全国巡回する、話題沸騰中の「ポケモン化石博物館」とは? 企画実現までの裏話も公開

  • 写真:勝村祐紀、齋藤誠一
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2021年からスタートした全国巡回展「ポケモン化石博物館」が話題をさらっている。ポケモンと古生物を比較しながら学べる、これまでなかったユニークな展示内容だ。さらに、この企画が実現に至るまでには、あるひとりの学芸員を中心とした人間ドラマがあった。

Pen最新号は『恐竜、再発見』。子どもの頃に図鑑や映画を通して、恐竜に夢中になった人も多いだろう。本特集では、古生物学のトップランナーたちに話を訊くとともに、カナダの世界最高峰の恐竜博物館への取材も敢行。大人になったいまだからこそ、気付くことや見える景色もある。さあ再び、驚きに満ちた、恐竜の世界の扉を開けてみよう。

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ポケモンと古生物の不思議な関係

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熊本県の御船町恐竜博物館の会場風景。右手前がカセキポケモンのカブトの標本、左手前は古生物のシーラカンスの標本だ。カセキポケモンは青地に、古生物は赤地にと、視覚的にわかるよう配置している。

巡回展「ポケモン化石博物館」をご存じだろうか? ゲーム『ポケットモンスター』に登場する生き物の中にも絶滅してしまった「カセキポケモン」が存在する。このカセキポケモンと実際の古生物を比較したのが同展示だ。

2021年の北海道の三笠市立博物館から始まり、過去には国立科学博物館でも展示され、現在開催中の岐阜県博物館を含めてこれまで10カ所で実施。23年の群馬県立自然史博物館では期間中の来場者数が19万人に達したというから、その盛況ぶりがうかがえる。

去る6月、当時開催中であった熊本県の御船町恐竜博物館を訪れた。2万点近い収蔵資料点数を誇り、常設展も充実した同館の特別展示室へ。見どころは、カセキポケモンと古生物を対比したコーナーだ。たとえば、トリケラトプスに代表される角竜類と、その角竜類に似たカセキポケモンの「タテトプス」「トリデプス」が比較展示されている。それぞれの生態解説、化石標本、復元図、骨格図などが並ぶ。古生物とカセキポケモンを一緒に学べる仕組みだ。

SNSには「古生物は遠い存在と思っていたけど、地元にこんな化石が存在したと知って興味を持った」など、今回の展示をきっかけに常設展も訪れたという投稿も。この巡回展が、古生物への関心を高めるとともに、地域と人をつなぐ橋渡しも担う。

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ティラノサウルスに似たカセキポケモン、「ガチゴラス」(右)と「チゴラス」(左)の骨格想像模型。ポケモン世界の原寸サイズ。

角竜類と、「タテトプス」「トリデプス」との比較ブース。

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トリケラトプスの頭骨の模型。
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カセキポケモンの骨格想像模型は、職人が国立科学博物館を訪れて化石の質感を研究して制作したため、本物の化石のよう。
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解説パネルとともに、手前にはそれぞれの化石も並ぶ。巡回展の内容は基本的に同じだが、御船町恐竜博物館の常設展にリンクする標本が足されるなど、会場ごとに違いも。

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古生物とカセキポケモンの骨格想像図は、サイエンスイラストレーターの増川玄哉が描いた。古生物によっては、幼体から成体への変化も示されている。画像提供:国立科学博物館

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発案者の小学生時代の体験が、企画発案のヒントに

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相場大佑(あいば・だいすけ) 
●古生物学者。1989年、東京都生まれ。「ポケモン化石博物館」発案・総合監修者。三笠市立博物館に勤務後、2023年より東京の深田地質研究所で研究員を務める。専門はアンモナイト。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表した。

ポケモン化石博物館は、ポケモン社に送られてきた1通の問い合わせから生まれた。送り主は、相場大佑という古生物学者。

2018年夏、当時三笠市立博物館の学芸員だった相場に、次回特別展について企画提案する番が同館内で回ってきた。どんな展示だったら子どもたちが喜ぶだろうと考えをめぐらせた結果、子どもの頃の記憶が蘇ってきたという。

「小学生の時にゲームボーイ『ポケットモンスター』を夢中でプレイしていて、現実世界にポケモンに似た生き物がいることに気づきました。そこで植物図鑑や動物図鑑を広げて、世界にはポケモンみたいな不思議な生き物がもっとたくさんいるんじゃないかと想像を膨らませたものでした」

