子どもたちに贈られた、豊かな緑に包まれる図書館「こども本の森 熊本」【今月の建築ARCHITECTURE FILE #24】

  • 文:佐藤季代
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壁面を覆う本棚には約5000冊におよぶ絵本が表紙が見えるように陳列されている。格子天井の木組みには、熊本県産のヒノキ材を使用する。 photo: Shigeo Ogawa

子どもたちに本の楽しさ、豊かさを知ってもらおうと、安藤忠雄自らが設計を手掛けた図書館を自治体に寄贈する「こども本の森」事業。安藤の地元である大阪・中之島を皮切りに、これまでに岩手、兵庫でも図書館が開館している。

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緑があふれる自然公園内に、ゆるやかな曲線で構成された細長い建物が立つ。左側にある熊本県立図書館と一体的な運営がされている。 photo: Shigeo Ogawa

この「こども本の森 熊本」は、2016年に起きた熊本地震の震災復興を願うプロジェクトの一環として計画され、24年4月に開業を迎えた。敷地は熊本市郊外の水前寺江津湖公園内に位置し、熊本県立図書館に隣接する。自然に恵まれた敷地全体を“閲覧室”として捉え、立地を活かした開放的な設計になっている。

建物は全体がゆるやかにカーブした2層吹き抜けの空間。「こども本の森」の最大の特徴でもある壁面を埋め尽くす本棚が圧巻だ。頭上には美しい木組みの格子天井が張り巡らされ、一段一段がベンチのような大階段を中心に、スロープや円形の閲覧室など、多様な読書スペースが立体的につながっている。こうした遊び心あふれる館内だけでなく、緑を望めるテラスや公園内へと自由に本を持ち出し、自然の中でじっくりと本の世界に向き合うことができる。

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幅広い世代の子どもたちが楽しめるように、テーマごとに分類された約1万冊の絵本や児童書を収蔵している。施設の利用は完全予約制。 photo: Shigeo Ogawa

 

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1階、2階ともに隣接する自然公園を望めるデッキテラスが設けられている。森の中にいるような、開放的でリラックスした雰囲気が漂う。 photo: Shigeo Ogawa

現在、「こども本の森」は国内外で複数のプロジェクトが進行するほか、瀬戸内海を運航する「船の図書館」も構想中。これからも多くの子どもたちに読書の素晴らしさを伝えていく。

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「こども本の森 熊本」では屋外にも本を持ち出して読書を楽しめる仕組みをつくっている。多様な居場所が子どもたちの感性を刺激する設計。 photo: Shigeo Ogawa

こども本の森 熊本

住所:熊本県熊本市中央区出水2-5-1
TEL:096-240-1500
開館時間:9時30分~17時
休館日:火曜日
https://kodomohonnomori.kumamoto.jp
【設計者】安藤忠雄建築研究所
代表の安藤忠雄は独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所を設立。代表作に「光の教会」「フォートワース現代美術館」など。79年日本建築学会賞(「住吉の長屋」)を皮切りに国内外で受賞多数。

※この記事はPen 2024年10月号より再編集した記事です。