ChatGPT搭載の新世代「ゴルフ」に乗ってみた

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Volkswagen AG
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50年の間に3700万台がつくられたロングセラー、フォルクスワーゲン「ゴルフ」。成功の理由は、常に顧客のニーズに耳を傾けてきたからだと本社のCEOは言う。ファンのひとりである私に言わせると、ニーズを先取りしていることが、人気を支えてきたのだと思う。

たとえば、ハッチバックスタイル、たとえば、しっかりした足まわりとハンドリングによる走行性能、たとえばGTIという高性能モデルや、いっぽうカブリオレというライフスタイル仕様の設定。

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1月にマイナーチェンジを受けOSが新世代になった「ゴルフ」(欧州仕様)。

私が2024年7月末にドイツで試乗したのは欧州仕様の「ゴルフ」最新モデル。1月に本国で発表された8代目のマイナーチェンジ版だ。フロントマスクを中心に外観が一部変わり、ライトの機能が向上し、そしてChatGPT搭載でインフォテイメントシステムが刷新された。

まず、マイナーチェンジの内容を列記すると下記のようになる。

・(ベースモデルは81kWの1.0eTSIエンジンを廃止し)1.5eTSI(85kW)エンジンを新たに採用
・フロントバンパーのデザイン変更
・ヘッドランプとリヤコンビネーションランプのデザイン変更
・LEDマトリックスヘッドライト「IQ.ライト」採用
・イルミネーション付きVWエンブレム採用
・インフォテイメントシステム用のOSの第4世代搭載
・エアコンの温度設定などのタッチスライダーにバックライトを追加

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イメージは大きく変わっていない8代目のマイナーチェンジ。

正直言って、初代(1974年発表)や2代目(83年)でドイツ車の魅力に目覚めた世代にとって残念なことに、昨今のゴルフはやや存在感が希薄に思えていた。---fadeinPager---

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前後のランプは、LEDでアニメーションまでつくる機能を備えた。

フォルクスワーゲン車の多くはパッケージングが上手で、外寸に対して室内は広く、デザインもLEDをうまく使った外装と、品のよい色使いの内装などに魅力がある。操縦性、快適性、それに燃費も悪くない。

なのに、BMWやミニ、それにプジョーやシトロエンの一部車種といった日本市場での競合と比較すると、少し遅れをとっている印象があるのは事実。どこが?というと、インフォテイメントシステムだ。

BMWとミニは楽しい。操作性もデザインも、それに会話型のコマンドなど使い勝手もよい。いま、クルマを趣味の道具として選びつつ、かつ、日常的に使うひとにとって、音楽を聴く、ナビを使う、ハンズフリーフォンで会話する、といった機能は重要。しかもより使いやすく、より楽しい、と感じられることが市場での競争力につながる。

私は日本にいて「フォルクスワーゲンはどうなっているのかな」と思っていたところ、24年になって、一気にインフォテイメントシステムにおける進化が始まった。OSの世代が新しくなり、機能が大きく拡大したのだ。---fadeinPager---

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大きなモニターが目立つ新しい「ゴルフ」のダッシュボード。

「MIB4(モジュラーインフォテイメントシステム第4世代)」と呼ぶ新世代のOSをマイナーチェンジで搭載。フォルクスワーゲンは、このことで「(ゴルフという)アイコンは未来へと乗り入れた」とプレスリリースに記している。

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前後の意匠は少しずつ変えられた。

いま、ゴルフはパワートレインのバリエーションが拡大している。これも本国の話だが、ガソリン(1.5Lと2L)とディーゼル(2L)の内燃機関、マイルドハイブリッド、それにプラグインハイブリッド。さらにパワフルな前輪駆動の「GTI」と全輪駆動の「R」がある。---fadeinPager---

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マイルドハイブリッドであることを表す「eTSI」の文字が目をひく。写真:筆者

