2017年にスタートし、その1年に活躍をしたクリエイターをたたえる「Pen クリエイター・アワード」。その連動企画として、若手クリエイターやクリエイターを志す人を対象とした作品公募×ワークショップのプロジェクト「NEXT 」を展開。今年はアニメーション部門、Webtoon部門、縦型ショートドラマ部門も開催している。
今回はそのひとつ、タイポグラフィによるポスターのコンペ×ワークショップで選ばれた作品を紹介する。
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なぜタイポグラフィをお題に? 今回のデザインに求めたこと
日本のトップクリエイターたちが手掛けるオリジナルポスターを販売するECサイト「POSTERS」の協力のもと行われたこの企画。メンターはPOSTERSのメンバーでもあるキギの植原亮輔さん。同じくPOSTERSに名を連ねる髙田唯さんもゲスト審査員として参加してくれた。
「AからZ、すべてのアルファベットを使ったタイポグラフィ」をお題に、「部屋に飾りたくなるポスター」を募集。200作品以上の応募のなかから、12人の参加者が集まり、最優秀賞1点と優秀賞4点(うち2作品が植原賞と髙田賞)が選ばれた。
今回の企画について、植原亮輔さんはこうコメントする。
「タイポグラフィはフォントを素材としてデザインされたもののこと。一般的にフォントにはルールがあり整っていることが大前提ですが、思い切ったデザインをしてみると、フォントの限界値が見えてくる。一見、『A』に見えないかたちも、AからZまで揃っていると『A』に見えてきたり⋯⋯。また平面的なグラフィックだけではなく、空間の中に表現したタイポグラフィーをポスターにしてみるなど、可能性は限りなくあります」
見る人に既存のルールの限界を考えさせる、面白く美しいポスターとはなにか。
さらに今回の最優秀、優秀賞はインテリアショップのACTUS丸の内店で展示を行う。グラフィックの面白さと合わせて、インテリアとの調和や「部屋に置きたいか」という視点ももちろん重要だ。
では参加者の作品を紹介していこう。
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鈴木竣介 「文字を操る者の視点」/優秀賞
アルファベットを立体にして、さらに上から見たところを表現したというひねりの効いたデザインをつくった鈴木さん。初見からすごくいいと思っていたという髙田さんは「タイポグラフィのポスターとしてはほぼ成立しないのだけれど、何か感じるものがあるし、インテリアとの相性も良さそうですね。パッと見て全然文字じゃないので、なぜだろう?と解読したくなる気持ちが出てきて、見つけられたときの喜びもある。真っ白い紙にプリントされることも計算されていて、地色をちょっとグレーっぽくしてテクスチャーがあるのもいいと思いました」と評した。
豊島森林
「豊島森林」というユニットで活動している中国出身のふたりによる作品。イラストの部分とフォントの部分を分けて担当した。「暇」という漢字をバラバラにして構成したという謎解きのような遊び心あふれるデザインだ。
小森香乃
応募の時点でふたつの作品が選ばれた小森さん。ひとつめの作品は、言葉や文字があることで意思疎通ができるという便利さの一方で、言葉以上のことが伝わらないという矛盾したもどかしさを表現している。
小森香乃「交信」/優秀賞(植原賞)
こちらも小森さんによるコミュニケーションをテーマにした作品で、タイトルは「交信」。フォントを3DCGでモデリングし、声を震わせたようなゆらぎを加えている。自分ではやらないからか、ブレンダーを使ったデザインが気になってしまうという植原さん。「実はこれから右脳の時代が来るぞって思っているんだけど、 そういう意味でも右脳で感じるよね。技術的にも面白い手法だし、色が綺麗。同じぐらいの明度でああいう綺麗な色を出すっていうのは結構難しいと思います」
竹中実玖
アルファベットの1文字1文字を猫の顔の顔に見立てた、可愛いらしいポスターをデザインした竹中さん。自分の部屋に置いたときのことを想定してあえてシンプルな白黒で仕上げた。
金子義幸「たいぷフェイス」
アルファベットの一文字一文字をキャラクターに見立てたユニークなデザイン。見る人が想像しないとアルファベットに見えない、だけれども26体が揃うことでアルファベットに見えてくるという。千客万来の意味を込めて中央に富士山を配置した。髙田さんは「タイプフェイスは“字面”とも言いますが、まさに文字一つづつに表情があって楽しいですね」、植原さんは「この人とこの人は友達なのかなとか、ひとりひとりに関係性がありそうで、思わず見てしまいますね」とコメント。
