アンリアレイジ オム徹底解剖!森永デザイナーが語る誕生秘話から、新ショップまで【着る/知る Vol.182】

  • 写真・文:一史
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8月23日(金)にグランドオープンした「アンリアレイジ オム 原宿」。

この2024年秋冬シーズンに、男性のワードローブをポップに変革する魅惑のブランドが誕生した。ファッションデザイナーの森永邦彦が手掛ける、アンリアレイジ オム(以下、オム)である。「“オム”なんて昔のブランドみたいだな」と思った人は、まんまと森永デザイナーの術中にハマっている。街のファッションにパワーがあった1990〜00年代を感じさせることを意図した名称だからだ。新規オープンさせた路面店の場所も、かつてファッションの聖地だった原宿。こうした誕生秘話については、記事後半に掲載した森永デザイナーへの単独インタビューをご覧いただこう。まずはデビューシーズンのアイテムと新ショップから紹介していく。

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エモーションを刺激する、ポップなラインナップ

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黒シャツの素材はウール。ドレープの効いた品のいい仕上がりで、アウターとしても着やすい。着用者はアンリアレイジでリテールマネージャーを務める竹田和史。¥39,600
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ダッフルコートのようなトグルボタンは、アンリアレイジのアイコニックな透明樹脂製。内部にドライフラワーが封じ込められている。
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黒シャツの内側に着たオレンジシャツ。ハイネックのカットソーかと思いきや、実はキュプラ・コットンの布帛プルオーバーだ。襟後ろがボタン開きになっている。袖口の3つボタンの剣ボロなどディテールにも抜かりがない。¥28,600

オムには大人が袖を通したくなる親しみやすさと新しさがある。本家のアンリアレイジがハイテク技術を駆使したコンセプチュアルな作風なら、ここにあるのは理屈抜きの軽妙なワードローブ。前衛的に思える服でもディテールをよく見ると、トラッドや古着から着想されたものと気づく。服好きの大人心をくすぐりつつ、女性服や旬のシルエットを取り入れた現代的スタイル。人生で長く服を着てきた人こそ、オムの巧みな仕掛けを存分に愉しめるだろう。

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胸ポケットにご注目を。なんと同型ミニサイズのセーターだ。見る人を笑顔にさせるユーモアアイテム。着丈が短い短丈デザインは旬のトレンド感覚。¥46,200
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縫い付けたセーターとの隙間がポケットになる。ミニサイズでも本格的な仕様の編み。
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セーターとハイネックシャツのカラーバリエーション。

メンズながら「かわいい」という表現が似合うのもオムの個性のひとつ。若い層には当たり前になったかわいい感覚を体現したい大人にも、ちょうどいいさじ加減の服だろう。前述したようにトラッドや古着の要素が多いから、すっと入り込めるはず。一点取り入れるだけでワードローブが華やかになる。毎日の装いに心地いい刺激を与えられる。

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民族調が交差する真冬のダウンジャケット。アーカイブを元にしたジャカードニットのパッチワークふうデザイン。¥138,000
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横から見たときの襟の立ち具合がスタイリッシュ。どの角度から見ても美しくカッコいいことが、優れた服の条件のひとつ。
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アーカイブを超ショート丈にアレンジ。ファッションコンシャスな男性たちがいま狙っている旬の短丈バランスだ。

アンリアレイジが創立から20年の間に世に送り出したアーカイブが、オムのデビューコレクションの軸。単なる復刻でなく、現代的にアップデートしたものである。古くからのファンは好きだった服と再び出会えて、新規の客は過去の優れたデザインを掘るチャンスになる。
モードが家具や建築などと大きく異なる点は、シーズンが終わるとアイテムを購入できなくなること。商品寿命があまりにも短命だ。この早いサイクルと、オムは逆の方向に向かっている。従来のモードのあり方に一石を投じている。

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廃材の扉がぎっしりと壁を覆う、ファンタジーなショップ 

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扉を中心に廃材をフル活用したパッチワーク空間。ランダムに配置された床の凹凸も個性的で、歩くと足裏で感触を味わえる。店舗デザイン:針谷將史(針谷將史建築設計事務所)。
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ボタンがぎっしりと縫い付けられたアートピース的なジャケット。これもアーカイブを元にした、アンリアレイジの歴史とリンクする服。

