クラフトビールに情熱を注ぐ、いま話題のキーパーソン【ティーンエイジブルーイング・森 大地】

  • 編集&文:岡野孝次
  • 写真:齋藤誠一
  • イラスト:西田真魚
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人気のビールを手掛けるブルワー、そのカルチャーを伝える注ぎ手……。
クラフトビールに魅せられ、ファンの視線を浴びる3人を紹介する。

Pen最新号は『驚きと、よろこびのクラフトビール』。この数年で、クラフトビールをめぐる景色が大きく変化しつつある。ていねいにつくられたもの、多様性を包み込むもの、消費されない価値を持つもの。こうした価値観、考え方が世の中に浸透し、新しい時代の姿となっているが、クラフトビールは、まさにその流れの真ん中にあるものだ。世界を動かす驚きと、よろこびあふれるクラフトビールを体感しに行こう。

『驚きと、よろこびのクラフトビール』
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恐れを知らない10代のように、自由な発想で羽ばたく醸造家

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森 大地(もり・だいち) ●ティーンエイジブルーイング代表・醸造家。1980年、埼玉県生まれ。ティーンエイジ ブルーイング代表兼醸造家。おもにクラフトビールのレシピの考案を担う。またキルク代表として、レコードレーベル・キルクレコードの運営や、吉祥寺のライブハウス・ネポ、その他複数の飲食店の経営にも携わる。

2023年6月に醸造スタートと、まだまだ創業から日が浅い、ティーンエイジ ブルーイング。しかしビアフェスに出店すれば、ブースの前には、常にたくさんの人だかりができる。新しい銘柄をリリースすれば、即ソールドアウトが当たり前になるなど、異例のスピードでクラフトビール業界の〝台風の目〞になりつつある。

東京を中心に巻き起こる〝ティーンエイジ旋風〞。その熱狂から少し離れた場所、のどかに田園が広がる埼玉県ときがわ町に、ブルワリーは立地する。目前には単線のJR八高線が走り、背後からは深い緑に抱かれた土地。ティーンエイジ ブルーイングの最大の特徴である、にごったルックスのヘイジーIPA(アイピーエー)、またサイケデリックな缶のパッケージデザインの印象とはまるで正反対の、清らかな自然に包まれた場所だ。代表の森大地は、どうして開業の地にここを選んだのか。

「ブルワリーを立ち上げるなら、僕の出身地である埼玉県で、と決めていたからです。また、ときがわ町は清冽な水資源を擁する土地でもある。周辺の農家の方々が、『これ、ビール用にどう?』と、ハーブやフルーツを持ってきてくださるのも、うれしい誤算でした」

故郷・埼玉を思う、森の気持ちは強く深い。ブルワリーを開業するまでは30年以上、ミュージシャンとして活躍。同県和光市に会社を設立し、いまも自身でレコードレーベルを運営する。一方、「埼玉にひときわ輝くライブハウスを」との思いで、13年に大宮駅の隣、宮原駅近くにライブハウス「ヒソミネ」をオープン。どうせならビールの品揃えも他のライブハウスにはないものにしようと、クラフトビールを取り扱い始めた。

「その何年か前にブリュードッグの『パンクIPA』を飲み、いままで触れたことのないおいしさと、パッケージデザインの斬新さに衝撃を受けました。これをきっかけにクラフトビールにすっかりハマり、その後に開業した飲食店でもラインアップを充実させました」

こうして、クラフトビールと音楽がある場所に何年も身を置き続けてきた森。ある時、はたと気づく。この両者が、非常に近しい楽しさを持った存在である、と。

「パッケージを気に入って買ったクラフトビールがおいしかった時の感動が、ジャケ買いしたレコードがよかった時の感激とよく似ていると気付いたんです。『ビールは音楽と一緒だ!』と悟って、新たに歩むべき道が決まりました」

