「銀ぶら」という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。明治の文明開化以来、銀座は日本の近代化を象徴する街として、粋と洒落の文化を育んできた。そして今、その伝統を受け継ぎながら、令和の時代にふさわしい新たな銀ぶらの舞台が誕生した。90年以上にわたり銀座4丁目の交差点に君臨してきた和光の地階が、「AMAZING WAKO」をテーマに、伝統と革新が交差する文化発信地として蘇ったのだ。ファッションやアートなど、各分野の第一線で活躍するクリエイターたちによる作品が並ぶその空間は、新しい発見に満ちている。さあ、新たな銀ぶらの世界へ、ともに足を踏み入れてみようではないか。
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回転什器と回廊。時を映す和光の空間デザイン
2024年7月にリニューアルを果たした和光の地階に足を踏み入れると、まるで異次元に迷い込んだかのような感覚に包まれる。中央に据えられた、時計の針を模した回転什器——これぞまさに「時の舞台」だ。杉本博司と榊田倫之が主宰する新素材研究所が紡ぎ出した空間デザインは、日本の伝統美と現代性を見事に融合させている。霧島杉の香りが漂い、京都の町家石が温もりを感じさせ、琉球トラバーチンが柔らかな輝きを放つ。これらの厳選された日本の素材が空間の随所に巧みに配され、静謐な美しさと先進性が共存する独特の雰囲気を醸し出しているのだ。「舞台」を囲む「回廊」を歩けば、まるで時の流れそのものを体感しているかのような不思議な感覚を覚えるだろう。
銀座に出かける時は、装いもお洒落でなくてはならない。昔から銀ぶらを楽しむ人々は、誰もが粋を競い合った。そんな伝統は今も健在だ。和光では、その粋を極めた品の数々に触れることができる。その一つが、LA発のブランド「ジ エルダー ステイツマン」とのコラボレーション製品だ。カジュアルなデザインを極上のカシミヤで表現するこのブランドは、最上級の着心地と、創業初期からのサステイナブルな取り組みで、世界中に多くのファンをもつ。色とりどりのニットウェアが並ぶ様は、まるで時を編み込んだかのよう。手に取れば驚くほどの軽さ、身に纏えばとろけるような着心地。アーティスティックな遊び心と極上の着心地を兼ね備えたこのニットウェアは、令和の銀ぶらスタイルを完成させる品といえる。
和光が選び抜いた品の中でも、特に時計に関連するアイテムは格別な存在感を放つ。創業以来、時を刻む精緻な機械への愛着は、和光のアイデンティティそのものだ。その愛着は、時計を大切に扱うための道具にまで及ぶ。そんな和光の卓越した審美眼で選ばれたのが、フランスのバッグブランド「リュニフォーム」のウオッチケース。ファブリックとレザーという2つの天然素材を用いた同製品は、上質なレザーの柔らかな質感や、職人技が光る縫製の緻密さで、見る者を魅了する。使い込むほどに増していく味わい深さは、長く愛用できる品の証。大切な時計の保管はもちろんのこと、中の仕切りを取り外せばコンパクトなハンドバッグへと変身するため、銀座の街に繰り出す時もさりげなく持ち歩きたくなる。
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古今の趣が交わる、アートと知の饗宴
アートもまた、和光の本質に深く根ざしている。1930年代、前身の服部時計店で開催されていた美術展「和光会」が、現在の社名の由来となったといわれているほどだ。この伝統は今も地階で花開いている。中でも注目を集めるのが、杉本博司の作品だ。歴史と存在の一過性をテーマに、時間の本質を探求する杉本の姿勢は、長年にわたり時計文化を育んできた和光の精神性とも通じるものがある。杉本の作品以外にも、このセクションでは定期的に展示が入れ替わり、さまざまなアーティストの作品や工芸品が紹介されるという。こうしたアートの存在により、和光を訪れる人々は、買い物だけでなく、芸術鑑賞という新たな体験も楽しめるようになった。それは、銀座という文化的中心地における和光の新たな姿を象徴している。
そして、この芸術と文化への探求は、自然と書籍の世界へと広がりを見せる。同じフロアの一角に、時代を超えた知の遺産が静かに佇んでいるのだ。ここでは、ブックディレクターである幅允孝の選書によって、古今東西の名著が一堂に会している。「時間と本質」をテーマに厳選されたそれらの本には、服部時計店創業者・服部金太郎が1894年に建てた初代時計塔へのさりげないオマージュも込められているそうだ。文学、芸術、哲学、歴史——各分野の選りすぐりの書籍は、訪れる人の知的好奇心をさらにかき立てる。和光ならではの審美眼と幅の専門知識が融合したこの書棚は、アートセクションと呼応しながら、新しい文化体験の場として重要な役割を果たしているのだ。
銀座での優雅な時間も、そろそろ終わりに近づいてきた。せっかくの銀ぶら、気の利いた土産物で締めくくりたい。そんな時にぴったりなのが、和光オリジナルのレターセットだ。「かみ添」の唐紙を用いたレターセットは、時計塔にあしらわれた唐草模様や建物の石花模様をモチーフにした図案が、雲母摺りの技法で輝きを放つ。伝統的な唐紙のモダンな解釈は、時を超えて日本の美を再認識させてくれるようだ。デジタル時代だからこそ心に響く、このアナログの温もり。ペンを走らせ、インクが紙に染み込む様を眺めれば、手紙を書く喜びが蘇る。和光での思い出とともに、この上質な紙の感触を持ち帰れば、銀ぶらの余韻をいつまでも楽しめるだろう。
リニューアルを果たした和光の地階は、銀座の新しいランドマークとして、私たちを魅了する。現代アートとの出合い、厳選された書籍との邂逅、そして日本の伝統美への没頭——ここには、まさに「銀ぶら」の新しいかたちがある。次の休日には、ぜひ和光の地階へ足を運んでみてはいかがだろう。きっと新しい感動とともに、心に刻まれる特別な一日が待っているはずだ。