いま必要な調理道具とは?食のプロがレシピとともに考察 【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】『現代調理道具論 おいしさ・美しさ・楽しさを最大化する』

  • 文:印南敦史(作家/書評家
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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『現代調理道具論 おいしさ・美しさ・楽しさを最大化する』

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稲田俊輔 著 講談社 ¥1,760

著者の名を聞いて思い出すのは、南インド料理店「エリックサウス」総料理長という肩書ではないだろうか。だが実際には和食やフレンチ、洋食など、多彩なジャンルの店舗プロデュースや、メニュー監修なども行っている。つまりカレーは活動の一部で、視野は料理全般に向けられているのだ。そう考えると、本書でいま必要な調理道具を取り上げていることにも納得がいくだろう。

しかも単なる道具紹介ではなく、重視しているのは道具を使って「最短ルートで最高の結果」を得ること。ホットクックからストウブ、しりしり、100均グッズまで、機能性やデザイン性の高さ、個人的な思いなど各道具を多角的に考察。「最高の結果」に求められるべき「おいしさ」を再認識しようと試みているのである。

たとえば、「フライパンは20cmでいい」という項では、煮物などは一度にたくさんつくるとおいしいという“常識”に疑問を投げかけ、「調味料を正確に計量し、水分を調整し、適切なサイズの鍋を選べば、たくさんつくるのと同じ味は再現できます」と根拠を主張する。そのフライパン論のあとにはワンパンで完成するスパイスダシキーマカレーのレシピをカラー写真付きで掲載し、道具の利便性を活かした具体例を示している。各道具の項がそうした順序で進められるため、読者は道具がそこにある理由を実感できるのだ。

出来合いの食べ物の質が上がった現代は、料理をしなくてもいい時代である。だからこそ、家で料理をすることを大事にしたいのだと著者は言う。ただし料理には手間がかかるので、手間を省き、作業を効率化し、使えるものはなんでも使うという発想が求められる。本書で調理道具に焦点を当てているのには、そうした理由もあるのだ。

※この記事はPen 2024年10月号より再編集した記事です。