着たことのない服装にトライするポジティブな気持ちは、なにも若者だけの特権ではないはず。大人も旬の感性を持つ次世代ブランドを着て、新しいセンスをアピールしたい。とはいえ前衛的すぎる服だと少し腰が引けてしまう。メンズウェアの基本を踏まえた適度なバランスを望みたいところだ。
ここではそんなベーシック趣味が息づくニッポンの若手2ブランドを紹介。注目を集めるfluss(フルス)とTSTS(ティーエスティーエス)である。2者の共通点は、笑顔を誘う明るい作風なこと。クリーンな品の良さが大人の装いに馴染む。
豊かな情感のあるfluss
flussのテイストを一言で言い表すなら、「モード×クラフト」だろうか。ベーシックな服を巧みな色彩センスで見たことのないモノにつくり変える。生地のニュアンスに凝り、手編みニットやニードルパンチのパーツを付け足すことでモード服に体温をプラス。エッジーなのに懐かしさもあり、古着好きの人にも愛されるデザイン性だろう。
単体として完成度が高く、大人のワードローブにすんなりとハマる。着る人のアイディアしだいで自由に着られて、その人の一部になれる余白を持つ。身体に沿う自然なフィッティングも特徴のひとつで、次世代らしさが感じられる点だ。流行が長く続いたオーバーサイズからの転換がしっかり提案されている。
さらに注目すべきは、メンズウェアのディテールのセオリーを軽やかに超越していること。例えばカーゴパンツのポケットフラップはスカーフをリングに差すような形状だし、カーブを描く裁断も多く目につく。現代のブランドらしく、制約の少ないウィメンズウェアの自由さが取り入れられているようだ。
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デザイナーの児玉 耀は立教大学を経てイギリスに留学し、ファッション&美術の名門校であるセントラルセントマーティンズ美術学校に通った人物。帰国して2022年に自身のブランドであるflussをスタートさせている。服の1着1着に深い情感があるのは、デザイナーがパーソナルなファッション感を作品に込めているからなのだろう。
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グラフィカル&ダイナミックなTSTS
TSTSはコンセプチュアルでダイナミック。洗練されたオリジナルのグラフィックが無駄を削ぎ落とした服に落とし込まれ、ダボッとしたオーバーサイズで仕上げられる。服1着で世界観をしっかりと示す、デザイナーズブランドならではのコレクションだ。
ブランドがコンセプトに掲げるのは「2面性」。2つ以上の要素をひとつにまとめる発想がデザインの源泉だ。それは2着の服を1着にしたドッキングでもあり、男性服に女性服のパーツを加える仕立てでもある。ストリートとモード、静と動というように、2面性の可能性は無限大だ。このコンセプトにユーモアを加えて、ポップで楽しいコレクションを生み出している。
前衛的な作風の中にメンズウェアの伝統をちりばめる点もTSTSのニクいところ。シャツの裾にガゼット(補強パーツ)をつけたり、襟が20世紀初頭のようなデタッチャブルだったり、服好きをニヤリとさせる工夫が満載だ。生地や柄も、アイビーやトラッドに通じる奇をてらわないもの。それはTSTSのつくり手が、衣服の歴史に造詣が深いことを意味している。軽妙だが軽薄ではないコレクション。大人に「着てみたい」と思わせる巧みな服づくりだ。
デザイナーは日本の文化服装学院を卒業後にヨーロッパに渡り、ドリス・ヴァン・ノッテンらを輩出したアントワープ王立芸術アカデミーに通った佐々木拓也。同様のキャリアを持つパタンナーの井指友里恵とタッグを組みコレクションをつくり上げている。2023-24年秋冬にスタートしたばかりながら、すでにドーバーストリートマーケットなどの有力な店に買い付けられている注目株だ。
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ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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