芸術の秋は信濃大町へアート旅! 「北アルプス国際芸術祭2024」が開催中、その見どころは?

  • 文&写真:はろるど
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2017年から開催され、今年で3回目を迎えた「北アルプス国際芸術祭」。3000m級の北アルプスの麓に位置する長野県大町市を舞台に、市街地エリア、ダムエリア、源流エリア、東山エリア、仁科三湖エリアの5つのエリアにて、国内外の37組のアーティストによる38作品が展示されている。各エリアの一推し作品をピックアップ!

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ヨウ・ウェンフー〈游文富〉『竹の波』(2024年、八坂公民館(東山エリア))台湾に生まれ、自然素材の特性を活かしたインスタレーションを手がけるヨウ。竹と風の対話をテーマとしていて、でこぼことした壁は風が当たる様子をイメージしている。

大町のレトロな街並みを散策!市街地エリアに点在する作品とは?

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エカテリーナ・ムロムツェワ『山のくちぶえ』(商店街の空き家(市街地エリア))昨年12月に大町に約2〜3週間滞在し、日本の民話や大町の風景をリサーチしたエカテリーナ。「家の下を美しい水が流れていて、音が聞こえるのがとても魅力的」と語る。

アーケード商店街などの昭和レトロな街並みが広がる市街地エリア。日本海から塩を運ぶ千国街道の宿場町の名残りを今に伝える塩問屋の建物では、山本基が塩を用いたインスタレーションを展開。塩によって築かれた天の川が北アルプスの山々と重なるような光景を生み出している。またあちこちに水場のある大町の水の恵みに着想を得たエカテリーナ・ムロムツェワは、床下に水路が流れる空き家にて、せせらぎの音を抽象的に表現した水彩画を展示している。さらに古い土蔵では鈴木理策が、北アルプス山麓の自然を撮り下ろした写真を公開。廃校となった高校の視聴覚室では、小鷹拓郎が伝説の巨人「ダイダラボッチ」を題材としたフェイクドキュメンタリーを上映している。市民や専門家らのインタビューを交えた映像は、フェイクとはいえども、思わずダイダラボッチの存在を信じてしまうほど真に迫っている。

ダイナミックな地形と一体化。石積みのダムで見たいランドアート

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磯辺行久『北北西に進路を取れ』(2024年、七倉ダム(ダムエリア))環境と表現、エネルギー、風・水・土、社会・文化などをテーマにプロジェクトを実践中の磯辺。ダムができる前の川の流れや地形を現在の姿にオーバーレイし、直径80mのコンパスを地面に描いて、軸としてのNNW(北北西)22.5°を示している。

黒部ダムの玄関口でもあり、北アルプスの山麓に3つのダムを有する大町。自然の石積みのロックフィルダムとしては日本有数の高さを誇る七倉ダムでは、磯辺行久がダムができる前の川の流れや地形と現在の姿をリサーチし、ダム工事前の川の様子や風の流れを吹き流しによって視覚化している。ダイナミックなダムの景観を目にしながら、山から降りてくる風を感じられる地形と一体化した大規模なランドアートだ。一方で北アルプスの雪解け水や湧水が豊かな鹿島川沿いの源流エリアでは、歴史ある寺社仏閣が見られる南側に注目したい。田園に囲まれた森の中に鎮座する須沼神明社の神楽殿では、宮山香里が大地とつながる根の森と空の雲海を同時に版画として表現している。松とも浮き雲とも見えるようなイメージが、鳥居の向こうにて揺れ動く幽玄なインスタレーションといえる。---fadeinPager---

かつて麻の産地だった地域の記憶を古民家にて呼び起こす

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佐々木類『記憶の眠り』(2024年、旧中村家住宅(東山エリア))身近にある自然や気候に関心を寄せ、主にガラスを用いて制作を続ける佐々木。植物はガラス内で灰となり、放出された空気や湿気は泡となってガラスに刻まれていく。なお1698年に建築された旧中村家住宅は、年代が明らかなものとしては県内で最も古い民家で、土蔵とともに国の重要文化財に指定されている。

