音楽文化のアイコン、AirPodsが進化。Proモデルには耳の健康を守る機能も

  • 文:林信行
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かつてのiPodのCMを思わせるAirPods 4のシルエットCM。シルエットだけになったダンサーの耳の白いAirPodsが映える

世界で最も愛されているヘッドホン、AirPodsシリーズが一新された。この小さいながらもたくさんのイノベーションが詰まった耳の中のコンピューター、AirPodsについてアップル社プロダクトマーケティング担当副社長のボブ・ボーチャーズと同社ヘルスケア担当副社長のサンバル・デサイ医学博士に話を聞いた。

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セレブやアスリートも愛用する世界一のイヤホン

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一新された最新AirPodsのラインアップ。左からAirPods 4基本モデル(税込2万1800円)、AirPods 4アクティブノイズキャンセリング搭載モデル(同2万9800円)。この両者は搭載モデルのケースの下にスピーカー穴がついたこと以外は外観上の違いがない。製品には変更がないがまもなくソフトウェアアップデートで耳の健康機能が追加されるAirPods Pro 2(同3万9800円)。新しいカラーバリエーションとUSB-C対応を果たしたAirPods Max(同8万4800円)。

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USB-C端子を搭載して、ミッドナイト、スターライト、ブルー、パープル、オレンジという鮮やかな5色のバリエーションが用意されたAirPods Max。同じ青系や白系の色でも初代モデルが淡かったのに対して、新モデルは鮮やかになっている。

米国時間9月9日、アップル社が毎年行なっている新製品発表会ではデジタルカメラに迫る操作で写真撮影を楽しめるiPhone 16シリーズや節電モードでも秒針が消えないApple Watch Series 10が発表され大きな注目を集めたが、同じ会でAirPodsもシリーズ一新が発表された。

究極のオーバーイヤーヘッドフォン、AirPods Maxは鮮やかなカラーバリエーションとUSB-C端子搭載で生まれ変わった。第4世代製品のAirPods 4はより耳にフィットするデザインになり、新たにアクティブノイズキャンセリング対応モデルが追加された。AirPods Pro 2は、製品そのものは新しくならなかったが無料のソフトウェアアップデートで画期的な健康機能が追加されることが発表された。

まずは新モデル追加で魅力が増したAirPods 4をボブ・ボーチャー副社長の話を交えながら振り返りたい。

発表会ではAirPods 4は、白いイヤホンをつけて踊る黒いダンサーのシルエットが印象的なCM動画で紹介された。30代以上の人なら、これがかつて世界を席巻した音楽プレイヤーiPodのCMへのオマージュであることがすぐにわかるだろう。

「AirPodsが登場したのは2016年。当初、私たちはiPod時代の象徴的なデザインをワイヤレスに移行しようとしていました。コードのないヘッドホンという新カテゴリーでオーディオと音楽体験を次のレベルに引き上げようとしました。」

「今でも新しいAirPodsをペアリングしようとする度に、今開封したばかりのAirPodsが(自動的に認識され)iPhoneに表示される魔法のような体験で笑顔になります」と語るボーチャー。

その後、AirPodsは少しずつ世代を重ねながら、より良い音楽体験を追求してきたことでオリンピックで活躍したアスリートたちを含む世界中のセレブから愛される存在になったと感慨深げに振り返る。

そんなAirPodsにとって、今回の発表会は「変革の日だった」とボーチャーは振り返る。

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AirPods 4。一見するとこれまでのAirPodsと同じようだが、ケースが一回り小さくなりLEDのインジケーターの穴が無くなり、ケースの内側から光る仕様になるなど細かなデザインも見直されており、どんな耳に対してもフィット感が増している。

「新たに驚くべき新デザインが施され、驚くべき健康機能が加わりました。」

最新のAirPods 4では何千もの耳の形状を分析して得た5000万以上のデータポイントを元に再デザイン。どんな耳に対してもよりフィット感を高めている。

2万1800円の基本モデルに加えて、新たに2万9800円でアクティブノイズキャンセリング機能付きモデルが登場した。耳とイヤホンの間をイヤーチップで埋めないオープンイヤー型では珍しいノイズキャンセリング機能を追加しただけでもかなり魅力的だが、基本モデルとわずか8000円の価格差で、それに加えてワイヤレス充電機能やどこにあるかわからなくなった時にiPhoneを使って探す機能も追加されており、かなりお買い得感がある。

