キュートかつパワフルなワーゲンバス!? フォルクスワーゲンの最新電動ミニバン「ID.Buzz GTX」が楽しい

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Volkswagen
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キュートなルックスで欧州で人気上昇中のフォルクスワーゲンが手掛ける電動ミニバン、ID.Buzz(アイディーバズ)。2024年6月、ホイールベースが伸びて3列シートを備えた、よりパワフルな「GTX」が追加された。

DSC00693_VW_GTI Meeting WOB 2024_photo_isp-grube.de_.jpgボディの塗り分けは多様で、単色の設定もある。(写真:Wolfgang Grube)

ID.Buzzは標準モデルが2022年に登場。ドイツでは、ブリー(Busとドイツ語で商用パネルバンを意味するLieferwagenの合成語)や、ワーゲンバスとも呼ばれるフォルクスワーゲンのマイクロバスが、イメージの源泉とされる。

1945年に本格生産が始まったビートルが「タイプ1」と呼ばれ、その後1950年に発売されたため「タイプ2」とも呼ばれるワーゲンバス。

まん丸なヘッドランプと大きなフォルクスワーゲンのエンブレムが強い個性となっていて、加えてマイクロバスからピックアップトラックまで、多くのボディバリエーションがつくられたことも、コレクター人気の高さにつながっている。---fadeinPager---

e-BULLI_VWN_11.jpg「タイプ2」。フォルクスワーゲンはこのマイクロバスを電動化しようと試みたこともある。

ID.Buzzは、「タイプ2」を現代的にアレンジしたようなフロントマスクと、ピープルムーバーというコンセプトを受け継いでいる。最大の違いは、空冷4気筒エンジンでなく、モーターとバッテリーで走ることだ。

DSC00732_VW_GTI Meeting WOB 2024_photo_isp-grube.de_.jpgもっさりした感じはなく、スポーティな雰囲気がただようデザイン。(写真:Wolfgang Grube)

私が「ID.Buzz GTX ロングホイールベース」でドライブしたのは2024年7月。ドイツのハノーファーと、そこから80kmほど離れたフォルクスワーゲン本社のあるウォルフスブルグ周辺のさまざまな道を走ることができた。

cq5dam.zoom.2048.2048-12.jpegロングホイールベース版は、後席用ドアの幅も広い。

結論からいうと、見た目はキュートな印象が強いけれど、しっかり走り、ドライブが楽しめるモデルに仕上がっていた。パワフルな2モーターの全輪駆動方式と、スポーティな足まわり。見かけは後輪駆動モデルと同様だが、中身はかなり違う。---fadeinPager---

cq5dam.zoom.2048.2048-2.jpegLEDをシグネチャーランプに使ったフロントマスクのデザインは、ID.シリーズに共通のデザイン。

私が乗った「ID.Buzz GTX」は、モノシルバーとチェリーレッドという、銀と赤を塗り分けた外板色を持っていた。すぐに連想したのは、ウルトラマン。海外ではよほどマニアックなひとでないと知らない存在だろうから、それを意識したわけではないだろう。でもたしかに、強そうなイメージだ。

従来のID.Buzzは、後ろにモーターを1基だけ搭載した後輪駆動。それでも、ボディサイズを意識させることは少なく、気持ちのよい走りっぷりだった。

4MOTIONと呼ばれる全輪駆動システムをもった「GTX」は、快適というより痛快。サスペンションシステムのセッティングは硬めで、ボディのロールは抑えこんである。“標準モデルのロングホイールベース版”とは明らかキャラクターがちがう。ここは好みが別れるところでもありそう。

IMG_1926.jpeg標準モデル(右)とはエアダムの形状が異なっている。(写真:筆者)

私が乗ったモデルは、パワフルな「GTX」と同じタイミングで発表されたロングホイールベースのシャシーとの組合せだ。標準ホイールベースが2989mmであるのに対して、ロングホイールベースは3239mm(標準ホイールベースの「GTX」もある)。

