復刻→即完売の「スピードキャット」、プーマの生き字引が語るレーシングシューズの歴史と秘密とは!?【着る/知る Vol.183】

  • 写真・文:一史
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2024年6月に赤と黒のスエード素材「スピードキャット」復刻版が発売されるや、瞬く間に大ブレイク。キャンペーンに登場したブラックピンクのロゼの宣伝効果も大きいようだが、流行のボリュームスニーカーの真逆を行くスマートなフォルムに魅了された人が多かったのだろう。スピードキャットはカーレーサーが履くプロユース品から派生したスニーカー。細いフォルムは狭いコクピットで活動する用途から生まれたものだ。
今回はプーマ ジャパンの協力のもとに、新たに加わった秋冬新作とルーツになった歴史的なレーシングシューズをたっぷりとお見せする。「プーマの生き字引」と言われるプーマ ジャパンの野崎兵輔さんによる解説つきだ。目からウロコのレーシングシューズのストーリーは必見!

新作白レザーの「スピードキャット LTH」

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上下の2色ともにアッパーは白レザー。ドライビングタイプの「スピードキャット LTH 」。ともに¥14,300

現在完売中の赤と黒のスエードモデルの正式名は「スピードキャット OG」。秋冬の新作となる白レザーモデルは「スピードキャット LTH」だ。街歩きはもちろん、ライトなドライビングにもぴったりの構造。車のペダルを踏むためにアウトソールのヒールが上に反り上がり、つま先は動作に干渉しないように丸くつくられている。実はプロレーサーが履く「スピードキャット プロ」はこのつま先がさらに入念に仕立てられているのだが、プロユース品の巧みな工夫については記事の後半でご覧いただこう。

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アウトソールのヒールが大きく上に張り出し、ペダルをグリップするドライビング仕様。
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サイドマークがシルバーのモデルは、アウトソールもアッパーと同色の白。

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燃えたらNG!カーレーサーの命を守るシューズ

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歴史的に貴重なアーカイブの数々と、プーマ ジャパンの野崎さん。

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最小限のつくりによる軽量化、熱を持つ金属や燃え広がる素材を使わない耐燃性などに配慮された本物レーシングシュース。

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タウンユース向け復刻版を手に、スピードキャットの歴史を語る野崎さん。

ここに掲載するのはプーマ ジャパンが所蔵するスピードキャットのプロユース品であるスピードキャット プロ。1984年に誕生したレーシングシューズがオリジンだ。モータースポーツの興隆とともに1999年に、タウン用にアレンジされたスピードキャットが世界初登場。野崎さんによると当時の日本ではすぐに人気を呼んだのではないらしい。
「日本で展開されたのが2001年で、街中で見かけるようになったのが2003〜04年ほどと記憶しています。その後人気になるのですが、男性のファッションでイタリア系のスリムな服装が流行したことと深く関わっています。当時のクロップド丈の細いパンツとスピードキャットとは相性がよかったので。大人が履くスピードキャットの人気は、この服装のブームが落ち着く2009年頃まで続きました」

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1984年に誕生した初代のレーシングシューズ。その後余計な補強を省き、さらなる軽量化が図られ進化していった。

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大昔の運動靴……かと思いきや、実は2016〜18年の近代モデル。

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ヒールとインソールをカーボンで補強。大きなプーマのロゴプリントは、弱いアッパーを補強する役割も兼ねている。

レーサーのためにつくられたスピードキャット プロのアーカイブを眺めて驚いたのは、20世紀初頭のビンテージのようなコットン製が混じっていたこと。なんと2016年からの近代シューズということだ。
「レーシングシューズはとにかく軽量でなければなりません。さらに重要なのが、コクピット内で燃え広がらない素材しか使えないこと。紐を通す箇所には熱くなる金属のハトメさえも使わないのです。基本的には天然由来の素材だけです。アッパーにコットンを採用したのは、2015年頃にプーマの本国で『バック・トゥ・ベーシック』の動きが生まれたとき。レザー以外の素材が研究されたようです」
アッパーは素朴なコットンでも、ヒールカウンターやインソールの素材はハイテクなカーボン。カーボン(炭素繊維)は難燃性で一気に燃え広がることがない。なによりもドライバーの安全を確保することがレーシングシューズに求められる必須条件なのだ。

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2023年のレザーモデル。レザーでも極薄の仕上がりだ。

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2018年のコットンモデル。ファションスニーカーと見間違うスタイリッシュさ。
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ハトメに金属を使わず、インナーも天然素材。軽量化と燃え広がらない実用性とを満たしている。つま先を切り返して接合した丁寧な仕立ても、カーレーサーが求める繊細な動きに対応させたもの。

年代を追うごとに、レザー→コットン→レザー→コットンとアッパー素材が繰り返し切り替わるのが面白い。ドライバーの意見を聞きつつ試行錯誤しながら開発している様子が目に浮かぶようだ。
「プーマは昔から『Special Shoes』としてプロ向けの特製シューズを手掛けてきました。1985年のカタログを見ると、高跳び用、三段跳び用、槍投げ用、射撃選手用、パラシュート降下用などの専門性の高いシューズが掲載されています。F1レースではプーマはフェラーリと関係性が深く、2024年に互いの付き合いから20周年を迎えました。プーマがモータースポーツのカルチャーを大切にする思いはこれからも続いていくでしょう」

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スピードキャットはどこに向かうか

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2001年のプーマ ジャパンのカタログ。このときスピードキャットの街履きモデルが日本初上陸。

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当時のカタログ写真と見比べると、オリジナルになかったキャットマークが復刻版のトゥに追加されたことがわかる。

今年の初回復刻で完売した赤と黒のスピードキャット OGを入手できなかった人に朗報がある。これらは限定品ではないということだ。一時的に在庫がなくなったとしても、また補充される可能性がある。秋冬に加わった白レザーの2色はシーズナルモデルであり完売しだい終了の予定だが、2色のスエードモデルはレギュラー展開される。野崎さんが「わたし個人の考えですが」と前置きしてプーマの販売方法を話してくれた。
「スピードキャット OGを買ってくださったお客様が、履き込んで新しく買い替えたくなったときに手に入らないと悲しいじゃないですか。スピードキャットにもシーズナルモデルはありますが、レギュラー品を主軸に商売していくのが正しいやり方のように思っています」

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プーマ勤続29年の野崎さん。素人にもわかりやすい軽妙な語り口でプーマの魅力を伝えるスニーカー界の重鎮。

派手でボリューミーなスニーカーが席巻する市場に、カウンターカルチャーのごとく一石を投じたスピードキャット。男性だけでなく若い女性たちに支持されていることもこのモデルの個性のひとつ。へそ出しトップスでショートパンツ姿の彼女たちの足元には、確かにこのスマートなシューズが似合う。カーレースという男性的な世界を、女性とシェアする新感覚のスニーカーカルチャー。この一足から次なる新しいファッションシーンが生まれてくるかもしれない。

PUMA公式サイト

https://jp.puma.com/jp/ja

 

 

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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