「大人の名品図鑑」坂本龍一編 #4
「世界のサカモト」──坂本龍一が天に旅立ったのは2023年3月28日。永遠の輝きを放つ作品を多数遺しただけでなく、「No Nukes, More Trees」に代表される社会活動にもコミットし、未来に向かって多くのメッセージを発信していた稀有なアーティストだ。今回は、そんな唯一無二の音楽家、坂本龍一に関する名品を探してみた。
多くの人が坂本龍一の名前を知るのは、70年代末のイエロー・マジック・オーケストラ(以下YMO)のブームからではないだろうか。細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一の3人からなるYMOは、コンピューター・プログラムと音楽を組み合わせた独自のスタイルを構築、“テクノポップ”の元祖とも称された。1978年、デビューアルバム『Yellow Magic Orchestra』を発表。『テクノポリス』『ライディーン』などを含む2枚目のアルバム『Solid State Survivor』(79年)は、100万枚を超える大ヒットを記録。その後に行われたワールドツアーは世界各地で絶賛され、国内外でその人気が大爆発、大きなブームとなった。この2枚目のアルバムに描かれた写真ではメンバー全員が赤いスーツを着用、そのスーツが当時の中国などで着られていた「人民服」のように見えたため、赤い人民服=YMOのユニフォームというイメージが世間では定着してしまった。しかしYMOが着ていたのは人民服ではない。
『音楽とファッション 6つの現代的視点』(青野賢一著 リットーミュージック)には「メンバーと男性のマネキンが着用している赤いスーツ─通称、人民服─は、高橋幸宏がデザインしたものである。この『人民服』は、実は人民服ではなく日本の古いスキー・ウエアがモチーフ。スキー・ウエアなのでフロント・ボタンが隠れる比翼仕立てになっている」とある。また同書では、79年のライブステージで、高橋幸宏が人民帽をよく被っていたので、人民服のように見えたのではとも書く。しかし『「教授」と呼ばれた男』(筑摩書房)を書いた佐々木敦は、「高橋幸宏のデザインによるコスチュームは、明治初期のスキー服をイメージしたものだったというが、どう見ても中国の人民服である。(中略)刈り上げた短髪も、いかにも中国風である。だが、もちろん彼らは中国人ではなく、日本人である。これはどういうことなのか? 西洋世界から見たら、日本も中国もほとんど区別がつくまい、ということだろう(断っておくと、これは七〇年代の話である)。YMOは『中国人のふり』をしたのではなく、『アジア(人)』に対する極めてアバウトな西欧人のイメージを確信犯的に身にまとって見せたのだ」と断言する。
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新鋭ブランド、CFCLの赤いスーツ
また坂本も自伝『音楽は自由にする』(新潮社)で、「当時は、ファッションの世界でも、日本のデザイナーが海外に出て活躍するようになっていました。イッセイミヤケ、ケンゾー、コム・デ・ギャルソン、ヨウジヤマモト、カンサイ。日本文化の尖兵という感じですね。彼らもYMOと同じようなものを背負っていたのかもしれない」と書いている。ともあれ彼らが着た赤いスーツはこの時代を象徴する性格と多大なる影響力を備え、なおかつYMOのビジュアルイメージを決定づけたアイテムであることは間違いない。
そんな赤いスーツを探してたどり着いたのが、CFCLという日本のブランドだ。ブランド名は「Clothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)」の頭文字を組み合わせたもので、デザイナーは奇しくも坂本がYMOの存在と似ていると語っていたブランドのイッセイ ミヤケ出身の高橋悠介だ。最新の3Dコンピューター・ニッティングの技術などを製作の中核に据えて、機能性、環境への配慮など、実験的で先進的な姿勢でタイムレスなコレクションを21年から発表し続け、内外ですでに多くのファンを得ているブランドだ。
今回紹介する赤のセットアップスーツは、上下とも「ミラノリブ」と呼ばれるニット素材が使われて、ミニマムでシンプルさが際立つそのデザインが、ブランドが標榜するタイムレスさを物語っているが、坂本がこのスーツを見たら、どんな感想を持つだろうか。
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CFCL/CFCL OMOTESANDO
TEL:03-6421-0555
cfcl.jp
ポール・スミス/ポール・スミス リミテッド
TEL:03-3478-5600
/www.paulsmith.co.jp/shop
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