私が今回乗ったのは、1.5Lエンジンに、トルク増強用のモーターを搭載したマイルドハイブリッド「ゴルフeTSI Life(ライフ)」。車名の「ライフ」は装備のグレードを意味していて、ベースモデルの「ゴルフ」とフル装備の「スタイル」および「Rライン」の中間のことを指す。

「ライフ」には、マルチファンクションのハンドルやACC(アダプティブクルーズコントロール)、それにアルミホイールやサポート性の高いシートなどが備わる。日本に導入される際は「アクティブ」というグレード名に変更されるそう。(「ライフ」はどこかのメーカーが登録済みということかもしれない。)

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1.5Lマイルドハイブリッドのおかげでよく走る。

発進時に働き、さらに加速時にも働くモーターのおかげもあり、1.5Lとは思えないパワフル感。アウトバーンでも楽々流れに乗れるし、その気になれば追い越し車線をずっと走っていけるぐらいだ。

といっても、いくら速度無制限区間でも、明確な目的もなく、ハイスピードで疾走するのは、このご時勢下、心理的に抵抗感を覚える。私は「トラベルアシスト」をセットして、速度コントロールはクルマにまかせることが多かった。---fadeinPager---

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自動車専用道でも一般道でも速度コントロールとレーンキープはよく働いてくれる。写真:Wolfgang Grube

ドイツで乗った欧州仕様車には交通標識認識機能(TSR)が備わっていたため、システムを稼働させていれば、アウトバーンでも一般道でも速度標識を読み取り、車両が自動で速度を調整してくれる。加えてレーンキープアシストを起動すれば、ドライバーがやることは、ハンドルに軽く手を添えていることぐらい。

アウトバーン上の、目まぐるしく制限速度が変わっていく区間ではとても便利だし、一般道でも、車線がはっきり見えていれば、制限速度を読み取って(ひとが住んでいるところでは20kmになることもあれば、村と村をつなぐ区間は100km)、ハンドル操作も車両が行って、スムーズに走行していくのには感心するしかない。

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ChatGPT搭載の「IDA(アイダ)」を含め、マルチファンクションの機能に対応したインフォテイメントシステムのモニター。写真:Wolfgang Grube

先述したインフォテイメントシステムは、もうひとつの驚きがある。「IDA(アイダ)」なる音声認識プログラムを採用していて、たとえば「ハロー、アイダ、イッツ・ホット(暑い)」と言うと、エアコンの温度を下げてくれたりする。

新しい「ゴルフ」には、24年1月に米ラスベガスで開催されたCESで発表された新世代のシステムが搭載。「IDA」にChatGPTが組み合わされた。

「メリットはより緻密なサービスが乗員に提供できるところにあります」。フォルクスワーゲンの担当者は、ChatGPTを採用した意味について語った。ChatGPTに慣れているひとにはおなじみのように、化学の問題を解いてくれることもあれば、物語を語ってくれることもある。

「ハロー、アイダ」と呼びかけて、アイダの機能を超越したことを要求すると、ChatGPTが自動的に立ち上がるという具合だ。---fadeinPager---

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太いリアクォーターピラーがずっと続くゴルフのデザイン上のアイデンティティという。写真:Wolfgang Grube

日本に新しいゴルフが導入されるのは24年秋というが、あいにく、ChatGPTなどの搭載は先の話になるそうだ。ドイツで乗ったクルマでは日本語はまだ選べず、プログラムの問題以外にも、クリアしなくてはならない規制もあるだろう。

ただ、この機能が導入されれば、フォルクスワーゲンの印象が大きく変わるのはたしかだと思う。日々変わっていくような、昨今のクルマにおけるインフォテイメントシステムなので、異なる言語や法規制の市場ごとに最新のOSにキャッチアップしていくのは大変だということは察せられる。それでも私は、ドイツで乗ったものとできるだけ近い仕様の「ゴルフ」を、私は日本における日常生活のパートナーにしてみたい。---fadeinPager---