こうしてブルワーを志した森。時は、ちょうどコロナ禍。ライブハウスや飲食店のあり方が問われるなか、自身で悩み、出した答えだった。まずはビールの歴史や製法を学ぶべく講習会などに参加し、21年からは千葉県柏市のビアブレイン ブルワリーで修業。その後、仕込みタンク約820L、同量の発酵タンク6基の規模からティーンエイジ ブルーイングを開業する。しかしすぐに供給が受注に追いつかなくなって、24年7月には約1800Lの発酵タンク3基を追加。生産能力が1・7倍に拡大する。新規参入の場合は、週に1回の仕込みというブルワリーが多いが、森の醸造所は、週に2回の仕込みが必須。また忙しい時には、1日に2回(ダブルバッチ)の仕込みを行うこともある。

なぜクラフトビールファンは、これほどまでに彼らのビールを欲するのか。40代で人生を再始動させた彼が、ブルワリーの名前に付した〝ティーンエイジ〞という言葉にそのヒントが隠されている。「まだなんの恐れも知らない10代の頃のように、どこまでも自由に、初期衝動のままに、ビールを醸造していきたいと思っています」

現場は森とヘッドブルワーの及川季節、醸造担当のチェコ人、ビット・カルーセックで回していたが、今年から竹内政仁も参加した。では、2年目のティーンエイジ ブルーイングはどうなっていく?
 「『クラフトビールって、こんなに味の可能性があって、おいしかったの?』という感動を与え続けたい。必要なのは音楽のように、自由な発想でつくること。心はまだバンドを始めたばかり、10代の頃のままなんです」

 

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出来たての「ティーネイジャー#002」。ファーストバッチの改良版で、ホップの種類は同じだが、桃、マンゴーなどの風味と柑橘フレーバーをより感じられるようになった。

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ビールの雫のような絵がブルワリーのロゴマーク。

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右から、サワーダブルIPA「コーリング ユー」。ホップの利いたIPAにチェリーを投入、コーヒーの風味も濃厚に漂わせる。ウエストコーストラガー「レイキモッキ」はライムに似た柑橘系の香りが爽やか。カカオ、アニスを隠し味に使用した「バナナランド」はバナナの甘い香りとタンジェリンの酸味が利いた、飲みやすいサワーダブルIPA。ビールはいずれもレギュラー¥1,000。「自家製燻製ナッツ」¥500 

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ベッカンと呼ばれる町の特産品の木材を多用したタップルーム。

ティーンエイジ ブルーイング

住所:埼玉県比企郡ときがわ町馬場435ー1
TEL:0493-81-5308(「ティーンエイジ タップルーム “ベッカン”」併設)
営業時間:11時~16時30分(火~金) 11時~20時(土・日・祝)
定休日:月
Instagram@teenage_brewing

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森大地の人生を変えたクラフトビール3選

 

ブリュードッグ 
パンク IPA

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森のクラフトビールの原点。「味わい、パッケージデザイン、ネーミングセンス、どれを取っても出会った当時は衝撃的でした」。昨年には、ブリュードッグ 六本木とコラボレーションビールをリリース。自らのブルワリーの知名度を上げる、大きなきっかけとなったそうだ。

レンジ ブリューイング
ダブルドリッピング イン グリーン シトラ+モザイク

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「おいしすぎて驚愕したビール。日本では入手困難ですが、現在進行中のレンジブリューイングとのコラボレーションで、これのアップデート版にチャレンジします」。レンジ側のコラボビールはオーストラリアで発売中。ティーンエイジ側のビールは今秋日本で発売予定だ。

トミー シェフ ワイルド エール
オード

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初めて飲んだワイルドエールに衝撃を受けたものの、銘柄はあいにく失念したそう。「オード」は去年飲んだものだが、本当においしかったという。「樽熟成のビールは醸造の自由さを改めて教えてくれるんです」と話す森。ビールをさらに好きにさせてくれる存在でもある。

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