アートファンや写真好きも必見なフェスティバル、「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」が開幕

  • 写真:土屋崇治(TUCCI)
  • 文:富田大介(明治学院大学文学部芸術学科准教授)
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10月4日〜11月16日まで開催される「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」フェスティバルの一環として、京都・祇園で開かれるオリヴィア・ビーの写真展『その部屋で私は星を感じた』より。 photo: Olivia Bee

2020年から始動した「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」。日本初上陸となるフェスティバルが、10月4日〜11月16日まで京都と埼玉で開催される。本稿と合わせて、各プログラムの紹介とパートナーシップについて、全3回に分けて紹介しよう。

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第3回:フェスティバルのパートナーが考える、「ダンス リフレクションズ」との協働

オープニングを飾る、ダンサーの舞台裏にも迫った写真展

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photo: Olivia Bee

この秋、ヴァン クリーフ&アーペルの主催するダンスフェスティバルが日本で開かれる。これまでの開催地はロンドン、香港、ニューヨーク。日本では京都を主要な開催地として埼玉と連携する。2022年にスタートした「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」フェスティバルは、今回「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」と協力し、過去3度にわたってフェスティバルを撮り続けてきたオリヴィア・ビーの写真展で幕を開ける。

光への独特なセンスを持つビーは、SNSでの活動が世界的企業の目にとまり、10代から名を馳せてゆく。自然の育んだ感受性に加え、ファンタジー(物語)の力にも恵まれた彼女は、映像作品も制作する。雪原の小舞台で踊り子が舞う『All The World』のラストの美しさは、この展覧会にも通じるものだろう。

時を反映するダンスを見て、心のうちで内省してほしいとの思いから名付けられた「ダンス リフレクションズ」。ディレクターを務めるセルジュ・ローランは、日本でのフェスティバルに、ダンスが“開かれる”ことを期待する。観客がビーの写真にタイトルのごとく“エトワール”の輝きを感じるとしたら、ダンスはどこにあるのか? 視覚?物?空間? ダンスの所在やイメージを変える体験が、フェスティバルの軌跡をたどる写真展から始まる。

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『その部屋で私は星を感じた』/ロンドン、香港、ニューヨークで開催された「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」フェスティバル。その舞台や練習風景を撮り続けた、オリヴィア・ビーの作品を紹介する写真展。ダンス公演に先駆けてフェスティバルの開幕を飾る。会場は京都河原町駅や祇園四条駅から近いギャラリースペース「アスフォデル」。開催期間:10/4~11/16 会場:アスフォデル 開館時間:12時~21時 休館日:月曜 入場無料 photos: Olivia Bee
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オリヴィア・ビー●写真家・映画監督。1994年、アメリカ・オレゴン州ポートランド生まれ。10代前半から写真作品をオンライン上に投稿し、15歳の若さで世界的ブランドの広告キャペーンに抜擢される。22歳で『Kids in Love』を発表し、写真文化のプラットフォームを担う非営利機関アパチュア・ファウンデーションから作品集を出版した最年少のアーティストに。 photo: Joseph Haeberle

ダンス リフレクションズの詳細はこちら

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ディレクターが語る、フェスティバルの意義と日本で開催する狙い

ヴァン クリーフ&アーペルが2020年に立ち上げた、舞踊芸術の支援を目的とした「ダンス リフレクションズ」。ロンドン、香港、ニューヨークに続く地として、京都と埼玉でフェスティバルを開催する意図をディレクターに訊いた。

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セルジュ・ローラン●ヴァン クリーフ&アーペル ダンス&カルチャー プログラム ディレクター。フランスの高等教育機関エコール・デュ・ルーブルで美術史や博物館学を専門的に学ぶ。1990〜99年までカルティエ現代美術財団でキュレーターを担い、その後2000〜19年までパリのポンピドゥー・センターで舞台芸術企画部門の責任者を務める。19年より現職に就く。

ロンドン、香港、ニューヨークに続き、「ダンス リフレクションズ」のフェスティバルの開催地となるのは京都と埼玉。これらの都市には「ダンス リフレクションズ」とパートナーシップを育む劇場や芸術祭がある。昨秋の開催地ニューヨークは、振付家ジョージ・バランシンとの縁などメゾンにとって大切な街であり、ダンスの歴史にとっても重要な地であった。フェスティバルのプログラムディレクター、セルジュ・ローランはまずその点を振り返る。

「今日のコンテンポラリーダンスの繁栄は、作家の権威性を排した『ポスト・モダンダンス』の源であるジャドソン・ダンス・シアター抜きには考えられません。ニューヨークのジャドソン記念教会に集まっていた実験精神旺盛な人たちの中に、若き日のルシンダ・チャイルズがいました。かの地でのフェスティバルを彼女の名作『ダンス』によって開幕することができたのは、意義深いことです」

