スイスのスポーツブランド「On」がヨーロッパを中心にロンドンやパリなど5都市で開催している陸上競技のイベント「On Track Nights」が、2024年7月27日、東京に初上陸した。“新しい陸上”と銘打ったこの大会は何が新しかったのか。スポーツ観戦の常識をくつがえす一夜をレポートする。
開催場所は、世田谷区にある大蔵総合運動場内の陸上競技場。砧公園に隣接する緑に囲まれた競技場だ。観客席は正面のスタンドに2584席のみで、オリンピックや日本選手権が開催される大規模なスタジアムとは大きく異なる。
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アスリートも観客も走ることを楽しめる大会に
「それが私たちの望むところでした。オンの創業者オリヴィエ・ベルンハルトは元トライアスリートです。トレーニングの苦しさを知っているからこそシューズづくりでも、性能だけではなく楽しく走ることにもフォーカスし、デザイン性も追求しました。このイベントも根底にあるのは、すべての参加者に走る楽しみを届けたいという想い。そのためにはこれくらいの規模の競技場がちょうどよかったんです」とオン・ジャパン ブランドコミュニケーションズリードのクリストファー。
これまでスポーツブランドは、スポーツの大会にスポンサーとして加わることが多かった。そこで目が向くのはトップアスリートが何人出場するのか、観客は何人集まるのか、という点だ。
Onがこの大会で目指したのは、アスリートと観客にとって走ることを楽しめる大会にすること。席数が多いスタジアムではなくアスリートと観客の距離が近い大蔵陸上競技場を選んだのは、それによってこれまでにない価値が生み出せると考えたからだ。
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DJ を導入するという新たな試み
大会をOnとともにつくりあげたのは、日本で中距離種目を中心にした陸上競技のチームを運営し、イベントや大会の開催も手がけるTWOLAPSだ。3年前の2021年から中距離種目に特化した大会MDC(Middle Distance Circuit)を開催する実績をもつ。
TWOLAPSの代表でロンドン五輪800mに出場した元アスリートでもある横田真人は、「MDCは中距離をもっと盛り上げたいという気持ちで始めました」と話す。
この大会はOnとTWOLAPSの協業により『On Track Nights: MDC』として開催した。
TWOLAPSが取り組んできたのは「観客数×熱量」をいかに高めるか。MDCはこれまでもたくさんの新しい形を提案し続けてきた。そのひとつがDJの導入だ。2023年のMDCではケツメイシのリーダーでランナーでもある大蔵が担当。この大会でもDJによって、スピード感あふれるレースと音楽が融合した。
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インフィールドではシューズの試し履きも
さらに画期的だったのは、Onの提案でスタンドと芝生のあるインフィールドをブリッジでつなぎ、インフィールドに自由に出入りできるようにしたことだ。アスリートと観客の距離はさらに縮まった。
それだけではない。インフィールドではOnの最新シューズの試し履きやスポーツ用義足の体験、鬼ごっこなど走る楽しみを感じるイベントを実施。観客はレースの合間もアクティブに動き回った。
さらにトラックの外側にはフードやドリンクのブースを用意。「お祭りや縁日に来ているみたい」との声も上がったように、これまでの陸上競技の大会では見たことがない光景が広がった。観るだけではなく、遊んだり、食べたりできる自由な空気感は、まさにフェス。新しい陸上の形を示した。
オリンピック選手も激走!
実施した種目は、男女のトップアスリートが競う800mと1500m、ランニング系インフルエンサーが対決する1000mなど。パリ五輪800m出場、阿見AC所属のグエム・アブラハム選手やグローバルチームOAC(On Athletics Club)所属の中長距離ランナー4人もオーストラリアから参戦し白熱したレースを展開。バックストレートに設置したトンネルをはじめ選手入場時の火花、ゴール地点のスモークなどこれまでの大会にはない華やかな演出も目を引いた。
1500mで優勝したOACのジェシ・ハントも観客と選手が一体となって盛り上げるこの大会を満喫した様子。「来年も開催されればぜひ参加したい」と話した。
レースを楽しんだのは選手だけではない。パン食い競争には、観客約250名が参加。年齢も性別も走力も関係なく競い合い、大いに盛り上がった。
「これぞ日本の走るエンタメ。他都市のOn Track Nightsでもやりたいですね。パリはクロワッサンで」とクリストファー。
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心に大きな爪痕を残した熱狂の一夜
観るだけではないたくさんの走る楽しみを提供したOn Track Nights: MDCは最高潮の盛り上がりを見せて終了。ボランティアとして参加した1人は「終わったあとも余韻がすごくて、もう1週間近く経つのにまだ興奮が続いています。本当に楽しかった」と話す。
「これだけの熱狂を生み出せたのは陸上競技がもつパワーをうまく引き出せたから。これまでになかったものを作り上げたという点で、オリンピックに出場したとき以上の達成感がありました」と横田。
アスリートと観客、そして大会を支えたボランティアや主催者も熱狂した一夜となった。
On Track Nights
www.on.com/ja-jp/explore/events/on-track-nights
MDC
https://twolaps.co.jp/mdc