「大人の名品図鑑」坂本龍一編 #1
「世界のサカモト」──坂本龍一が天に旅立ったのは2023年3月28日。永遠の輝きを放つ作品を多数遺しただけでなく、「No Nukes, More Trees」に代表される社会活動にもコミットし、未来に向かって多くのメッセージを発信していた稀有なアーティストだ。今回は、そんな唯一無二の音楽家、坂本龍一に関する名品を探してみた。
世界的な音楽家として知られるようになってからの坂本龍一のイメージといえば、センター分けした白髪に、ボストン型のセルフレームの眼鏡、服装は黒のタートルネックなどのニットを使ったミニマムなスタイル。もし彼の似顔絵を描くとすれば、多くの画家たちがそんな風貌を思い浮かべるのではないだろうか? スティーブ・ジョブズの丸いメタルフレーム、あるいはアンディ・ウォーホルの透明なセルフレーム、あるいはレオナール藤田愛用の真円型のセルフレームのように、眼鏡は人の印象を決定づけるものだ。坂本のような芸術家ならば、なおさらだろう。
坂本を追ったドキュメンタリー映画で2017年に公開された『Ryuichi Sakamoto:CODA』という作品がある。監督は『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)の共同プロデューサーで、17年にニューヨークで開催されたライブムービーである『坂本龍一 PERFORMANCE IN NEW YORK:async』(18年)の監督も務めたスティーブン・ノムラ・シブルだ。イエロー・マジック・オーケストラ(以下YMO)時代の坂本の懐かしい映像や、01年の米国同時多発テロや11年の東日本大震災と福島第一原発事故を間近で見た彼がなにをどう感じたかが語られる、ファンならずとも見逃せない作品に仕上げられている。
この作品は2012年から5年間の坂本を密着取材したものだが、映像に映った坂本を観察すると、白髪に眼鏡といういつものスタイルに変わりはないが、彼は何種類かの眼鏡を掛け替えていることがわかる。アイコンと言える太いフレームのボストン型以外にも、プラスチックとメタルがコンビになったクラシックなブロウ型まで掛けている。フレームの色も何タイプかあるように見える。
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坂本が愛用したフランスの名品眼鏡
これまで坂本は2冊の自伝を書いているが、その一冊『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』(新潮社)の中で「ぼくが最初に老いを感じたのは、42歳のときでした」と老眼になったときのことを告白している。レコーディング中に、目の前の五線譜が霞んで音符の位置がわからなくなり、初めて老眼になったことを坂本は知る。実は坂本は子どものころからずっと視力1・5をキープしてきたので、「目の前のものがぼやけるという経験自体が初めてで、衝撃的だった」と綴る。前述の映画にはYMO時代の坂本も登場するが、そのころの彼は眼鏡を掛けていない。もしかしたら老眼になってはじめて坂本は眼鏡を掛けるようになったのかもしれない。
坂本はいくつかのブランドの眼鏡を愛用していたと言われているが、いちばん有名なのが、今回紹介するフランスのジャック デュランというブランドの眼鏡だ。
創業者のジャック・デュランは、70年代からアイウエアのデザインを手掛けるようになり、78年にはフランスを代表するアイウエアブランドのアランミクリのブランドの立ち上げにも参画した眼鏡業界では有名な人物。フランスを代表するプロダクトデザイナーであるフィリップ・スタルクとアランミクリがタッグを組んだスタルク アイズのプロジェクトマネージャーを務めたことでも知られる。そんなジャック・デュランが自らの名前を冠したブランドを立ち上げたのが2010年。イタリアにある自社ファクトリーでデザインから製作まで行われており、その一本一本がハンドメイド。現在までリリースされた眼鏡のモデルは300を超えているが、坂本が愛用したのは、「PAQUES 506」というモデルで、ボリュームあるフロントのデザインが特徴的だ。表面のヘアライン仕上げとフラットなつくりが坂本の作品同様、唯一無二の存在感を放つ。同ブランドのデザイナー、ジャック・デュランが標榜する「Timeless」という言葉も、坂本の名曲に通じるのではないだろうか。
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fRAME ディストリビューション
TEL:03-6356-8766
https://jacquesdurand.jp
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