愛称で知られ、今年で15年目を迎える。「エクスペリメント」の心をもって、ダンス、演劇、音楽、美術などの実験的なショーやワークショップをプログラムする。20年から3名の共同ディレクター体制に。
「ダンス リフレクションズ」とのコラボレーションは22年から。昨年はポストモダンダンスの継承という観点で、今年はフォークダンスやモダンダンスの再生ないしは展開という、より大きな視野で共催する。共催するダンスプログラム以外の作品も紹介しよう。
2024年のキーワードは「えーっと えーっと」
ムラティ・スルヨダルモ
『スウィート・ドリームス・スウィート』
公演日時:10/5(土) 10/6(日)各12時15分 開演
会場:京都市役所本庁舎屋上庭園
上演時間:180分
穴迫信一×捩子ぴじん with テンテンコ
『スタンドバイミー』
公演日時:10/18(金)15時 開演、10/19(土)13時・19時 開演、10/20(日)13時 開演
会場:堀川御池ギャラリー
上演時間:90分(予定)
アミール・レザ・コヘスタニ / メヘル・シアター・グループ
『ブラインド・ランナー』
公演日時:10/26(土)19時 開演、10/27(日)13時30分 開演
会場:京都府立府民ホール“アルティ”
上演時間:60分
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ダンス リフレクションズと劇場とのパートナーシップが結実したおもな公演
2020年にプロジェクトが始動して以降、「ダンス リフレクションズ」は、彩の国さいたま芸術劇場とロームシアター京都と提携を結び、さまざまな公演を支援してきた。その一部を紹介する。
ディミトリス・パパイオアヌー
『TRANSVERSE ORIENTATION』
彩の国さいたま芸術劇場 / ロームシアター京都(2022年)
ノエ・スーリエ
『The Waves』
彩の国さいたま芸術劇場 / ロームシアター京都(2024年)
上に挙げた公演のほかに、2022年に彩の国さいたま芸術劇場で岡田利規演出による『わたしは幾つものナラティヴのバトルフィールド』、2024年にロームシアター京都でディミトリス・パパイオアヌー演出による『INK』が、「ダンス リフレクションズ」のサポートを受けている。二演目ともにダンスの枠組みを揺るがす特異な作品だ。
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