愛媛の森を舞台に始まった「DOCU」とは? デザインがサポートする森と福祉とこれからの社会【Penが選んだ今月のデザイン】

  • 文:猪飼尚司(デザインジャーナリスト)
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左から、30パーツの立体パズル「Mokke」¥24,530、逆さまにするとゴミ箱にもなるスツール「bou」S ¥15,950、L ¥18,920、ユニークな波形で重ねても使えるトレイ「SURF」S¥5,940、L ¥7,370、伝統の挽曲げを改良して用いたスツール「ACU」¥28,600、福祉作業所利用者の手作業でつくられるため同じ形のない玩具「Alive」¥4,840

国土の3分の2が森に覆われ、活用可能な人工林も十分残っているにもかかわらず、日本の木材自給率はわずか4割弱にとどまる。こうした国内の林業弱体化の発端は1964年にまで遡り、木材輸入の自由化と関税の撤廃の決定を皮切りに廉価な外国産材が大量に流入。それ以降、我々は良質な国産材の存在を忘れ、時代を過ごしてしまった。

2000年以降になると、日本の確かなものづくりやローカルのていねいな暮らしに注目が集まり、ゆっくりとした歩みながら日本の林業にも復活の兆しが見えてきた。各地で国産材を再評価する運動が起こっているが、今回、愛媛の森を舞台に始まった「DOCU」は、より広い視野から現代の社会問題に取り組んでいく新規の試みだ。

活動の中核を成すのは、愛媛の山で150年にわたり森林管理を行ってきた久万造林と松山市内の社会福祉法人・宗友福祉会うさぎ堂の2社。国産材の有効活用や林業の復活を目指すにとどまらず、木材を伐採後どのような経緯でプロダクトに昇華していくのか、生産や加工を行うスタッフの育成方法など、本プロジェクトがケーススタディとなって多方面への働きかけが生まれ、一連の社会課題を解決する糸口となるようにと、多様な視点から検証を重ねている。

今回、板坂留五、岩元航大、熊谷彰博、長尾周平、西尾健史という5名のデザイナー&建築家がリサーチ段階から参加し、ユーザーの自由な発想とふるまいによりモノの役割と存在が自在に変化するユニークなアイテムが誕生した。また、取り組みが一過性のものに終わらぬよう、写真と文章によって活動の経緯を詳細に記録。つくり手と使い手が相互に関わりを持ちながら、日本の森、福祉作業所から生まれるストーリーをていねいに伝えていこうと考えている。

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DOCU

https://docu.jp

※この記事はPen 2024年9月号より再編集した記事です。