ボーチャーはこの耳の中に収まる小さなコンピューターにこれだけの機能を凝縮できたのは、「H2」と呼ばれるアップル社独自プロセッサ(Appleシリコン)を搭載したからだという。

「Appleシリコンは我々に大きなアドバンテージを与えています。(音が立体的に聞こえる)空間オーディオやアクティブノイズキャンセリングもこれによって実現しています。音楽面やオーディオ面でも様々なことが可能になり、(音楽の魅力をコンピューター処理で最大限に引き出す)コンピュテーショナルオーディオにも力を注ぐことができました。さらにAirPodsを一日中装着していても、周囲の人や場所とのつながりを失わないトランスペアレンシーモードも提供しています(まるでイヤホンをつけていないかのように周囲の音がそのまま耳に伝わるモード)。」

「今日、AirPodsは今という時代を象徴する文化的アイコンになりました」とボーチャー。

「でも、さらに素晴らしいのは、この社会の一部となったAirPodsで、新たに信じられないような新しい健康機能が提供されようとしていることです。人々が使い慣れて、いつも身につけている製品だからこそ提供できる健康機能です。」

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10億人以上が抱えながら諦めている難聴を予防、検査、補助するAirPods Pro 2

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AirPods 4のアクティブノイズキャンセリング(ANC)搭載モデルは、ワイヤレス充電にも対応。Apple WatchやiPhone用のMagSafeといったワイヤレス充電機に加え、Qi(チー)という規格の充電器にも対応している。また「探す」機能にも対応。一部のiPhoneでどっちの方向にあるかを調べたり、音を鳴らしてどこにあるかを探すことができる。この機能のためだけでも8000円高価なANCモデルを選ぶ価値がある。

AirPodsシリーズの中で、唯一、ハードウェアの変更が無かったのが快適なイヤーチップでより高いフィット感を実現し、高音もしっかり打ち消す高性能のノイズキャンセリングを提供するAirPods Pro 2だ。しかし、この製品については上述した通りソフトウェアアップデートを通して「聴覚の健康」の「予防」、「認知」、「補助」のための機能が追加される。

「予防」は、聴覚に影響を及ぼす可能性のあるレベルの大きな環境騒音を毎秒48,000回の速さで検知し音の特徴を残しながら低減する機能だ。つまり、耳にダメージを与えそうな音を、ダメージを及ばさない音量にまで抑えて耳に届けてくれる機能だ。

アップル社が米国ミシガン大学やWHO(国際保健機関)と共に進めてきた研究、Apple Hearing Studyによれば「3人に1人は聴覚に影響を及ぼす可能性のあるレベルの大きな環境騒音に日常的にさらされており騒音性難聴になる可能性がある」という(デサイ博士)。

「私たちの耳には小さな毛が生えていますが、大きな騒音にさらされると、その毛が傷つき、その結果、聴力が低下するのです」(デサイ博士)。アップルは2019年からApple Watchにユーザーが大きな騒音に晒されている時に通知を表示する「ノイズ」というアプリを追加。またヘッドホンの音量レベルや大音量にさらされた時間を追跡できる健康機能も提供した。

これらの機能を使って、自身も「子供たちが大きな声で騒いでいる時の騒音が予想以上に大きなものだったと気がついた」とデサイ博士。

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AirPods Pro 2には、耳にダメージを与えそうな騒音を抑える機能や、自分がどんな騒音に晒されたかを記録して振り返る機能が用意されている。これを使って日頃から耳の健康を意識することも重要だとデサイ博士。

AirPods Pro 2はそうした大音量の環境音にさらされると自動的に音を抑える聴覚保護機能を提供する。そしてデサイ博士によれば、アップルは騒音の大きな地下鉄やバスに乗るときだけでなく、例えば大音響の音楽コンサートに参加するときでも、この機能を使うことを想定しているという。

3つの機能の中で、最も注目すべきは「認知」、つまり、自分の聴覚の状態を知るための機能だ。

「世界で10億人が軽度から中等度の難聴を抱えていると言われています。それにも関わらず80%の人は聴力検査を受けていないことがわかっています。そこでAirPods Pro 2を使って、臨床的にも有効な聴力検査を受けることができるようにしました。」(デサイ博士)。

