この内容とデザインならば、海外でもすぐに販売できるだろう。 ビズビムがつくった『Subsequence』に、雑誌のあるべき姿を見た

  • 文:小暮昌弘
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『Pen』でもお馴染み、海外からも高い評価を得ているブランド、ビズビムを運営するキュビズムが手掛ける『Subsequence(サブシークエンス)』という雑誌をご存知だろうか? 『Subsequence』のタグラインは「Arts & Crafts for the Ages of Eclectic」。意味は「折衷時代のアーツ&クラフツ」と聞く。世代、性別、国籍などにとらわれることなく、世界中の工芸や文化にまつわる話題を幅広く取り上げ、編集制作にも国内外のスタッフが参加するという同社の実験的なプロジェクトだ。総ページ数も150ページを超え、海外でも販売することも想定して日英バイリンガルのページ構成(そういえば、80年代に同様のコンセプトで出版された『オールライト』という雑誌があった)。この形式の雑誌を年2回発行されていると聞けば、長く編集者を送ってきた自分としては、こういうやり方もあるだろうなと納得する、素晴らしい内容とデザインの雑誌だ。

先日、東京・神宮前にあるカフェを訪れた。カウンター下のお客用の雑誌置き場に『Subsequence』のバックナンバーが何冊か置かれているのを一緒に行ったスタイリストが教えてくれた。誤解を恐れずに言えば、このカフェは初老の夫婦と思われるというふたりがやられている昭和なビルの1階にある言わば隠れ家的なカフェだ。どうしてここに『Subsequence』が置かれているだろうか? 少し不思議な感じも受けたが、ここはファッション業界の人も訪れることが多い場所でもある。誰かが持ち込んだのであろうか。あるいはふたりがあえてこの雑誌を選んだのだろうか。今度伺ったときには、ぜひ聞いてみたいとも思ってしまったが、静かな時間が流れる古びたカフェで『Subsequence』を見ると、また違った雑誌にも見えてくる。

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10数年前に私が購入したビズビムのダックブーツ。アウトドアの名品ブーツの意匠を残しながらも、スニーカーのようなソールで快適な履き心地。考えてみれば、この靴は現代のハイブリッドシューズの先駆けとなるデザインではないか。他にもマウンテンブーツなどを購入したが、現在現役で履いているのはこのブーツだけになってしまった。迷って買わなかったモカシンがあり、それはいまだに後悔している(笑)。

私がビズビムに出合ったのはずいぶん前のことだ。原宿のとある店でビズビムの靴を見つけたのが始まりだ。アメリカの名品、L.L.ビーンの「メイン・ハンティング・シュー」に似たいわゆるダックブーツで、ソールがスニーカーのソールに似た高いクッション性を持ったタイプ。一目で気に入って購入したが、気にいるとすぐにほかのものも欲しくなるのは編集者の常。同じ原宿の裏手に「F.I.L.」と呼ばれるビズビムの旗艦店があることを知り、すぐに探検に出掛けた。さらにはブランドのこと、デザイナーである中村ヒロキさんのことが知りたくなり、取材をお願いし、インタビューさせてもらった。もちろん『Subsequence』も何冊か読ませていただいたことがある。

そんな『Subsequence』のVol.7を完成させたという連絡をいただいた。前号からおよそ10カ月あまり、待ち望んでいたファンも多いだろう。

今号のテーマは「Remember?」。特集では、ミッドセンチュリー期のアメリカ・カリフォルニア州の忘れられた陶芸家、メキシコのフォークアートを愛し記録し続けた女性、フランス中南部で農具コレクションを受け継ぐ家族などが取材されている。その他、中村ヒロキとある東京の古民家を巡るストーリーやカリフォルニアの小さくも魅力的な町、カーメル・バイ・ザ・シー、アメリカのブランド、クリティーナ・キムがデザインするドーサや彫刻家ラファエル・ザルカの創作の原点を探る現地取材記事など、とてもとても充実した内容だ。カーメル・バイ・ザ・シーは昔クリント・イーストウッドが市長を務めていたこともある、カリフォルニアの風光明媚な小さな町。私も21歳の時、初めての海外旅行で訪れた町なので、興味深く拝読した。

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韓国を訪れ、「dosa(ドーサ)」のデザイナー、クリスティーナ・キムにインタビューしている記事。ドーサは服を何度かみたことがあり、アメリカのブランドとばかり思っていたら、韓国出身だと、この記事を読んで知った。雑誌の中面はキュビズムに許可を取って紹介している(以下同)。

 

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カリフォルニアのカーメル・バイ・ザ・シーを取材した記事。いまの世代の人たちにはわからないかもしれないが、イエローページ(アメリカの電話帳)のような色合い。誌面を横にして使うレイアウトは私も以前所属していた雑誌で必ず読まれるからと編集長を説得して、やったことがある。印刷所からは嫌がられた記憶がある(笑)。

 

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イギリス出身の写真家、サミュエル・ブラッドリーとイギリスを拠点に活躍するスタイリスト、スティーヴン・マンによるファッションシューティング。動物、大道具や小道具など、撮影はさぞや時間もかかり、大変だったのではないだろうか。この写真などが中目黒のギャラリーで購入することができる。

『Subsequence』vol.7刊行を記念して、9月7日から16日まで、中目黒のVISVIM GENERAL STORE / VISVIM GALLERY」にて、イベントも開催、同誌のディレクションによって選びぬかれた古今東西のアート&クラフトを期間限定で展示・販売する。今回は創刊号からビズビムとウィメンズラインのWMVのファッションページを制作しているフォトグラファーのサミュエル・ブラッドリーとスタイリストのスティーヴン・マンの協力のもと、これまで本誌に掲載してきた写真を中心にアザーカットも含めて選定した10数点の作品も展示・販売する。

私もイベント前日の6日の夜に行われた催しに参加、写真を拝見してきた。やはりナマ写真はいい。昨今流行りの無機質なファッション写真とは違い、高いメッセージ性と写真のつくり込みが行われていることがアザーカット等を観てよくわかった。2017年にニューヨークのメトロポリタン美術館で行われていたアーヴィング・ペンの回顧展で観た写真とその撮影方法を思い出してしまった。

ビズビムファン、 『Subsequence』ファンには見逃せないイベントではないか。余談だが、同時期に手元に届いた別の会社で製作したカタログもとても秀逸な内容と雑誌的なページ構成と企画だった。編集者として、雑誌好きとして、まだまだやれることはあると実感できた一冊だった。

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Subsequence Salon vol.4 「Samuel and Stephen's Works」

開催期間:9/7〜9/16
開催時間:11時~20時
開催場所:VISVIM GENERAL STORE / VISVIM GALLERY
(東京都目黒区青葉台1-22-11)
TEL:03-6452-4772  

 

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。

小暮昌弘

ファッション編集者

法政大学卒業。1982年から婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に勤務。『25ans』を経て『MEN’S CLUB』に。おもにファッションを担当する。2005年から07年まで『MEN’S CLUB』編集長。09年よりフリーランスとして活動。