細い洞窟内に挟まり身動きが取れない!「ナッティパティ洞窟事故」その恐怖の結末

  • 文:宮田華子
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TOP.jpg@curiositycreepy – Xのキャプチャ画像

15年前に起ったある事故が、SNS掲示板「Reddit」に投稿された書き込みをきっかけに再び注目されている。

事故の舞台はアメリカ・ユタ州にある「ナッティパティ洞窟」。迷路のような通路(穴)が広がっており、洞窟探検家には有名な場所だ。

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@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像

地図上部に位置する「Maze(迷路)」と呼ばれる部分は、比較的大きな通路のため洞窟探検初心者でも楽しめる。しかし洞内には通路の細い場所もあり、危険を冒して難所に挑戦しようとする人が後を絶たなかった。

洞窟の発見は1960年だが、開洞以来、ボーイスカウトの少年が抜け出ることができなくなった事故も含め、数回救出作戦が行われた。そこで安全対策のために一時洞窟を閉鎖し、柵を設置したり、探検者の事前オンライン登録が義務付けられる等の策がとられた。その上で、2009年5月に再オープンした。

その半年後に…取り返しのつかない事故が起こったのだ。

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サンクスギビングの休暇中に起った悲劇

 2009年11月24日、ヴァージニア大学医学部の学生であったジョン・ジョーンズ(当時26歳)はサンクスギビングを家族で祝うために実家に滞在していた。そして休暇中のアクティビティとして「ナッティパティ洞窟」に行くことになった。

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ジョンと妻。2人の間には1歳の子どもがいた。@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像。

 


ナッティパティ洞窟。

ジョンと弟のジョッシュ、そして家族と友人の合計11人は20時から洞窟の探検を開始した。

しかし全員で同じ場所を探検したわけではなかった。ジョンとジョッシュは子供時代から洞窟探検の経験が豊富だったため、他の2名の友人と共に、難しいとされる「バースカナル(産道)」にチャレンジすることにした。

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「バースカナル」の地図。通路が細い難所とされていた。@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像。

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他の洞窟を探検中のジョン。@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像。

入洞から1時間ほどたったとき、ジョンは「バースカナル」の入口を発見。

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@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像。

体がやっと通れる程度の細い穴を這って進んでいった。

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実際の「バースカナル」内部を写した画像。体をずらずようにして、這いながら細い穴を進む。Photo Credit: CBG @fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像

「バースカナル」は難所ではあるものの、進んだ先に立ち上がれる程度のスペースがあることで知られていた。そこで方向転換し、引き返す予定だった。

しかしジョンは地図に載っていない通路を進んでしまった。そして方向転換できる場所のない、「行き止まり」(赤丸印の場所)に向かって這っていった。

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決して行ってはいけない「行き止まり」に向かっていた。@FascinatingHorror - Youtubeのキャプチャ画像

ジョンは方向転換できる場所を探して進んだが、なかなか立ち上がれるスペースに行きつかない。細い難所をくぐった先に45度程度の傾斜が現れ、そこで「何かがおかしい」と気付いた。

しかしヘッドライトの先に見えた小さな穴に希望を託した。この「小さな穴」の先に方向転換できる場所があると信じて…。

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傾斜を降りていく先に、穴が見えた。@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像

しかし希望は無残に打ち砕かれた。頭を突っ込んだ先は垂直にあいた狭い穴。ジョンは逆さ吊りの体勢で細い穴にはまってしまったのだ。

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穴は25x46cm程度の大きさ。ここに身長183cm、体重90kgのジョンがすっぽりはまってしまい、身動きできない状態となった。かろうじて、足だけが穴の外に出ていた。@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像

弟ジョッシュは兄を助けるため、方向転換できる場所に1度戻り、進行方向に足を向けた状態でジョンの近くにたどり着いた。互いの足を絡めることでジョンの体を引き出そうとしたが、引きあげることは不可能だった。

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試行錯誤したものの、弟は兄を救出できなかった。@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像

2人はプロによる救助が必要と判断。ジョッシュが出口に向かい、救助隊による救出作戦が行われることとなった。

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27時間におよぶ救出作戦

ジョンがはまってしまった穴は、入口から120m、細い通路の奥にある場所。救助隊にとって、到達困難な場所だった。

最初に現場に到着したのは、ボランティア救助員のスージー・モトラだった。スージーに対し、ジョンは「来てくれてありがとう」と礼を言い、「本当に、本当に、ここから出たい」と感情をこめて語ったという。

救助隊はジョンの足をロープで括り、滑車を使って引き上げる方法を試みた。

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地上からロープを引き、救助者が上と下に2つのボルトを岩肌に埋めこむ。ここにカナビラをつけてロープを通し、ロープをジョンの足に括る。地上にある滑車がロープを引き、ジョンを引き上げる仕組みだ。@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像

逆さ吊りの体勢の苦しさ、そしてロープを括った足の痛みにジョンの体力は限界に達していた。ロープに吊られ、体は少し上に上がったものの、穴から抜けるところまでにはいきつけなかった。

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救助者にも大きな危険が伴う作業だった。@FascinatingHorror - Youtubeのキャプチャ画像

数時間の試みの後、何とロープを支えるボルトを打ち込んだ岩が崩れ去った。

その場にいた救助員はカラビナが顔に激突し怪我を負った。かつ岩崩れの衝撃で、ジョンはさらに穴の奥に落ちてしまった。

その後も救助隊が交代し、合計6人がジョンのいる場所での救助を試みた。ジョンの足を切断して引き上げる方法等も検討されたが、安全かつ確実に救出できる方法は最後まで見つからなかった。

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100人以上の緊急救助隊員が救助活動に参加した。@fatal_breakdown – Youtubeのキャプチャ画像

長時間、逆さ吊りの姿勢で内臓が圧迫されたジョンは、呼吸が浅くなっていった。通信機器を洞窟内部に入れたため、ジョンは外部の声を聴くことが可能だった。妻のエミリーが声をかけ、励まし続けた。

しかし救助隊の努力は報われなかった。逆さ吊りの体勢になって約27時間後の11月25日23時56分、医師がジョンの心肺停止を確認。死亡が宣告された。

ジョンは自ら「自分の墓場」に這って入っていった人物として、人々の記憶に刻まれることとなった。

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今も穴の中に眠るジョン

ジョンの遺体の回収策も様々方法が検討された。しかし最終的に遺体回収は危険すぎると判断された。ジョンの家族と洞窟のある土地の持ち主は、遺体が中にある状態で洞窟を永久に閉鎖することに合意した

閉鎖に伴い、洞窟の入口部分はコンクリリートで蓋をされ、その場所にジョンの祈念碑が埋めこまれた。

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@FascinatingHorror - Youtubeのキャプチャ画像

今なぜジョンの死が話題になっているのかは分からない。しかし夏は、プロ・アマを問わず、多くの冒険家・探検家が挑戦を試みる季節でもある。

彼の死を無駄にしないためにも、無謀な挑戦はしないでほしい。天国のジョンもそう願っているはずだ。

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【リアルな動画で確認】ジョンの救出劇を描いたドキュメンタリー&映画予告編

ジョン・ジョーンズの最後の27時間が詳細に描かれているショートドキュメンタリー。Youtubeの自動字幕作成機能を利用すると、日本語字幕で視聴できる。
ジョンの救出劇は「ラスト・ディセント ナティ・パティ洞窟事故」のタイトルで2016年に映画化されている。↑は予告編。