【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『初夏ものがたり』
幻想文学の名手、山尾悠子の初期の名作が酒井駒子の挿画とともに待望の復刻。この顔合わせがまず魅力的だ。いまは亡き人が一日だけ会いたい人のもとを訪れる。その仲介をするのは謎めいた日本人ビジネスマンのタキ氏。表題作では20歳で死んだ父親が7歳になった娘に会いに来る。死んでしまったあの日の姿のままだから、娘はまさか自分が父親とは思うまい。なんて儚くて切ない一度きりの逢瀬だろう。だからこそすべてが愛おしい。この世とあの世が束の間交差する、夏にふさわしい連作短編集。
※この記事はPen 2024年9月号より再編集した記事です。