世界的人気の“カルトカー”が2500台集まった「GTIファンフェスト」訪問記

  • 文:小川フミオ
  • 写真:Volkswagen
Share:

20240728KN056のコピー.jpg

“カルトカー”という言葉がある。年代を経てもファンが減らないクルマのことだ。たとえば、フォルクスワーゲンの「ビートル」(1945年)、シトロエンの「2CV」(48年)や「DS」(55年)、V8のシボレー「コーベット」(55年)、ミニ(59年)、ジャガー「Eタイプ」(61年)、ポンティアック「GTO」(64年)などがそうだろう。

さらに付け加えるなら、フォルクスワーゲンの「ゴルフ GTI」もその一つ。オリジナルの「ゴルフ」が登場した2年後の76年に、高出力エンジンを搭載したこのクルマ。見かけは「ゴルフ」なのに、アウトバーンではポルシェやBMWに迫る性能ぶりで、たちどころに人気を獲得した。

DSC07105_VW GTI Meeting WOB 2024_photo_isp-grube.de_のコピー.jpg
フォルクスワーゲンクラシックが持ち込んだ歴代「GTI」はオリジナルコンディションとあって注目を集めていた。(写真:Wolfgang Grube)

現在の第8世代にいたるまで、世界中で多くのファンを獲得してきた「ゴルフGTI」。人気ぶりの証明といえるのが、1982年以来開催されてきたGTI トレッフェン(ドイツ語でミーティング)だ。

オーストリア南部ケルンテン州にあるベルターゼー(ゼー=湖)というリゾート地においてファンが始めたイベントで、年を追うごとに参加者(車)はどんどん増え続けた。

GTI トレッフェンは世界的に大いなる評価を受けていて、ドイツのみならず欧州各地から自慢のフォルクスワーゲン車が集まるイベントへと成長。2020年のCOVIDのパンデミックで中止になったが、19年は約6000台がやってきて、来場者数は10万人に達したとか。

20240726KN092のコピー.jpg
参加者同士の交流を見ているのも楽しい。

あいにく、前述のとおりCOVIDがあったことと、住民が850人しかいないベルターゼー周辺の自治体からイベントへの批判が高まったため、近年は再開が難しくなっていた。

この湖は、一部が(水鳥の生息地等として国際的に重要な湿地及びそこに生息・生育する動植物の保全促進を目的とした)ラムサール条約に登録されているほど貴重な場所。これまで、バリバリーッと威勢よい排気音を響かせるクルマが集まるミーティングが38回も開催され続けたことは、驚きだ。

「気候変動の影響、生態系保全に対する政治的意思決定者の責任、持続可能性の原則に従ってあらゆるレベルの行動を整合させる必要性から、将来の設計を新しい条件の下に置くことが求められており、これらが要因となって(中略)今後数年間にわたって自動車にかかわる大規模なイベント(GTIミーティング)の実施をしないことを決定した」と、フォルクスワーゲンよりリリースが出ている。

20240728KN110のコピー.jpg
フォルクスワーゲン本社まわりの道に延々と並ぶ参加者のクルマ(GTI率が高い)。

そこでフォルクスワーゲン本社が、このイベントを引き継いで開催することを決定。2024年7月最後の週末(26日〜28日)にドイツ・ウォルフスブルグにある本社に隣接したフォルクスワーゲン・アレーナ(アリーナ)で、「GTI ファンフェスト」を催したのだった。

私が訪れた会場は、「ゴルフ GTI」を中心にフォルクスワーゲンがこれまで手掛けてきたスポーツモデルで溢れかえっていた。やってきた車両は2500台にものぼるという。

20240728KN080のコピー.jpg
日本でも人気の高い2代目「GTI」(先頭)など、ファンにはうれしい歴史的モデルが大集合。

日本のゴルフファン垂涎の歴代「GTI」や「R」、少数限定生産のスポーツモデルをはじめ、モータースポーツ用車両、改造車両、さらにグランツーリスモのためにデザインされたGTIベースのコンセプトモデルと、実にさまざま。

