コミュニティのハブとなるブルワリー、異業種から参入したヒットメーカー、後進とともに歩むレジェンド、畑からビールを考えるつくり手……。多様な背景を持つ担い手たちにより、クラフトビールづくりは進化を続けている。いまトレンドを生み出すブルワリーを訪ね、その個性を紐解いた。
Pen最新号は『驚きと、よろこびのクラフトビール』。この数年で、クラフトビールをめぐる景色が大きく変化しつつある。ていねいにつくられたもの、多様性を包み込むもの、消費されない価値を持つもの。こうした価値観、考え方が世の中に浸透し、新しい時代の姿となっているが、クラフトビールは、まさにその流れの真ん中にあるものだ。世界を動かす驚きと、よろこびあふれるクラフトビールを体感しに行こう。
『驚きと、よろこびのクラフトビール』
Pen 2024年10月号 ¥880(税込)
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ブラックタイドブリューイング
ーPointー
・気仙沼や東北をテーマにしたビール
・ブルワリーが地域内外の人が集う場に
・科学的アプローチで醸造をコントロール
住所:宮城県気仙沼市南町3-2-5
TEL:0226-28-9640(タップルーム)
営業時間:公式Instagram@blacktidebrewing を参照
定休日:火曜
www.btb-shop.shop-pro.jp
海風が香る気仙沼の内湾。緑がまぶしい小高い山と紺碧の海のコントラストが目に映える。煌めく水面を眺めながら、つくりたてのビールをごくり──。キレのあるのど越しと鼻腔をくすぐる柑橘系のアロマに、全身の意識がほどけ、よろこびが込み上げる。
「デイズオーバー」、一日の終わりをねぎらうために設計されたアメリカンラガー。つくるのは気鋭の集団ブラックタイドブリューイングだ。ブルワリーの戸を開くと、パイナップルや桃の熟れた果実の香りに包まれる。良質なホップをこれでもかと投入し、ヘイジーIPAを醸していた。ヘッドブルワーのジェームズ・ワトニーはポートランドで腕を磨いた醸造家。オーナーにヘッドハンティングされ、この地にやってきた。
「ちょうど震災復興の途上で、あたり一面真っ平らでした。それでも前に進む人々を見て、ビールをつくって街を盛り上げようと奮い立ったんです」と振り返る。
初回バッチが出回ると、ビールファンはブラックタイドにすぐさま魅了された。経験に裏打ちされたクオリティはもちろん、化学の博士号を持つジェームズは、酵素でホップの香気を抽出するといった科学的手法も得意とする。
でも、美味いビールづくりにとどまらないのがここの持ち味。営業部長の丹治和也は夢を語る。
「ブルワリーを起点に人が集う〝場〞をつくりたいんです。そこから広げ、気仙沼をビールの街にするのがミッションです」
ファンクラブを設け、出来たての限定ビールの頒布や新酒完成イベントへの招待など、特典は盛りだくさん。はじめは地元から募り、いまや150人を数えるコミュニティとなった。内湾の広場で開くビアフェスティバルには県内外から4千人近くが集い、ブラックタイドのビールに酔いしれる。ブルワリーが街のシンボルとなり、前へ進む原動力となる。そんな風景が気仙沼にある。
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『驚きと、よろこびのクラフトビール』
Pen 2024年10月号 ¥880(税込)