余裕あるボディサイズだが、操縦感覚はコンパクト。それも背高のミニバンでなくハッチバックのようだ。21インチ径のホイールに、前輪が45パーセント、後輪が40パーセントと扁平率が低い薄めのタイヤを履いていることもあって、ステアリングはクイック。

DSC00724_VW_GTI Meeting WOB 2024_photo_isp-grube.de_.jpg商用バンとしても使われるため、テールゲートは大きく実用性が高い。(写真:Wolfgang Grube)

モーターのパワー感と合っている。ちょっとドキドキしたのは、アウトバーンから一般道へと降りるときのカーブにどのぐらいの速度で突っ込んでいけるのか、冒険心が起こりかけた時だ。

少なくとも高速を走っている時の操縦性は、バッテリーという重量物を床下に搭載していて重心高が低く抑えられていることもあり、スポーティなハッチバックのようだった。でも、全高が1927mmあるという事実を思い出して、私はしっかり減速してカーブを回っていくことにした。---fadeinPager---

IMG_1883.jpeg後席ドアは電動開閉式でシルも低く乗降性が高い。(写真:筆者)

標準ホイールベースでもエンジンと燃料タンクがないため、室内空間には余裕があったが、ホイールベースが250mmも伸びたため、シートは3列。6人乗り仕様だと、2列めに独立したいわゆるキャプテンシートが備わるので、車内でのウォークスルー、シートの間を歩いて2列めと3列めの移動が可能になる。

しかも、室内空間のつくりこみの高さでは定評あるフォルクスワーゲンだけあって、全体は広々としていることに加え、ダッシュボードもシートもデザイン性が高い。---fadeinPager---

DSC00783_VW_GTI Meeting WOB 2024_photo_isp-grube.de_.jpgダッシュボードのデザインはクリーン。会話式音声入力システムには(欧州仕様では)ChatGPTが使われている。(写真:Wolfgang Grube)
cq5dam.zoom.2048.2048-9.jpegフォルクスワーゲンのインフォテイメントシステムは、アンドロイドオートモーティブOSを使い新世代に入っている。

シートの座り心地がよく、3列目でも、身長180cmの人間がゆったり座っていられるほどの機能性。オプションのグラスルーフがはめこんであったので、上のほうに視界が広がる2列め、3列めのメリットもしっかりある。

cq5dam.zoom.2048.2048-5.jpeg3列目シートはスペースも座り心地もなかなかで、2列目からはウォークインでアクセスが可能。

3列ぶんのシートを使う状態では、荷室は306Lの容量が確保されることも特筆点だ。

3列目のシートをたためば容量は1320リッターに。さらに、2列目もたたんでしまうと、2469Lのスペースが誕生。家具だって洗濯機だって楽々入りそうな大きさだ。徹底した機能主義が欧州のミニバンだと、つくづく感じさせた。

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シートにはレールで可動式なので荷室の使い勝手は高い。

私が乗ったモデル、パワフル版の「GTX」の駆動用バッテリーは容量が86kWhと、大きめサイズ。モーターのトータル出力は250kW(340ps)、最大トルクは560Nmに達する。バッテリー駆動と、トルクがたっぷりあるため、発進も加速もスムーズ。

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オプションのパノラマルーフは爽快感がある。

アウトバーンでは、静粛性が高いうえに、ボディの空気抵抗を表すCD値が0.29と驚異的に低く、静かで力強い加速は印象的だ。それでいて3列シートを持つのだから、新しい時代の乗りものなんだと強く感じる。---fadeinPager---

cq5dam.zoom.2048.2048-13.jpegID.Buzzシリーズ共通のデザインアイデンティティを持っている外観。

ただし、より快適性を求めるなら、先述のとおり、モーター1基の後輪駆動で、サスペンションの設定がややソフトめになる標準モデルという選択もいいだろう。こちらも今回から、ロングホイールベース版もラインナップに加わっている。内装が明るい仕様なのも、標準モデルのよい点だ。

このクルマの日本導入は、2025年の上半期が計画されている。価格は未定。どんなふうに受け入れられるか、楽しみだ。