まさに、ゲームの世界と現実世界がつながった瞬間だった。カセキポケモンと古生物を比較展示するアイデアはここから来たという。相場は企画を半年ほど練って「ポケモン化石博物館」と名付けた後、三笠市立博物館での展示協力を仰ぐべく、ポケモン社に問い合わせフォームから連絡した。

それを受け取ったポケモンのアートディレクター服部悦哉は、カセキポケモンに着目した企画に興味を抱く。そして、せっかくなら三笠市立博物館だけでなく全国を巡回する大規模なものにできないかと提案。こうして国立科学博物館、豊橋市自然史博物館、群馬県立自然史博物館などの協力を得て、巡回展としての体制も整った。

イラストは、ポケモンのキャラクターデザインにも関わっていて古生物にも精通した漫画家のありがひとしが担当することに。「古生物のイラストはリアルに描き込みすぎるとカセキポケモンと並んだ時に違和感が出てしまいますが、一方で対比するポケモンとの違いもしっかり見せないといけない。そのバランスが難しかったですね」と当時を振り返る。

ありがの参加でメインビジュアルも固まり、三笠市立博物館での初回展示に向けて順調に進んでいたところ、2020年にコロナ禍が襲う。開催期間の調整に追われた時期もあり、展示の実現はそこから1年遅れることに。しかし、始祖鳥の色を黒で描き直してもらうなど、その間に進んだ古生物の最新研究を反映できた〝怪我の功名〟もあったようだ。

地方の学芸員から出た企画が全国巡回する展示に発展するのは珍しい事例かもしれない。裏には相場の熱意と、そこに心動かされた周囲の協力があった。

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上:ありがひとし(右)と服部悦哉(左)。ふたりはもともと10年以上親交があった。 中:2020年に始祖鳥の羽毛が改めて分析され、全面的に黒色だった可能性が高いことが示された。これを受け、他の古生物が茶色で描かれている中で始祖鳥だけ黒く描かれている。 下:ありがによる古生物のスケッチ。コロナ禍で開催が1年遅れたことにより、展示されるイラストの数も増えた。
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国立科学博物館現担当の岩崎誠司(右)と新井亮平(左)。相場から相談を受けた時、「科学系博物館イノベーションセンター」発足により、地方発のアイデアを巡回展に発展させることができた。

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カセキポケモンと古生物たちを一挙に紹介!

プテラノドン(左)とプテラ(右)

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左:翼竜の代表格、プテラノドン。頭には大きな1本の突起があり、歯はない。翼竜の飛行能力については諸説あるが、特に大型の種ではあまり羽ばたかず、滑空がメインという考えが有力だ。 右:「ひみつのコハク」から復元される「プテラ」。頭に2本の角が生えており、口元には鋭い牙が生えている。大きな翼で自由に飛ぶことができた。 ©2024 Pokémon. ©1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

ティラノサウルス(左)とガチゴラス(右)

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左:史上最大級の肉食恐竜であるティラノサウルス。体の大きさに対して頭が大きく、前脚が小さい。近年の研究では、体の一部に毛が生えていたと考えられている。 右:1億年前のポケモン世界では無敵を誇っていた「ガチゴラス」。体の大部分は赤い皮膚だが、顎や首まわりを白い羽毛のような毛が覆っているのがわかる。 ©2024 Pokémon. ©1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

始祖鳥(左)とアーケオス(右)

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左:鳥類のように羽毛に覆われている一方、爬虫類のように鋭い歯や尻尾も持っていた始祖鳥。羽ばたくための筋肉が未発達のため、翼を広げて滑空していたとされる。 右:とりポケモンの祖先と考えられる「アーケオス」。しかし口元にはくちばしがなく、鋭い歯や尻尾を持つ。羽ばたく筋肉が弱く、助走をつけないと飛べない。 ©2024 Pokémon. ©1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

アマルガサウルス(左)とアマルルガ(右)

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左:首がやや長い、竜脚類の一種アマルガサウルス。首の骨がトゲのように後ろに長く伸びているのが特徴だ。これは異性へのアピールや体温調整のためなど諸説ある。 右:首に広がる大きなヒレが特徴的な「アマルルガ」。なめらかになびくヒレは感情によりさまざまな色に変化する。仲間内で気持ちを伝えるのに用いたのかもしれない。 ©2024 Pokémon. ©1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

ポケモン化石博物館(岐阜県博物館会場)

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開催期間:開催中〜10/27まで
住所:岐阜県関市小屋名1989
TEL:0575-28-3111
開館時間:9時~16時30分 
※入館は閉館の30分前まで ※入場にはオンラインによる事前予約が必要
定休日:月(※祝日の場合は開館、翌火曜休) 
料金:一般¥800 
www.kahaku.go.jp/pokemon

 

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