人間とは何かを問い続ける。彫刻家、舟越桂の展覧会が彫刻の森美術館にて開催中

  • 文&写真:はろるど
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今年3月29日、惜しまれながら72歳にて亡くなった彫刻家の舟越桂。生前の舟越が最期まで展覧会の実現を望み、準備に励んだ『開館55周年記念 舟越桂 森へ行く日』が、神奈川県箱根町の彫刻の森美術館にて開かれている。

静かな佇まいの人物像を制作。国際的にも高く評価される舟越

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『舟越桂 森へ行く日』展示風景より、中央:《海にとどく手》(2016年 個人蔵)立体22点、平面35点のほか、資料などが4つの展示室にて公開されている。

クスノキを素材として、遠くを見つめるまなざしを持った、静かな佇まいの人物像を制作する舟越。当初、聖母子像や性別を感じさせない人物像を手がけると、のちに山のようなイメージをもった人物像へと移り、東日本大震災をきっかけとする「海にとどく手」や、両性具有の身体と長い耳が特徴的な「スフィンクス」を生み出していく。具象彫刻に新たな道を切り拓いた舟越の作品は、国内の美術館の展覧会にて紹介されるだけでなく、「第43回ヴェネチア・ビエンナーレ」や「ドクメンタⅨ」などへ出展され、国際的にも高く評価されている。

山のようなイメージをした人物像から「スフィンクス」へ

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『舟越桂 森へ行く日』展示風景より、手前:《戦争をみるスフィンクスⅡ》 2006年 個人蔵 舟越は「日々、世界で起こる戦争や紛争には怒りや憤りを感じます。しかし人にはそれぞれ役割があり、自分は怒りや悲しみをぶちまけるのではなく、人間の存在を肯定していきたいのです」との言葉を残している。

自ら「心象風景」と名づける舟越の作品は、人間の存在をテーマにしながら多様に変容を遂げていく。山と向き合い、「人間の想像力は山よりも広い」と思ったことをきっかけに生まれたのが《山と水の間に》だ。一方で世界中で起こる出来事に深い関心を寄せる舟越は、超越的な立場から人間を見届ける存在として、性別や人獣の区別を越境した「スフィンクス」のシリーズを2000年代から制作。イラク戦争の時期に作られた《戦争をみるスフィンクスⅡ》では、異形とも言える複雑な表情を見せていて、戦争に対する憤りや悲しみが感じられる。

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