浅井ひとみ「Nora | 野良」/優秀賞
当日は自分で出力し額装した作品を持参した浅井さんは、植物をイメージしタイポグラフィに落とし込んだ。見る人が日常を過ごすなかで、葉っぱに見えたり木に見えたりと自由に感じてほしいという。折り紙をスキャンし制作された。「植物だったりインテリアとの相性も良さそうです。正直そういう意味では謎が少ない。ストイックなデザインのコンペティションではもしかしたら落選してしまうかもしれませんが、今回のお題は部屋に飾りたいということなので、ピッタリだと思います」と髙田さん。一方で植原さん「鈴木竣介さんのポスターとは真逆のアプローチ。文字にも人格があると思わせてくれるようなポスターだなと。読めるような、読めないような、絵にも見えてくる。文字って、見れば見るほどちょっと顔に見えてきたりと、文字の面白さを表現しています。忘れかけていた、のびのび感もありますね」とコメント。
ミウラユウタ
夏休みのイメージからプールをモチーフにして制作された。水面に文字が隠れている。グリット上に文字を配置し、上下左右の文字のつながりを意識しながら設計したという。「まずデザインのレベルが高いなと思いました。水面の雰囲気もきちんと研究していますね」(髙田さん)、「上下ずれている飛び込み台のような余白が気になる存在。謎めいた印象も面白い」(植原さん)。
佐藤 雄
自然と人工物をモチーフにつくられたデザイン。デジタルとアナログ(手描き)を混在させながら、のびのびと描いたという作品だ。「ちょっと白い部分が多いように感じましたが、印刷の具合もあるかもしれないですね」と植原さん。
加藤綾羽
部屋に飾りたくなる、というテーマからまずイメージしたのは「自然」。自然に触れるとほっと心が安らぐ。それを表現することを目指し、より要素を削ぎ落としたどり着いた着いたのが、「水」だったという。水が刻一刻と変化する雰囲気を、「文字として読める・読めない」の狭間を狙った、ゆらぎのある文字で表現した。
荒井大輝「あぶく ベタ」/優秀賞(髙田賞)
自分の部屋に飾るのならば、かっこいいポスターもいいけれど、子どもが描いた落書きみたいなものがあってもいいのではという発想から制作をはじめた荒井さん。ひらがなやカタカナの文字一つひとつの構成を解釈し直し、崩した文字で構成されている。いい意味で“生っぽい”と評する植原さんは「プロっぽくないなと思ったら、まだ学生なんだよね。不思議な魅力がありますよ」。プレゼンを聞く前から気になっていたという髙田さんは「感覚的につくっていると思っていましたが、実は平仮名と片仮名の印象から、ABCに近づけていっているという理論があることに個人的にはぐっときちゃったんですよね。画数のところで色を変えたりっていう、実はめちゃくちゃルールがあるのがいいですね」
tysy
まず自分の部屋に飾るならばパターンのようなデザインがいいのではと考えたというtysyさん。アルファベットをデフォルメし、ひとつの枠の中で隙間なく敷き詰めながら全体としてまとまりのある形にしたという。文字それぞれの個性を出しつつ、全体のまとまりも考えられた作品だ。
道木ジェイミー「Poster of Typeface “ Rei ”」/最優秀賞
タイプデザイナーであるという道木さん。「レイ」と名付けた書体で構成されている。この書体はコム・デ・ギャルソンのデザイナー、川久保玲にインスパイアされたもの。川久保の反骨精神やパンクといった概念を書体にに落とし込みたかったという。初見ではあまり評価していなかったという植原さんだが、「ギャルソンの服のテクスチャーの雰囲気を感じますね。近くで見たり離れてみたりすると印象が変わって、見れば見るほど良さが伝わってくる。ディティールの面白さ、文字を作る面白さが伝わってきました」。髙田さんは「道木さんの作品はレベルが高く、タイポグラフィ自体も本当にユニークで使ってみたいですね。彼のプレゼンテーションを聞いて、さらによく見えるようになりましたね」。
最後に、髙田さんは今回のプレゼンテーションについて振り返った。「皆さんにプレゼンテーションしていただいて、第一印象とプレゼンテーション後の印象とで、受け取り方が変わる部分があって。改めてプレゼンテーションって本当に重要なんだというのを皆さんから教えていただきました。背景を知ると、コクというか旨味を食べられた気がして、よりその料理が美味しくなる。僕、多分デザインで感じたいのってそういうところなんですよね。最初の印象ももちろん大切にはしているんですけれども、話を聞くと思いがけないストーリーが潜んでいることもあるのでずっと味わい続けられる。まさに今回の最優秀賞は、そのストーリー性もユニークで、かつ美しく、申し分ない作品でした」