アプリを起動すると「音が聞こえたら画面をタップしてください」という画面が表示され、AirPods Pro 2からさまざまな高さの音が聞こえてくる。テストは数分ほどで終了し診断結果が表示される。

テストは聴力検査で世界的ゴールドスタンダードとなっている純音聴力検査に基づいた臨床レベルの検査となっている。既に日本の厚生労働省からも承認を受け、後は製造販売承認を待つだけの段階だ。

どの周波数帯でどの程度の聴力の減衰があるかを「dBHL(デービー・エイチ・エル)」という単位で記した聴力レベルのグラフを表示してくれる機能があり、診断後に問題があり医師に相談する際に、結果をPDFとして出力する機能も備えている。

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聴覚テストの結果画面(英語版画面)。左右それぞれの耳の状態を表示。この例では中等度の難聴と診断されているので、画面下半分に診断結果をどう理解したらいいか、どうしたらいいかが表示される。

「この機能が良いのは、このフォーマットのまま医師にも見てもらって役に立つことです。医師によっては再検査を望むかも知れませんが。私たちは医療界と手を取り合うことで医療の世界に貢献できると本当に信じているからです」(デサイ博士)。

では、もし、診断の結果、難聴の傾向が発見された場合はどうしたらいいのだろう。

実はここが第3の機能「補助」の領域だ。難聴の中で最も多いのが軽度から中等度までの難聴だが、AirPods Pro 2はソフトウェアをアップデートすることで、この軽度から中等度までの難聴者が利用できる補聴器の代わり、処方箋不要のヒアリング補助機能として利用できるのだ。

どの周波数の音を聞くのが苦手かがわかるヒアリングテストの診断結果を元に、ユーザー一人一人の耳にあったパーソナライズされたプロファイルを作成し、補助機能を自動で調整してくれる。

「実は難聴と診断された人の75%が補聴器を使っていないという統計があります」とデサイ博士。補聴器が高価な機器という理由に加え、慣れるのがなかなか難しく、最初のうちはとても不快に感じるというのも理由の1つだという。

アップルは、この問題を解決するべくソフトウェアエンジニア、デザイナー、臨床医、音響デザイナーによる部門横断のチームを作って機能を開発したという。

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聴覚テストの詳細画面。どの周波数の音が、どの程度聞き取れているかのグラフになっている。これは一般的に医師が使用する臨床データーにも近いため、このままPDFとして書き出し医師の診断材料にしてもらうことができる。

自分の聴力の診断結果に合わせてパーソナライズされた補助をしてくれるのも魅力だが、それ以上にこれが周囲の人に自分が難聴者だとわかる補聴器ではなく、世界中のアスリートやセレブも愛用し日常的に使っている文化的アイコン、AirPods Proであるという点も大きな魅力だろう。

難聴であることを知られたくない人は、AirPods愛用者のふりをして聴覚を拡張できるのだ。

デサイ博士は「難聴を放っておくと、やがてその人は孤立してしまうという問題にがある」と指摘する。いや、それだけではない。

「脳が音を処理しないことに慣れて衰えてしまう問題もあります。脳が音を処理しなくなることで信号が伝達されなくなり、それで認知能力の問題が加速するのです。」

「聴覚の健康は私たちにとって非常に重要であるにも関わらずば過小評価されがちです。聴力は年を取ってからだけでなく、どの年代でも気にかけるべきものです。なぜなら、聴覚は私たちと世界のつながりを作っているからです。」(デサイ博士)。

快適なワイヤレス接続や空間オーディオで世界を変えたAirPods、いよいよ我々の生活にとって欠かせないものになって来そうだ。

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万が一、軽度から中等度の難聴と診断された場合は、AirPods Pro 2が診断結果を元にその人の耳の状態にパーソナライズした聴覚補助機能を提供する。厚労省から認可された補聴器とは異なるが、ほぼ同等の機能を提供するのに加えて
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AirPods Pro 2の新機能は、ただ音楽を楽しむためだけだった耳の中のコンピューターを、人生百年時代を豊かに過ごす上で必須の健康を守るデバイスへと進化を果たした。

Apple

https://www.apple.com/jp/airpods/