今年3月29日、惜しまれながら72歳にて亡くなった彫刻家の舟越桂。生前の舟越が最期まで展覧会の実現を望み、準備に励んだ『開館55周年記念 舟越桂 森へ行く日』が、神奈川県箱根町の彫刻の森美術館にて開かれている。
静かな佇まいの人物像を制作。国際的にも高く評価される舟越
クスノキを素材として、遠くを見つめるまなざしを持った、静かな佇まいの人物像を制作する舟越。当初、聖母子像や性別を感じさせない人物像を手がけると、のちに山のようなイメージをもった人物像へと移り、東日本大震災をきっかけとする「海にとどく手」や、両性具有の身体と長い耳が特徴的な「スフィンクス」を生み出していく。具象彫刻に新たな道を切り拓いた舟越の作品は、国内の美術館の展覧会にて紹介されるだけでなく、「第43回ヴェネチア・ビエンナーレ」や「ドクメンタⅨ」などへ出展され、国際的にも高く評価されている。
山のようなイメージをした人物像から「スフィンクス」へ
自ら「心象風景」と名づける舟越の作品は、人間の存在をテーマにしながら多様に変容を遂げていく。山と向き合い、「人間の想像力は山よりも広い」と思ったことをきっかけに生まれたのが《山と水の間に》だ。一方で世界中で起こる出来事に深い関心を寄せる舟越は、超越的な立場から人間を見届ける存在として、性別や人獣の区別を越境した「スフィンクス」のシリーズを2000年代から制作。イラク戦争の時期に作られた《戦争をみるスフィンクスⅡ》では、異形とも言える複雑な表情を見せていて、戦争に対する憤りや悲しみが感じられる。
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まるで子どもの秘密基地?アトリエ再現展示が充実!
「僕が気に入っている」と題し、舟越が日々制作に取り組んだアトリエの再現展示も見どころだ。そこには実際に使われていた手製の作業台やデッサン用の一本足の椅子をはじめ、デッサンやメモ、写真やポスターなどが所狭しと並んでいて、子どもの秘密基地を思わせるのようなアトリエが広がっている。一際目立つ《妻の肖像》は、いつもアトリエに大切に置かれていた初期の代表作。壁には直筆のメモも貼られ、「鍛錬しなければ才能はさびてゆくのみ」や「新しいものは自分の中に見つけよう」などの言葉からは、舟越の制作に対するスタンスも伺える。
舟越が家族のために作ったおもちゃとは?
普段、非公開の小さなスペースでは、愛おしいおもちゃが展示されている。これは舟越が家族に向けて作り、姉の末盛千枝子によって1997年に出版された「おもちゃのいいわけ」のための部屋で、同書は本展にあわせて27年ぶりに増補新版として刊行。《木っ端の家》や《クラシックカー》といった往年のおもちゃともに、新たに本に加わった《立ったまま寝ないの!ピノッキオ!!》や《あの頃のボールをうら返した。》などが並んでいる。あわせて入院中にも描いていた創作のためのイメージデッサンや、亡くなる数日前に自ら語る映像も見ておきたい。
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生涯を通して人間とは何かを問い続ける
彫刻の森美術館の彫刻作品の素材のほとんどはブロンズや金属。木彫作品は10点ほどに過ぎない。しかし日本の彫刻史に舟越保武・桂という親子で重要な地位を築くことから、あえて木彫作家の舟越に着目し、展示プランを練り上げていった。また本展のために《樹の⽔の⾳》のブロンズ像を舟越に依頼するも、いよいよ制作に取り掛かるという時に亡くなってしまう。視線の合わない舟越の作品と対面していると、見ているというよりも、心の内面を見透かされるかのようだ。人間とは何かを問い続けた舟越の創作を、箱根の森の中でじっくりと向き合いたい。
『彫刻の森美術館 開館55周年記念「舟越桂 森へ行く日」』
開催場所:彫刻の森美術館 本館ギャラリー
神奈川県足柄下郡箱根町ニノ平1121
開催期間:開催中〜2024年11月4日 (月・休)
https://www.hakone-oam.or.jp/