A24スタジオ最大のオープニング記録を樹立した『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 の監督、アレックス・ガーランドにインタビュー

  • 文:小松香里
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©️2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

『エクス・マキナ』や『MEN 同じ顔の男たち』で知られるアレックス・ガーランド監督の新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。舞台は連邦政府から19の州が離脱し、テキサス・カリフォルニアの同盟からなる西部勢力と、大統領が率いる政府軍が衝突する内戦が勃発したアメリカ合衆国。報道カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)と記者のジョエル(ワグネル・モウラ)は、政府軍は敗色濃厚となっているにもかかわらず、「我々は歴史的勝利に近づいている」と訴える大統領への単独取材を計画。リーの恩師であるベテラン記者サミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)と取材中に出会った若手カメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)も前線のシャーロッツビルまで同乗することになり、ニューヨークから車でワシントンD.C.に向かう──。

臨場感あふれる戦場でのアクション、報道の意義、リーからジェシーへの戦場写真の精神性の伝承、無関心を装う人々が宿す恐ろしさ等、多くの見どころを内包しながら、ロードムービーのような様相を呈して映画は進行する。気鋭の制作スタジオ「A24」が過去最高額の予算を投じた本作は、北米で公開されるやいなや、A24スタジオ最大のオープニング記録を樹立。戦争が起こり、アメリカでは大統領選真っ最中。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は決して他人事では済まされない映画だ。アレックス・ガーランド監督に聞いた。

幼少期から、政治的な発言をすることが当たり前のことだった

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──監督のお父様は新聞の風刺漫画家だそうですが、その環境が『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の制作にどのように影響を与えたと思いますか?

風刺漫画化の父親の元で育てられてたので、幼少期から政治的な発言をすることが当たり前のことでした。政治的な発言をすることに対して及び腰な人もいますが、僕は政治的な発言によって攻撃的な言葉を浴びせられることもあまり気にしないです。

──監督はイギリス人ですが、アメリカの内戦を題材にした映画を描こうと思ったのはどうしてですか?

内戦だろうと隣国との戦争だろうと、争いが生じている。それが今起きている戦争です。アメリカに限らず、イギリスでもヨーロッパでも中東でも南米でもアジア諸国でも、大勢の人たちに影響を及ぼしているポピュリズムの台頭や極右の過激派の台頭など、様々な問題を描いたつもりです。イギリスでもトランプに通じる汚職まみれで嘘つきの大統領が誕生したばかりということもあり、イギリスを舞台にしても良かったんですが、国としての影響力は限定的です。一方、アメリカは世界の中で最も権力を持っていて、最も影響力のある国なのでアメリカを舞台にしました。もし何かが悪い状況へ進んでいたら、それがどんな状況なのか気付くべきです。『歴史を忘れたら、その歴史は繰り返される運命にある』という有名なフレーズがあります。その運命から逃れられる者などいないということを理解することが重要です。逃れられる国もありません。なぜなら歴史は国ではなく人間が築いてきたものだからです。

──アメリカは大統領選の真っ最中です。どんな風に関心を持っていますか?

汚職を働き、性的暴行で有罪判決を受けたこともあるトランプを再び大統領候補として擁立するなんて全く理解できません。カマラ・ハリスに勝ってほしいと強く思っています。 

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──報道カメラマンであるリーからジェシーへの戦場写真の精神性の伝承等、戦争アクションに加えて人間ドラマの要素も強いところが戦争のリアルを強めていると感じましたが、それは意識したのでしょうか?

必ずしもうまくいくとは限りませんが、僕は毎作そういった人間ドラマを作品に織り込んでいます。それを真正面から描くこともあれば、そうでない時もあり、さまざまなアプローチがありますが、人間ドラマがない作品が面白い映画になるとは思いません。

──キルステン・ダンストが演じる報道カメラマン、リーが劇中でほぼ不機嫌そうであり不安そうな表情を浮かべていることが印象的でした。表情についてダンストとは何かすり合わせをしたのでしょうか?

僕が彼女にリーを演じてもらいたいと思ったのは、内面の痛みをしっかり表現できるからです。それがリーというキャラクターを演じる上で一番大事な要素だと思いました。過去の作品でもそういった芝居をとてもうまくやっていましたが、今作は想像以上に深くリーの内面を掘り下げてくれたので驚きました。

──『シビル・ウォー アメリカ最後の日』はドキュメンタリーチックなロードムービーのような感触があり、それがまた緊張感を醸成しています。どんな意図があったのでしょう?

自然主義的なアプローチで撮影を行いました。例えば、人が撃たれる時に弾着はつかわずに、大量の血しぶきは出てこないし、撃たれた後ろの壁に血が飛び散ったりもしない。ただ人が倒れるだけです。そして、倒れたあと一定の時間そこに横たわっていれば血が地面に流れていきます。ニュースで見たことがあるような映像の手法を通して、アクションを見せようと思いました。そういった手法では多くの場合、映画的というよりドキュメンタリー的で暴力を残忍に映し出します。暴力や虐殺の現場に魅力やロマンチックさは欠片もありません。

──『シビル・ウォー アメリカ最後の日』も含めて、監督の映画を見ると映画とは物語、ビジュアル、音楽、演出といったあらゆる要素が結集した総合芸術なのだと実感しますが、映画を作る際に一番大事にしていることは?

映画は今おっしゃったようなすべての要素を内包した総合芸術であるということこそが醍醐味だと思っています。だからすべてが大事です。僕は監督をやる前は小説家で、ずっと一人で小説を書き、24歳の時に『ザ・ビーチ』を書き上げました。監督業を始めてからは、大勢と一緒にひとつの作品を作り上げています。よく映画のことを『何々監督作品』と謳いますが、映画が監督のものであるというのは幻想だと思っています。そういう打ち出し方をするとわかりやすいので、一種のマーケティングの手法ですよね。でも実際は、大勢が対話をしながらコラボレーションをするように作品を完成していきます。映画の中の1秒だけを切り取ったとしても、その映像には多くの対話、演技、美術、カメラワーク、音響、照明といったあらゆる要素が凝縮されています。 

映画を編集することと小説を書くことは同じ作業

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──では、一番テンションが上がる瞬間は?

編集している時です。小説家をやっていたからかもしれませんが、映画を編集することと小説を書くことは同じ作業だと思っています。映画を作ったことのない人からしたら、撮影現場が映画作りであるというイメージがあるかもしれませんが、撮影現場は生素材を獲得する場所であって、本当の映画作りは編集室で行われます。

──監督が、最近映画作り以外で興味があることは何ですか?

つまらない答えではありますが、自分の子どもに一番夢中です(笑)。あと、昔から旅をすることに興味があります。17歳で初めてバックパッカーとしてインドのカシミール州のラダックに行きました。それ以来、可能な限りずっと旅をしてきました。54歳になった今でもハイキングも含めてよく旅に行きます。映画監督には、映画についての映画を作る監督と人生や体験についての映画を作る監督というふたつのタイプがいます。僕は映画を見るのは大好きですが、前者のタイプの映画監督には興味がありません。人生経験として旅をすることを大事にしていて、旅をすると否応なく新しい体験が降ってきます。イギリスの作家のイアン・マキューアンが「書くためには生きろ」と言ったんですが、僕も本当にそう思います。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

脚本・監督/アレックス・ガーランド
出演/キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、ケイリー・スピーニー、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンほか
10月4日(金)より、TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開 
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