20240727KN140のコピー.jpg
ピックアップ、トレーラー、なかには6ドアのリムジンなど改造ゴルフも楽しい見もの。

参加車両は同じ仕様が1台とてない、という状態。日本だとオリジナルの状態を保つのに腐心するひとが多いと思うが、こちらでは自分なりの「GTI」を自慢する。スポーティなキャラクターを尊重してレース仕様に仕立てているひとが多いが、デザインが好きだからこそ、そこにさらに自分なりのひねりを加えているひともいる。

会場では、フォルクスワーゲンの乗用車部門の重鎮たちも「GTI」ロゴの入ったTシャツを着て、来場者との交流に励んでいた。そのなかのひとりが、ヘッドオブデザインを務めるアンドレアス・ミント氏だ。

20240726KN112のコピー.jpg
最新の「GTI クラブスポーツ」の見どころを解説するアンドレアス・ミント氏。

「思い思いの改造を施した車両は、デザイナーにとってインスピレーションの源泉にもなるので、私はこのイベントが気に入っています」

来場者はみなマナーがよく、興味ある参加車両があると、笑顔でオーナーに話しかけて記念写真を撮ったりしている。参加者は、友人同士、カップル、親子とさまざまで、それを見るのもまた楽しい。揃いの「GTI」のTシャツを着ているひとも多く、そのバリエーションを見て歩くのも楽しい。公式Tシャツやアディダス製のスニーカーが販売されたが、初日であっという間に売り切れたそうだ。

20240727KN228のコピー.jpg
アディダスとのコラボでこのイベントのために制作したスニーカー(約80ユーロ)は即完売。

フォルクスワーゲンでは特設ステージを設けて、そこで「ゴルフ GTI クラブスポーツ」やマイナーチェンジでパワーアップした「ゴルフ R」などを紹介。その近くには、ピュアEVとして25年に発表予定という「ID. GTI」といったコンセプトモデルも並べた。

モータースポーツが、「GTI」ファンの関心を大きく惹きつけるため、現在はモータースポーツ活動を控えているフォルクスワーゲンだが、過去のモデルの数々も持ち込んだ。著名なドライバーも登壇して、ラリーやサーキットでのレースの思い出を語り、それも来場者には大いに評価されていた。

20240727KN307のコピー.jpg
各人が思いを込めて改造した「GTIモデル」の数々が最大の見どころ。

フォルクスワーゲン乗用車部門のCEOを務めるトマス・シェファー氏は「一番重要なのは、『GTI』ファンの方たちにここに集まってもらって楽しんでもらうこと」と話した。

一方で、乗用車部門のセールス・マーケティング、そしてアフターセールスを担当する取締役会のメンバーであるマルティン・ザンダース氏は、従来とのちょっとした(?)違いを語る。

DSC07806_VW GTI Meeting WOB 2024_photo_isp-grube.de_のコピー.jpg
シェファーCEO(右)とマーケティング等を担当するザンダース氏。

「会場設定や予算を含めて、今回は私たちが主催しているため、よりたくさんのクルマを見せることもできましたし、これから私たちがやろうとしていることをお話しできるというのが、従来との違いであり、私たちが主催をした意味じゃないでしょうか」

その内容とは、電動化だとザンダーズ氏。

「これから私たちは、電気自動車に移行していきます。『GTI』のファンの方たちはエンジン車がお好きかもしれませんが、ここに来ていただくことによって、これから『GTI』が電動化していくことを理解していただき、同時に、パフォーマンスやデザインなど、エモーショナルなところは維持していくという私たちの考えを伝えさせていただきます」

DSC09232_VW GTI Meeting WOB 2024_photo_isp-grube.de_のコピー.jpg
親子での参加も少なくないのがこのイベントのよさ。(写真:Wolfgang Grube)

次回も同イベントを開催するかは、今回の結果次第、とザンダース氏。次があることを大いに期待したい。楽しいクルマをつくりたいというフォルクスワーゲンの意思、というか意地が感じられるのもいいところだし、「ゴルフⅠ」や「ゴルフ 2」を含めて、フォルクスワーゲン車に興味があるひとは情報収集もできる。ぜひ、注目してみては。