死の間際になにが…苦痛顔のミイラ“叫ぶ女”の謎が解明に近づく「悲鳴を上げつつ亡くなった?」

  • 文:山川真智子
Share:

 

shutterstock_2452762957.jpg
Alexandree-Shutterstock

エジプトで、口を開けて苦悶の表情をしている女性のミイラが、1935年に発見された。「叫ぶ女」と呼ばれるこのミイラの埋葬には多くの謎があったが、研究者たちが現代の技術を駆使して新たに調査を行い、結果を医学雑誌に発表。発見から90年、死後3500年を経て、興味深い詳細が明らかになった。

無名のミイラ 断末魔の表情で出土

「叫ぶ女」は、エジプトのルクソール近郊で、ニューヨークのメトロポリタン博物館の考古学探検隊によって発見された。1935年と1936年の発掘調査で、紀元前1479年から紀元前1458年にエジプトを支配した女性ファラオ、ハトシェプストに仕えた建築家、センムトの親族の埋葬室から見つかったという。

この無名のミイラは、黒いかつらをかぶり、古代エジプトの護符で再生の象徴だったスカラベ(コガネムシ)の形をした2つの指輪をはめていた。叫び声を上げているかのような衝撃的かつ不気味な表情をしていたことが、呼び名の由来だとスミソニアン・マガジンは解説している。

最新の技術で再調査 詳細が明らかに

考古学誌、ポピュラー・アーキオロジーによれば、「叫ぶ女」は1998年まで王族のミイラを研究していたカイロ大学のカスル・アル・アイニー医学部に保管されていたが、その後カイロ・エジプト博物館に移されていたという。

今回新たに行われた研究では、CTスキャン、電子顕微鏡、X線回析などの技術を駆使して、「叫ぶ女」を“仮想解剖”した。その結果、この女性の身長は152センチ強、軽い関節炎があり、推定48歳ぐらいで亡くなったことが分かったという。

ミイラには脳、横隔膜、心臓や肺、腸などの内臓が残っていることも分かった。通常、古典的なミイラ化の方法では、心臓以外の臓器は摘出されるのが普通だという。臓器が残っていることは、いい加減な埋葬だったことを示唆する場合もあるが、「叫ぶ女」は希少で高価なジュニパーや乳香などの材料でミイラ化されていた。保存状態もよいことから、大切にされていた人だったのではないかと、研究の共著者である放射線科医、サハール・サリーム氏は述べている。

死の間際に何が? 死後硬直説が有力

ではなぜ女性が大切な人物だったにもかかわらず、口を開けたままミイラ化されたのか、という疑問が残るが、これに関しては「死後硬直説」で説明が付くとサリーム氏は述べている。

まず女性が口を開けていた理由だが、その表情から分かるように、死の間際に苦痛や精神的ストレスを受けて叫び声を上げながら亡くなったからだと考えられている。女性は死の瞬間に死体痙攣と呼ばれる現象に見舞われ、筋肉が硬直。これにより、筋肉が死亡時の位置で固まってしまい、口を閉じることができなかったと見られる。腐敗したり弛緩したりする前に遺体を処理する必要があったため、口を開いたままミイラ化されてしまったらしい。

もっとも、女性の死因は未解明のままであるため、この説が彼女の驚くべき表情の理由だと断言することはできないという。

---fadeinPager---

苦しそうな表情の「叫ぶ女」。

---fadeinPager---

遺体処理の際に、口を閉じることができなかったと見られている。

---fadeinPager---

 脳や内臓も残したままミイラ化されていたことも判明した)。