コミュニティのハブとなるブルワリー、異業種から参入したヒットメーカー、後進とともに歩むレジェンド、畑からビールを考えるつくり手……。多様な背景を持つ担い手たちにより、クラフトビールづくりは進化を続けている。いまトレンドを生み出すブルワリーを訪ね、その個性を紐解いた。
Pen最新号は『驚きと、よろこびのクラフトビール』。この数年で、クラフトビールをめぐる景色が大きく変化しつつある。ていねいにつくられたもの、多様性を包み込むもの、消費されない価値を持つもの。こうした価値観、考え方が世の中に浸透し、新しい時代の姿となっているが、クラフトビールは、まさにその流れの真ん中にあるものだ。世界を動かす驚きと、よろこびあふれるクラフトビールを体感しに行こう。
『驚きと、よろこびのクラフトビール』
Pen 2024年10月号 ￥880（税込）
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フラグシップの「宇宙IPA」は空想の果実「うちゅ」の複雑なアロマをイメージ。パインやオレンジなどを連想させる味わいで華やかな香りが特徴。350mL ￥700。センスが光るラベルなどのデザインはうちゅうブルーイングを率いる隊長・楠瀬正紘のパートナーの鈴木ルミコが担当。
うちゅうブルーイング
―Point―
・ヘイジーIPA人気の立役者
・”隊長”の個性的なアイデアを体現
・遠心分離機など最新の設備を導入
住所：山梨県北杜市小淵沢町2968-1（道の駅こぶちさわ内）
営業時間：13時～20時（金、土） 13時～19時（日）
定休日：月、火、水、木
※臨時営業については公式Instagram @uchubrewing.japanを参照。
www.uchubrew.shop-pro.jp
異彩にして奇才。うちゅうブルーイングは、そんな言葉が似合う超個性派の人気ブルワリーだ。
彗星のごとく登場した2018年を皮切りに、一度飲んだら離れられない熱狂的なファンをがっちり獲得。看板の「宇宙IPA」は濁り系のヘイジーIPAを基調にしているが、ホップ由来の鮮烈なアロマや豊かなコクは、実にドラマティックな味わいである。いままで300種類以上、商品を刷新し続けているのも魅力的。
大量のホップとオーツ麦を使ったミュータントやイチゴやアイスクリームなどを原料とする「ウチュージー！ ストロベリー」のようなスムージー系、今年発売予定のワインやシェリーの樽で熟成させるバレルエイジドビールなど、多彩なビールが飲み手の心をつかんで離さない。
さぞ戦略的と思いきや「マーケティングを意識してビールをつくったことはありません。売り込みもしたことがないんです」と、代表の“隊長”こと楠瀬正紘は言う。
聞けば、隊長はひたすらビールづくりに夢中な人だった。2016年にアメリカのブリューパブでIPAを初めて飲み衝撃を受けたのがブルワリー設立の端緒だが、それ以来「やばいくらい美味いビールをつくるために必死です」ときっぱり。
たとえばホップは自ら産地を指定した最高級品を徹底して使い、ビールと原料の残りかすを分離する工程以降の品質管理も手抜かりはない。空気は劣化の大敵と、配管内での移動距離が減るようにタンクを動かし、缶に詰める際はビール内に含まれる酸素の数値を必ず測り、ビールに空気を触れさせないよう心血を注ぐ。そんな隊長の志がクオリティの高いビールを生み、強烈な個性とあいまって飲み手の心を打つのだ。
「自分の製造法に納得したことは一度もありません。世界の誰もが認める無二のビールを目指して愚直につくり続けます」
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バレルエイジの作業場に佇む隊長。ワイン樽やシェリー樽にはセゾン系を、バーボン樽には黒系ビールを入れて2年熟成中。
隊長を支えるつくり手は20代や30代の若者が中心。
近代的な雰囲気の清潔なブルワリー。大小さまざまな仕込みタンクや、ホップの固形物を取り除く数種類の遠心分離機などがあり、品質を向上させるために設備投資は惜しまない。
南アルプスや富士山などの美しい山々に囲まれる醸造所。
2022年9月に待望のうちゅうブルーイングタップルームがオープン。「道の駅こぶちさわ」に併設されている。近隣住民だけでなく遠方から訪れる客も多い。日替わりで常時8種類の樽生が味わえる、うちゅうブルーイングファンにはたまらない貴重な一軒だ。オリジナルの中華まん「宇宙華マン」をはじめ、濃厚なチーズケーキなどビールにぴったりなおつまみもおいしい。気に入ったビールは購入もできる。箱買いもお薦めだ。
『驚きと、よろこびのクラフトビール』
Pen 2024年10月号 ￥880（税込）
