工芸、アート、食が織りなす芸術祭『GO FOR KOGEI 2024』が開催中。注目スポットを紹介!

  • 文&写真:はろるど
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北陸から工芸の魅力を発信する新しい感覚の芸術祭『GO FOR KOGEI』。今年は昨年に引き続く岩瀬エリア(富山市)へ新たに東山エリア(金沢市)が加わり、「くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの」をテーマにして、総勢37名(15名+4組)のアーティストらが展示やイベントを繰り広げている。今回の注目したいスポットを紹介する。

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「桝田酒造店 満寿泉」(岩瀬エリア)より、葉山有樹《双竜》2023年。昨年からの継続展示として葉山有樹の《双竜》が酒蔵の扉を飾っている。また建物内部では舘鼻則孝がヒールレスシューズや、雷や雲の図柄をモチーフとしたインスタレーションを展示。

工芸と暮らしが結びつく。東山エリアで見たい展示とは?

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「LOCOLOCO HIGASHI 204号」(東山エリア)より、八木隆裕(開化堂)《Recreate Caddy》。初代から続く手作りの手法を守り続け、へこみや歪みが生じても修理して使い続けられる茶筒を手がける八木。近年はこの技術を応用し、捨てられる缶をリメイクした缶作りに挑戦している。

石畳の道に古い町家が建ち並ぶ「ひがし茶屋街」を擁する東山エリア。金沢を代表する観光地として知られる地域の裏手には、かつて職人らが軒を連ね、今でも隠れ家的なギャラリーが点在するなど、工芸と暮らしが結びついた光景が垣間見られる。約150年にわたって茶筒を作り続ける開化堂の6代目当主、八木隆裕は、現存する最も古い110年前の茶筒と現代の茶筒を並べて紹介。あわせて古いオイル缶といった工業製品を茶筒としてリメイクした作品を展示している。またカトラリーや食器の制作を行う竹俣勇壱は、建築家の鬼木孝一郎とコラボ。真鍮やステンレスなどのケトルや椅子を公開し、スタイリッシュでありながら、思いがけないほど表情豊かな金属のある暮らしを体感できる。---fadeinPager---

地震で被害を受けた輪島塗の再生への思い。「KAI 離」にも注目!

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「KAI 離」(東山エリア)から、三浦史朗+宴KAI プロジェクト 展示風景。2階建て茶室の2階部分。通常は非公開で、特別に招かれたゲストに食事やお茶を振る舞う場として使われてきた。今回のプロジェクトにて初めて道具や室礼などが広く公開されている。

能登半島地震で大きな被害を受けた輪島塗の再生への願いを込めて制作するのが、1988年から輪島へ移り住み、漆芸家として活動する赤木明登だ。赤木は輪島塗の椀を作るための荒型や、使われなくなった椀を入れるための古い木箱を積み重ねつつ、自ら制作した蒔絵の水瓶や大谷桃子の浄土を連想させる蓮の絵を掲げ、祈りを誘うような空間を築いている。また東山エリアでは最も市街地から離れた、「KAI 離」と呼ばれる展示施設にも足を運びたい。普段は建築家の三浦史朗と工芸の職人たちの作品を収めるプライベートな場所だが、今回は特別に公開し、木製の風呂や二階建ての茶室、さらに白い布に覆われた待合などを見学できる。会期中、室町時代に流行した「淋汗茶湯」から着想され、気軽にお茶を一服できる振る舞いや、入浴や食事を伴う宴席まで開かれるからぜひ参加したい。

レトロな街並みでも人気! 岩瀬エリアで展開する工芸とアート

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「Aka Bar」(岩瀬エリア)より、五月女晴佳《Bondage》2020年。朱色の漆は古くから食器や家具などに使われ、特別な場所や祝いの場を象徴する色であったが、五月女にとって赤は血液の色であり、「生」の色であるという。なお五月女は、同じく岩瀬エリアのAo Barでも作品を展示している。

富山駅から富山港線(路面電車)で約20分。北前船の寄港地として栄え、廻船問屋の建物や土蔵の残るレトロな街並みで近年人気を集めるのが、富山港に面した港町の岩瀬エリアだ。ここでは工芸と現代アートのサイトスペシフィックな作品が展示され、風情ある街を回遊しながら芸術祭を楽しめる。まず精米のための倉庫では、織物の技法を用いた布作品を手がける石渡結が、自らの身体などをモチーフとした巨大な織物のオブジェを公開。一方で漆を素材とした作品を制作する五月女晴佳は、蔵の中に作られたバーに赤い唇の立体作品を展示し、人間の欲望の根底にあるという生の象徴を表現している。糸や漆といった伝統的な素材を使いながらも、旧来の工芸の枠を超えたような作品が多く見られるのも『GO FOR KOGEI』の魅力だろう。

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金属、ガラスを素材とした器などから工芸の多様性を知る

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「New An」(岩瀬エリア)より外山和洋の作品展示風景(手前)。右上には安田泰三によるカラフルなガラスの器の作品が見える。

長らく蕎麦屋や家具屋として営まれていた町家「New An」では、磯谷博史、澤田健勝、釋永岳、外山和洋、安田泰三の5名の展示が行われている。このうち外山は素焼きの陶器の外側に金属のコーティングを施し、最終的に剥がした型の部分を作品として作り上げ、皮膚のように薄く、また繊細で、はかなさも感じさせるような独特の質感表現を浮かび上がらせている。この他にもヴェネチアン・テクニックと呼ばれる高度な吹きガラスの技法を用いた安田のカラフルな器や、2006年より岩瀬で工房を開き、表面を削り取るという彫刻的な技法を用いながら、レストランでも使われる実用性を兼ね備えた釋永の器も見逃せない。いずれも今年度のテーマである「くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの」を体現しながら、作家の手仕事の跡が見られるような作品といえる。

街歩きから「食」でも楽しみたい『GO FOR KOGEI』

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「桝田酒造店 沙石」(岩瀬エリア)より、柿沼康二《ぶちぬく》2024年。『GO FOR KOGEI』のロゴ入りお猪口にて利き酒が体験できる。なお伝統的な書とアートの融合を図る柿沼は、近年、幅の異なるマスキングテープを勢いよく引き出し、そのまま文字を書くという「テープワーク」と呼ぶパフォーマンスを展開している。

地域の食文化や暮らしと、工芸、アートが溶け込むのも『GO FOR KOGEI』の大きな特徴だ。東山エリアの台湾料理レストラン「四知堂」では、木工作家の川合優がオーナーの塚本美樹とコラボし、針葉樹を薄くスライスした経木を蓮の花の形にしたリサイクル可能な皿にて軽食を賞味できる。一方、銘酒「満寿泉」で知られる桝田酒造店も会場の岩瀬エリアでは、お酒がいわば芸術祭のパートナー。KOBO Brew Pubでは舘鼻則孝の絵画を眺めながら、チェコスタイルのクラフトビールを味わえるほか、桝田酒造店直営の沙石では、書家の柿沼康二による書の展示に加え、柿沼の手がけたオリジナルロゴ入りのお猪口にて約100種類ものお酒の利き酒が体験できる。東山エリアと岩瀬エリアともに、歩いて回れる範囲に展示スポットが点在する『GO FOR KOGEI』。この秋は北陸にて、歴史ある街並みを肌で感じながら、最新の工芸とアート+食のセッションを楽しみたい。

『GO FOR KOGEI 2024 くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの』 

開催場所:富山県富山市(岩瀬エリア)、石川県金沢市(東山エリア)
開催期間:開催中〜2024年10月20日(日)
https://goforkogei.com/