「登美の丘ワイナリー」で出合う、“世界的甲州”の深い魅力

  • 文:安齋喜美子
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真南向き斜面の垣根仕立ての畑では、軽やかな渋みのあるブドウが成熟する。標高約400メートル。富士見テラスのすぐ下、見学用畑の隣にあり、身近に観察できる。

日本固有のブドウ品種”甲州”がこんなにもエレガントでノーブルな表情を見せるとは――。そんな新鮮な驚きを与えてくれるワインが誕生した。“世界トップ50”に選ばれたスペシャルな甲州に出合いに山梨へ。その魅力を、ぜひチェックして欲しい。

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「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」甲州100%。黄桃やパイナップルなどの香り。果実の凝縮感があり、リッチでまろやかな味。酸味は凛としてエレガント。品格を感じさせる味。¥13,200(参考価格/編集部調べ)(容量は全て750ml)

2024年6月、日本ワインの世界に大きなニュースが届いた。「サントリー登美の丘ワイナリー」(以下、「登美の丘ワイナリー」)の「SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022」が、英国の権威あるワイン誌『デキャンタ―』が主催するワインコンペティション「デキャンタ―・ワールド・ワイン・アワード 2024」において、最高位の「Best in Show」を受賞したのだ。

これは、18,000点以上のワインの中から50点のみが選ばれるもので、”世界トップクラス”を意味する。この栄誉ある賞を、日本から出品されたワインとして初めて受賞したのだ。その味わいはリッチでふくよか。きれいな酸味と繊細な果実味が上品に表現されている。甲州らしい白桃の香りと独特のトロピカルフルーツのニュアンスを併せ持ち、「甲州が、こんなにもまろやかで芳醇に仕上がるとは」と驚かされる。

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栽培技師長の大山弘平氏。「岩の原葡萄園」でワイン造りに従事、長野県塩尻と立科に携わり、2020年より現職。日本トップクラスのワインづくりのエキスパート。

「登美の丘ワイナリー」栽培技師長の大山弘平氏はこう語る。

「受賞を聞いた時は、とにかくうれしい気持ちでいっぱいでした。ですが、同時に『これは頂点ではなく、自分たちがやるべきことは、まだあるのではないか』と思いました。甲州は、糖度が上がりにくい品種で、かつては”香りが立たない”とも言われていました。受賞した『SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022』はそれをクリアできたワインではありますが、私たちは、まだ甲州について深く研究しなくてはならないと、そんな思いを抱きました」

 

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「SUNTORY FROM FARM 登美の丘 甲州 2022」甲州100%。柚子や夏みかんなどの和柑橘を思わせる香り。透明感があり、凝縮感を感じさせる果実味とみずみずしい酸味。質感もなめらか。¥5,940(参考価格/編集部調べ)

「登美の丘ワイナリー」の創業は1909年(明治42)年。鉄道参事官であった小山新助が、「日本でワインを造る」という夢を胸に、ドイツ人ワイン技師ハインリッヒ・ハムを伴って、当時「登美村」と呼ばれていた風光明媚なこの地にブドウ畑を開墾し、「登美農園」を開いたことに始まる。だが、志半ばで経営に行き詰り、その夢は果ててしまった。ちょうどその頃、人気を博していた「赤玉ポートワイン」のブドウ供給地を探していた「寿屋」(サントリー前身)の鳥井信治郎が、”日本ワインの父”と呼ばれた川上善兵衛の導きで「登美農園」と出合い、ここを譲り受けたのだ。そして、「寿屋山梨農場」として新たなスタートを切った。以来、この地では、多くの人々の夢が紡がれてきた。「登美の丘ワイナリー」は、100年以上の長きにわたり、日本ワインを牽引してきたのだ。

 もともと、「登美の丘ワイナリー」はカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどのヨーロッパ系品種の第一人者として定評があった。だが、20年ほど前から、「日本の固有品種であり、日本の風土に合う甲州を、世界と肩を並べるワインに」という気運が社内で高まり、より甲州に注力するように。たとえば、栽培においてはテロワールの個性を最大限に生かすために畑を約50の区画に分け、細やかに対応している。そのうち、甲州は9区画で、適した圃場を選んで適したクローンを植えるなど、研究を繰り返している。ここで育つブドウがどのような個性を持つのかをきちんと見極めることが、「最高に美味しいワイン」を生み出すのだ。

 

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 標高約600メートルの場所に位置する棚仕立ての畑。南東向き斜面で水はけがよく、香りのボリュームがあり、凝縮した味わいのブドウができる。

  「収穫期、棚仕立ての畑には淡い紅色に色づいた甲州がたわわに実って、それは見事なほどにきれいですよ」と笑顔で語る大山氏からは、ブドウへの深い愛情が伝わってくる。

興味深いのが、テロワール(土地の個性)による味わいの違いだ。「登美の丘ワイナリー」では長野産の甲州を使用した「SUNTORY FROM FARM ワインのみらい 立科町 甲州 冷涼地育ち 2023」や、南アルプスの甲州で醸す「SUNTORY FROM FARM 南アルプス  甲州 風立つ畑育ち 2023」なども手がけているが、それぞれの土地で育つブドウの個性がきちんと生かされている。

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SUNTORY FROM FARM ワインのみらい 南アルプス 甲州 風立つ畑育ち 2023.jpg

写真左:「SUNTORY FROM FARM ワインのみらい 立科町 甲州 冷涼地育ち 2023」甲州100%使用。豊かな果実味と爽やかな酸味。レモンや熟したリンゴ、白い花の香り。立科のひんやりとした朝の空気を感じさせるような爽快な酸味が特徴。¥4,950(参考価格/編集部調べ)

写真右:「SUNTORY FROM FARM 南アルプス  甲州 風立つ畑育ち 2023」甲州100%。富士川からの風が流れ込む、水はけのよい広大な畑の甲州を使用。白桃やリンゴ、洋ナシのような果実の豊かな香りと穏やかな酸が魅力。¥4,950(参考価格/編集部調べ)

前者はレモンの香りが特徴で、キリリとした酸に冷涼な土地のニュアンスが感じられる。後者は桃の香りが際立ち、クール感がありつつも優しい味わいが魅力的だ。大山氏は言う。

「2年前、ブランド名を“SUNTORY FROM FARM”と一新しました。これは『すべては畑から』の意で、ワイン造りで何より大切なのは畑であることをお伝えしたいと思いました。それぞれのテロワールの魅力を感じていただけたらうれしいです」

甲州という日本固有のブドウ品種は、テロワールによって多彩に表情を変える。まずは、「登美の丘ワイナリー」で、その魅力を確かめて欲しい。秋の一日、甲州の秘密を探るためだけに、旅に出るのも一興だ。

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「登美の丘ワイナリー」は、ワイナリー・ビジットも可能。ショップには約80種のアイテムが揃い、ワインの試飲も可能(有料)。週末にはワインとともにフォカッチャサンドやキッシュなどの軽食も用意。

 

サントリー登美の丘ワイナリー

山梨県甲斐市大垈2786
TEL:0551-28-7311(9:30~16:30)
営業時間:10:00~17:00(最終入場 16:30)
定休日:水、年末年始(臨時休業あり)
※2024年10-11月は水曜日も営業
http://www.suntory.jp/factory/tominooka