1.JAEGER-LECOULTRE(ジャガー・ルクルト)
マスター・ウルトラスリム・パワーリザーブ
2時位置のポインター式のカレンダーと6時位置のスモールセコンド、このふたつの円環との対比で、10時位置で独特の存在感を放つ扇形レトログラードのウインク。この逆三角形のレイアウトで描かれたパワーリザーブ・インジケーターとレッドゾーンが、グラデーションを伴う深いミッドナイトブルーのサンレイ仕上げのダイヤルに、絶妙な破調のアクセントを描く。
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2.LONGINES(ロンジン)
コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ
パワーリザーブ・インジケーターは、サブディスプレイではなく、文字盤中央で主役を張る独創的なデザイン。2枚の回転ディスクを使って巻き上げ残量を表示するユニークな機構は、ロンジンが1928年に開発したセンターディスク方式に着想源を持つ。バトン型のインジケーターと数字ディスクをリューズで同期回転させ、パワーリザーブの数字の位置を変更することも可能だ。
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3.FREDERIQUE CONSTANT(フレデリック・コンスタント)
クラシック パワーリザーブ ビッグデイト マニュファクチュール
9時位置のアウトサイドからダイヤル中央に向かってレトログラード運針するパワーリザーブ・インジケーターは絶妙のポジション取り。ビッグデイト、ムーンフェイズと拮抗して、緊張感あるレイアウトが魅力的なトリニティを描く。3種の高度な表示を組み込んだ自社開発ムーブメント「FC-735」を搭載した、創業35周年記念のモデル。
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端正な佇まいが魅力のドレスウォッチにおいて、パワーリザーブ・インジケーターは、盤面を華やかにする重要なキャラクターだ。機能がデザインとして表立っているクロノグラフや、針やインデックスの形状が特徴的なダイバーズウォッチとは異なり、ドレスウォッチのダイヤルデザインはオーソドックスが常である。逸脱すると優美さを損ねる故に、シンプルさ優先のルールになにかを加えるとしたら、その必要性が問われる、存在意義の高い装置でなければならない。ゼンマイ動力の残り時間を伝える表示には、その価値がある。
当然ながら腕時計の機関は、基本的に一定のリズムで、一定の方向に動いていなければならない。時分針も秒針も前進あるのみだ。カレンダーは月初には「1」に戻って反復する。その規則のもとで、現在の正しい日付と時間を表示する責務がある。一方でパワーリザーブの指針位置は、ゼロとフルの間で常に移ろい、行きつ戻りつを繰り返す。その意味では正しい位置というものがない。フルリザーブになっていることがトルク的に望ましくはあるが、ゼロにならない限り止まることはない。
機械式時計は“生きて”いる。それがどれだけ長続きするかを、パワーリザーブのインジケーターは示す。針が可動域のどこかにあれば腕時計の生存証明になり、その位置は人間の身体の呼吸や心拍と同じく、腕時計のバイタルサインのようなものだ。パワーリザーブ表示は、腕時計のリズムに生き生きとした、魅力的なアドリブを添えるのである。
並木浩一
1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。新著に『ロレックスが買えない。』。※この記事はPen 2024年9月号より再編集した記事です。