訪れる者を温かく出迎える「アンリアレイジ オム 原宿」。メンズの店のステレオタイプから脱却した独自のファンタジーな異空間。山小屋のようであり、ヨーロッパの古い本屋のようであり、インテリア素材の倉庫のようでもある。
森永デザイナーいわく、「扉は原風景、記憶のメタファー。廃材は時間を巻き戻す感覚。訪れるいろんな人の扉を開けられたらと願っています」(詳細は記事後半を参照)。

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ニットのスカジャンを発見!と思いきや、実はプルオーバーのセーター。背中にはご丁寧に虎のモチーフまでついている。太い糸でクロステッチふうの柄を配した手編みの逸品。¥151,800

エントランスのドアを開けてすぐの部屋が、マネキンが縦に並ぶ「ランウェイ」コーナー。ランウェイショーの高揚感が表現されている。入店した人はマネキンと壁の隙間を通り抜け、左右にわかれた部屋へと入っていく。この通路には壁の扉を開閉して各部屋に直接行ける建築構造のギミックもある。訪れたときスタッフに声がけすれば、そのギミックを体感させてくれるかもしれない。

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デザイナーが語る、“オム”の狙い

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2025年春夏シーズンのショー発表を終えて2日後の森永デザイナー。

パリでウィメンズを発表しているアンリアレイジにもメンズがある。そのメンズは今後も引き続きつくられる予定だ。それでは設立20周年を過ぎたいま、なぜ別ブランドの展開を決めたのだろうか。この問いへの森永デザイナーの答えは以下の通り。
「アンリアレイジはパリで世界発表するブランドで、オムは東京の街にいる人たちへ向けたブランドです。東京コレクションにオムで参加するのは、いまの日本の人たちに観ていただきたいから。デビューと同時に原宿に店をつくったのもそのためです。街とコレクションをリンクさせたくて」

それでは森永デザイナーにとっての原宿と東京とは?
「僕が学生だった時代の原宿は、熱狂的なファッションの力がありました。その熱狂があるから服づくりをしたくなったし、いまの自分がいます。ただこの仕事に就きパリで服を発表して10年が過ぎると、ファッション界のサイクルがいろいろと見えてきました。東京はパリ、ミラノ、NY、ロンドンといった世界のコレクションサーキットから外れてしまったし、東コレに参加するブランドもパリへの足がかりにする目的が先走ることが多い気がします。いつしか『東京の先にパリがある』という流れができてしまったのです。でも僕らが原宿に熱狂したときは、東京のほうがパリより格下などと考えていませんでした。いまでも東京には東京のよさがあると信じています」

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オムのブランドデビューとなった2024年秋冬コレクションより。

90〜00年代の原宿では多くの男性が「裏原宿」に代表されるストリートスタイルを愛した。一方で大阪からやってきた若いデザイナーズ、アントワープ出身者の海外モードも大きな波となって原宿に押し寄せた。森永デザイナーはデザイナーズを軸に、あらゆるファッションフィールドを吸収。それがジャンルを越境した作風のオムへとつながっているようだ。
「初期のアンリアレイジは手づくりのパッチワークに象徴されるように自分の感情を込めた服をつくっていました。最新テクノロジーに向かいはじめたのは中期以降です。この初期衝動を振り返ることからオムのコレクション構想を練っていきました。ハートウォーミングで温かくて優しさのある服。さらにエレガントであることも大切です。ロカビリー、パンク、ヒッピーなどのカルチャーを越えた、軽やかでポップな世界を目指して」

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店は原宿の中心である神宮前交差点より1〜2分の裏通り沿いにある。

オムの服はすべてメイド・イン・ジャパン。技術が進む中国への発注が業界標準になった手編みニットさえも日本でつくっている。ビッグシルエットのトレンド以降にフリーサイズのメンズが増えた風潮に異を唱えるかのように、各アイテムのサイズレンジも豊富だ(在庫を抱えるためビジネス効率は悪い)。着る服に一家言ある男性は自分に似合うサイズを求めるもの。そんな着る男性のマインドにまで配慮され、日本発信を追求するオム。ファッションが熱かったあの時代を知る大人こそ袖を通したくなる魅力に満ちている。

information
2025年春夏シーズンの最新作をオーダーできるイベントが開催。
確実に入手したい人はぜひご参加を。
開催期間:9月20日(金)〜30日(月)
営業:12時〜20時
場所:アンリアレイジ オム 原宿
※ 要問い合わせ homme@anrealage.com

アンリアレイジ オム 原宿

東京都渋谷区神宮前6-29-10 ARビル 1F
営業:12時〜20時
無休
TEL:03-6450-6265

アンリアレイジ

www.anrealage.com

 

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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