里山が広がり、人々の営みを色濃く残す古い集落が点在する東山エリアにも見逃せない作品が少なくない。エリア最北部、かつての麻の産地だった美麻地区に建つ築300年の旧中村家住宅では、佐々木類が麻を用いたインスタレーションを建物の内外にて展開。また馬屋では大町にあった水力発電所の建築事務所の古い窓ガラスへ、麻畑だった場所にて採取した植物を挟んで焼いた作品を展示している。大町の土地の記憶を持つ植物が、ガラスの中にタイムカプセルのように保存されるという。田んぼに囲まれた屋内のゲートボール場では、ソ・ミンジョンが雪の表面に倒れた木を思わせるインスタレーションを公開。炭化された大木と熱で溶けた発泡スチロールという自然と人工物の対比によって、自然と人間の関係を問いかけている。

仁科神明宮に隣接する森の中に出現した巨大な絵画作品とは?

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イアン・ケア『相阿弥プロジェクト モノクロームー大町』(2024年、仁科神明宮奥・眺望と散策の森(東山エリア))ロンドンにて生まれ、建築模型や水彩、素描、オブジェクトなどを組み合わせた作品を制作するイアン。2点の巨大な絵画が吊るされていて、作品の間を歩きながら、絶えず変化する風景を体験できる。足元が不安定のため、履き慣れたスニーカーなどで鑑賞するのがおすすめ。

南北に長い東山エリアの南側に位置する八坂公民館を舞台とした、ヨウ・ウェンフーの竹を用いた大規模なインスタレーションが芸術祭のハイライトを飾っている。ここでヨウはドーム型の屋根がユニークな公民館を舞台に、竹と風、そして地元の住民との協働を表現するプロジェクトを展開。地元の竹を骨組みに、台湾からもってきた竹を編み込んで建物をぐるりと囲み込んでいる。緑豊かな里山を借景に、波打つ竹細工が黄金色に染まる姿はまさに絶景だ。さらにエリア最南部、日本最古の神明造を有する仁科神明宮に隣接する森では、イアン・ケアが高さ20メートルにも及ぶ水墨画を思わせる黒い絵画を木々の間に吊るしている。イアンは相阿弥にインスピレーションを受け、和紙を水彩の塗料で染めた本作を手がけたというが、ばたばたと音を立てて風に揺られる様子を前にしていると、巨大な森の精霊と対面しているような錯覚にさえ囚われる。

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日本の原風景を感じながら、広大なエリアに点在するアート作品を巡ろう

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ケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレット『ささやきは嵐の目のなかに』 2024年 仁科神社北の森(仁科三湖エリア) 2010年からカナダを拠点に活動するアーティスト・ユニット。30人のボランティアとともに、リサイクルした眼鏡のレンズを用いて制作された。作品の中へと入って、椅子に座りながら、レンズ越しの景色を楽しむこともできる。

仁科三湖エリアでは、木崎湖畔に佇む仁科神社北の森にてケイトリン・RC・ブラウン&ウェイン・ギャレットが、約14000個の眼鏡のレンズを用いた光学インスタレーションを公開。雨粒のシャワーように広がるレンズを通して湖畔の景色を楽しめる。また中綱湖に近いふるさと創造館ラーバンレンズにて展示を行う蠣崎誓とコタケマンも、それぞれ大町の植物の種や土などを素材にした作品を見せているほか、同施設2階の「カフェ&レストランYAMANBA」では、地元の旬の食材をふんだんに使った食事をYAMANBAガールズのもてなしで賞味できる。総合ディレクターの北川フラムが「日本の原風景が広がっている」と語り、「山の自然と人間の生活が浸透しあう美しい土地」とする大町。広大なエリアに点在するアート作品を巡りながら、清らかな雪解け水や澄みわたる空気、そして豊かな自然と地域に根差した人々の暮らし、また風土を表す食文化を体感したい。

『北アルプス国際芸術祭2024』

開催場所:長野県大町市
開催期間:開催中~11月4日(月・祝)※水曜定休
https://shinano-omachi.jp/