Appleの共同創業者で元CEO、スティーブ・ジョブズ(享年56)が、40年以上前に今日のAIツールの誕生と普及を予言していた。
ジョブズの功績をまとめたサイト「スティーブ・ジョブズ・アーカイブ」が新たに公開した1983年の動画で、彼はChatGPTのようなジェネレーティブAI(生成AI)によるチャットボットが誕生すると語っている。
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「アリストテレスに質問できたら?」
1983年、当時28歳のジョブズは、米コロラド州アスペンで開催された国際デザイン会議に登壇し、次のように述べた。
「学校に通っていた頃、素晴らしい先生もいましたが、平凡な先生もたくさんいました。刑務所みたいな環境から私を救ってくれたのは、本でした。学校では、アリストテレスやプラトンの著書を読めたから」
「本とは、驚異的なものです。情報の発信者から受け手まで、途中に何も挟みません。問題は、アリストテレス本人に質問できないこと」
「ですが今後50年か100年で、根本的な精神、原理、世界の見方を捉えられる機械を開発できたら?」
「そして、次のアリストテレスが現れたとき、その人に生涯その機械を持ち歩いて、前述した事項をくまなく入力してもらえば、いつかその人が亡くなっても、私たちは機械に質問できます。『アリストテレスなら何と言う?』『これについてはどう思う?』と」
「正しい答えが返ってこないかもしれないし、返ってくるかもしれません。それがとてもワクワクするんです。だから私は、今の仕事をしています」
実際、ChatGPTではボットに指示を出し、特定の相手を想定したチャットができる。歴史上の人物でも、架空のキャラクターでもいい。性格の特徴などを指定することも可能だ。
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コンピュータの普及も予言
当時のアメリカでは、自動車は各家庭に普及していた。一方のコンピュータは開発されていたが、到底、一般人の「必需品」ではなかった。スティーブ・ジョブズ・アーカイブによると、1984年の統計でもコンピュータを持っている家庭は全体の8パーセントにすぎない。
ところが同じスピーチで、ジョブズは人々が自動車に乗る時間よりコンピュータを使う時間のほうが長くなると話している。
「人々は1日に2時間も3時間も、こういった機械と触れ合うことになるでしょう」
2023年の統計によると、世界47カ国で人々がスマホを使用する平均時間は、1日につき3時間15分。ジョブズの予言通りとなった。生成AIの登場に関しては、ジョブズの予想より10年以上早い。
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実際にAIで蘇ったスティーブ・ジョブズ
2011年にジョブズはがんで亡くなったが、まさに自身が予言していたような「デジタル人格」として蘇っている。
2023年3月、Twitter(現X)ユーザーがジョブズの声をAIに学習させ、ChatGPTのアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)に接続し、ジョブズの声で回答を再生できるようにした。Facebookのメッセンジャーで音声会話も可能だ。
別のユーチューバーもElevenLabsのAIを用い、ジョブズの声を口調からトーンまで精密に再現した。Appleが著作権違反を申し立て、どちらも削除されている。
音声に限らず、スティーブ・ジョブズの知見や考え方までAIに学習させることは可能だが、米非営利研究機関「アレン人工知能研究所」(AI2)は、「ChatGPTに人格を与えると差別的発言などの有害性が増大する」という研究結果を発表している。
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Introducing “The Objects of Our Life,” our latest exhibit featuring never-before-seen footage of a young Steve Jobs giving a talk at the International Design Conference in Aspen in 1983. See more at https://t.co/fI4gCM7os3 pic.twitter.com/Q9pgXULyTv
— Steve Jobs Archive (@SJArchive) July 18, 2024
スティーブ・ジョブスアーカイブより、1983年のアスペンで開催されたデザイン会議の様子。