【東京クルマ日記〜いっそこのままクルマれたい〜】第206回昨日の自分を超えるクールネス !? カリスマだけに許された未体験のネクストステージ

  • 写真&文:青木雄介
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軽量化とともにエアロダイナミズムやエンジンなど全方向的な進化を遂げた。

先代「マクラーレン 720S」シリーズは傑作だった。速く走ること以外眼中にないグレイハウンド(レース競技犬)のような研ぎ澄まされたドライバビリティとあいまって、スーパーカーにおけるハイエンドの定義を拡張させ、アートの領域にまで到達させた。

その唯一無二のクールネスを偉大なるロックスターでたとえればデヴィッド・ボウイだね。傑出した才能で音楽のみならず映画やファッション、芸術にまで浸透。同時代を生きれば影響を受けずにいられないのに、絶対マネできないカリスマですよ。

それを超える新型が「750S」シリーズ。今回はオープンモデルのスパイダーに乗ったけど、相変わらずため息が出るほど速い。公道走行でさえ、さらに限界が広がったのがわかるし、ストイックな求道者の趣を強めている。

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ステアリングコラムにドライブモードの切り替えスイッチを配した。

マクラーレンの求道とはなにか? まず「720S」より30㎏軽量化し、オプションの選択次第では車重1.3トンを切ることもできる“ライトウェイトこそ我が命”ですよ。エンジンは「720S」のハードコアモデル「765LT」と同じ軽量ピストン。最終減速比を15%カット、ターボのブースト圧もアルティメットシリーズの「マクラーレン セナ」と同程度まで上げた。より強力なターボパワーと機敏なシフトマナーで中低速の加速を強化。それでいて高回転でよく伸びるので、フラットな印象だった先代のエンジンに比べ、走行性能を高めながらもエモーショナルになっている。

新型はこのエモーショナルさをサウンドトラックとしてドライバーシートで体感できるのがミソ。オープンならではの臨場感も加わり、骨太な排気音や大型ターボのタービン音、さらにはミッションやブレーキの制動音といったメカニカルノイズが五感を刺激。クルマを操作する直感を高める。

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バウワース&ウィルキンスとの共同開発によるスピーカー。

もともとマクラーレンらしい脳幹に直接接続しているようなきわめて高い運動性能があり、さらにステアリングと聴覚情報の解像度を上げることで没入度が高まった。その点はポルシェの現行911(992型)のモデルチェンジとよく似ている。臨場感が最高なのは言うまでもないけど、大きな理由はより速く走るため。

いわゆる“乗れてる”状態の時は、エンジンのエキゾーストノートと制動のバックファイヤーの音像がひとつ前に出てきて、フォーミュラカーで攻めている感覚になるのね。乗れてるか乗れてないかを意識できて、より乗れてる状態に促される。これを体験しちゃうと恋でもしたようにサーキットコースへ行きたくなる(笑)

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拡大されたリアデッキとリアウィングが中央のエキゾーストエンドを強調。

自慢の油圧サスペンションはこのクルマでも健在。ただドライブモードをサーキット用の「トラック」にすると一般道ではかなり跳ねる。でもね、通常の「コンフォート」モードでもワインディングぐらいなら普通にこなせちゃう。というか、フレームの存在感が際立つしなやかな走りになる。

速いクルマを求めてマクラーレンにしたけど、ロングドライブが増えたオーナーは多そう。「750S」はそんなファンの声をカタチにして、エントリーモデルのレンジもぐっと広げたと思う。普段乗りからサーキットまで、カリスマに死角なしだね。

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油圧リンク式サスペンションも改良。俊敏性とフィードバックがさらに向上した。

マクラーレン 750S スパイダー

全長×全幅×全高:4,569×1,930×1,196㎜
エンジン:V型8気筒ツインターボ
排気量:3,994㏄
最高出力:750hp/7,500rpm
最大トルク:800Nm/5,500rpm
駆動方式:MR(ミドシップ後輪駆動)
車両価格:¥43,000,000
問い合わせ先/マクラーレン オートモーティブ
cars.mclaren.com/jp-ja

※この記事はPen 2024年10月号より再編集した記事です。