ニューヨークでその1979年初演の名作が披露される1週間前、京都で『ルシンダ・チャイルズ1970年代初期作品集』が上演された。その公演をサポートしたのも「ダンス リフレクションズ」だった。ヴァン クリーフ&アーペルのメセナ活動は「創造」「継承」「教育」を柱とする。「ダンス リフレクションズ」はチャイルズの仕事を現代につないで甦らせるプロジェクトを、京都で実験的な舞台芸術祭を行う「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」と共同で主催したのである。その催しによって、日本で多くの人が伝説的なポスト・モダンダンスのエキスに触れることができた。

ローランは美術史や博物館学を専門的に学んだ経験から、旧いものと新しいものを対立させない思考を身につけている。「歴史の勉強は創造に役立ちます。京都というところはそのことを知っている街ではないでしょうか」。今回のフェスティバルにはショーと合わせてワークショップも組まれている。伝えたり習ったりするワークが各アーティストによってそれぞれ用意されているのは意義深い。

教育や継承に加え、創造の面においても今回のフェスティバルには特徴がある。プログラムを見ると、オープニングにあたるオリヴィア・ビーの写真展と糸がつながるような、ダンスの創造性における視覚や空間の意味を再考する作品が目につく。ダンスは身体の動きを表現の基本とするが、その身体自体、空間や環境と不可分だ。

「踊るには床が必要なように、身体は物や空間とともにある。今回紹介するオラ・マチェイェフスカやマチルド・モニエの作品は、身体の動きと物の動き、振付芸術と造形美術の相互作用について、独自のアプローチをとっています」

ローランはそこから、キュレーターとして大事にしていることへと話をつなげた。それは、開催地によってぶれない彼の仕事の矜持のようなものかもしれない。

「私はやはり“独特”なものが好きなんです。先に挙げた作品もそうですが、たとえば今回京都と埼玉の両方で公演されるクリスチャン・リゾーの作品は、私がそれを見てから10年以上も経ちますが、私の中にずっと残っています。私はその間に何百という他の作品を見ているにもかかわらず、です。創造というのはこれまでにない個体を世に生み出す、ということで、その独自性はそれが本当に独特なものであるほど、『そこから始めさせる』ものです。芸術の力、その面白いところは、それを見て終わりではなく、それが始まりだということです」

作品は人に作用し、人を動かす。心動かされたローランは、私たちにいまそれを届けてくれている。

今回のフェスティバルは、近現代美術の最重要機関のひとつ、パリのポンピドゥー・センターで約20年にわたり上演芸術の企画を担っていた目利きが、日本のパートナーと話し合い、逸品をプログラムした。ひと口に「コンテンポラリーダンス」といっても、狭義でさえその歴史は30年に及ぶ。古強者からニューカマーまでそれぞれの“味”を堪能されたい。

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ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル/2020年に始動した、メゾンの創造性に不可欠な舞踊芸術を支援する新機軸。ダンスの創造、継承、教育を柱とする。「リフレクションズ」には反射や反映とともに内省や熟考の意味も。劇場やアーティストのサポートに加え、フェスティバルも開催する。 www.dancereflections-vancleefarpels.com

世界3都市で大きな反響を呼んだダンスフェスティバル

2022年の春にスタートした「ダンス リフレクションズ」のフェスティバル。ロンドンから香港、ニューヨークへと世界を股にかけて開催されてきたフェスティバルから、話題となったプログラムを一部紹介しよう。

London
2022年3月9日~23日

アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル『ファーズ』

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アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル●1960年、ベルギー生まれ。83年に「ローザス」を結成、95年にダンス学校P.A.R.T.S.を創設。40年以上にわたり、舞台芸術の第一線で活躍するダンサー・振付家。『ファーズ(Fase, Four Movements to the Music of Steve Reich)』は1982年の初演以来、ドゥ・ケースマイケル自身が踊り続ける代表作。今日、新たなバージョンとして他のダンサーへ引き継がれている。 photo: Anne Van Aerschot

Hong Kong
2023年5月5日~21日

カテリーナ・アンドレウ『BSTRD』

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カテリーナ・アンドレウ●1982年、ギリシャ生まれ。アテネのダンス学校を卒業後、フランス国立現代舞踊センターで研鑽を積み、パリ第8大学で振付の研究に関する修士号も取得。現在、カンパニー「BARK」を主宰し、フランスを拠点に活動。2022年よりカーン国立振付センターアソシエイトアーティスト。『BSTRD』は2018年初演、ハウスミュージックで苛烈に踊る彼女のヒット作。 photo: Mooddooyödee

New York
2023年10月19日~12月14日

ルシンダ・チャイルズ『ダンス』

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ルシンダ・チャイルズ●1940年、アメリカ生まれ。60年代にジャドソン・ダンス・シアターの一員として振付を開始。73年に自身のカンパニーをつくり、76年に『浜辺のアインシュタイン』でオビー賞を受賞。『ダンス(Dance)』は79年の初演以来、不朽の名作として息の長い上演を果たす。音楽はフィリップ・グラス、映像はソル・ルウィット、出演はリヨン・オペラ座バレエ団。 photo: Jaime Roque de la Cruz

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ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク

TEL:0120-10-1906
www.vancleefarpels.com