グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。
この連載は「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。
下半期に差し掛かる6月までに発表したプロジェクトは、福岡から東京・大手町までさまざま。5月にはみずほPayPayドーム福岡で3D技術を用いた「SUN」発表、宇多田ヒカルによるベストアルバムのアートワーク公開、続いてジュエリーブランド「TASAKI」のポップアップイベント開催、そして大手町にある商業施設の緑地「OTEMACHI ONE GARDEN」でのパブリックアートのお披露目まで盛りだくさん。年末に控えた鹿児島「霧島アートの森美術館」までのモチベーションとして、ロンドン、フランスにも足を運ぶ上半期のトリップへ。
——5月に無事開催となった、みずほPayPayドーム福岡で実施された未来型 花火フェス「STAR ISLAND 2024」での「SUN」の発表はいかがでしたか?
YOSHIROTTEN:「SUN」としては過去最大サイズでの発表となりました。3Dメガネをつけて子供達が喜んだり、はしゃいでる姿を見られて嬉しかったです。
ノリ:僕もつい、飛び出る物体たちに持って行かれて掴もうとしちゃいました。
YOSHIROTTEN:前回の連載で土井さんと話したような、SFの世界で見ている風景を本当に実現できたような気がするね。一方通行の会場でモノリス30体とLED4体を立てて映像が3Dになって出てくる空間だったから、逆走すると真っ黒い壁がぐるっと会場を囲っていて、いつにも増して異世界感が強かった。そこにレーザーがパーっと当たって。今回は30体だったけど、やっぱり365体を実現したいと思ったね。
ノリ:3DCGはどんな技術でできてるんですか?
YOSHIROTTEN:Hibinoという会社で制作している3DLEDの技術を「SUN」に使ってみないですかという話が最初のきっかけだった。いつもより没入感の出る作品になったと思うし、子どもからおばあちゃんまで全員サングラスをかけて、マトリックスの世界に来たみたいに見えて面白かった。
——同時期に、XGのコンサートも手掛けてましたよね。
YOSHIROTTEN:はい。XGのワールドツアーのビジュアルやライブの映像演出のディレクションも同時にやっていました。とにかくすごいことになったのでその内容はツアー終了後にお伝えします。
——それらのプロジェクトの準備期間中には、ジャケットデザインを手がけた宇多田ヒカルさんの新曲「SCIENCE FICTON」のリリースもありましたね。
YOSHIROTTEN:リリースがちょうど4月11日だったから、TASAKIやスターウォーズの準備しているときに、渋谷の街頭にたくさんビジュアルが出ているのをみてましたね。SONY PCLスタジオにある日本最高峰のLEDウォールを使って、さらに同じ映像をプロジェクションで本人に当てて挟み撃ちするという撮影方法をとりました。「SCIENCE FICTION」というタイトルだったので、そうした最新技術を使いながらも、どこか80〜90年代のSF世界観を残したいと思って、写真家のTAKAYさんに写真、映像ともにフィルムで撮ってもらいました。僕はアメリカの月刊SF映画雑誌「スターログ」の70年代のものをコレクションしていまして、そこに挟んであってもおかしくないようなビジュアルにしたかったんですよね。
YOSHIROTTEN:ジャケットの仕様もどんどんフィジカルから離れているからこそ持っていたいと思うようなものにしたくて、CDはレンチキュラーを使ったり全体的に質感にこだわっています。レコードもつい先日発売し、こちらは3枚組+スペシャルブックレットの仕様になっています。アートワークが大きくなるだけでテンション上がりますが、仕様の違いを楽しむことができるので是非どちらも手に触れてほしいです。
——同期間には、ビジュアルを手がけたジュエリーブランド「TASAKI」のポップアップが表参道で開催されていました。
YOSHIROTTEN:プロジェクトに入る1年前くらいから、実際に真珠がどうできるか長崎の五島列島を訪れる機会をいただいたのですが、まず見た光景が真っ黒い水槽の中に、稚貝がたくさん泳いでてまるで宇宙みたいでした。そこから大人の貝になったら、玉を入れられて5年後くらいに真珠ができるらしく、そのストーリーを描きたいなと思って。今回はビジュアルだけではなく、インスタレーションもあったのでストーリー性を持たせました。
ノリ:6月3日(月)~7月5日(金)には、大手町にある商業施設の緑地「OTEMACHI ONE GARDEN」で「RING PARK」ってパブリックアートシリーズの初回を発表しました。今年あと2回行う予定で。今回は、おもに年齢を問わずリラックスできる公園のような空間をつくりました。
YOSHIROTTEN:「休息の庭」というタイトルのもと、立体作品と座ったり走ったり自由に過ごせる体験型のインスタレーション、あと館内で流れるメイングラフィックを制作しました。
ノリ:オフィス街でもあり、ちょうど近くに託児所があるらしく子どもたちがすごくたくさん遊びに来てくれて、本当に憩いの場になったなって感じますよね。次は9月、3回目は12月に発表予定です。
YOSHIROTTEN:芝の上にそのまま設置してあるから、これまでパブリックな場所で発表してきたものよりもさらに公園感はあるかも。
ノリ:グラフィックは、大手町で交流する人々からまた新しいことが生まれるようなイメージで大手町の「O」が4つ重なってます。日本独自の四季で街の色合いも変わるようなイメージで配色も変わってますね。秋冬に発表する場所は、また屋上とも公園とも違うけど、一貫して人が集まる場所で発表していく予定です。
YOSHIROTTEN:公園をつくってみたいという気持ちはずっとあるので、それを実現させる一個となったのは嬉しかったですね。
ノリ:素朴な疑問だけど、公園をつくりたいのはなぜ?
YOSHIROTTEN:自分が子どもの頃に遊んでいた公園が、どんどん廃れて地元の人も寄り付かなくなって再開発も修復も行われることがないのはもったいないなあと思って。そこにアートを持ち込むことによって、子どもたちの想像力を広げるような公園として生まれ変わったら嬉しい。子どもはやっぱり未来をつくっていく存在なので、彼らに貢献できることは自分としては理想的な仕事だなと思います。
ノリ:現場で見てて、子どもたちが「普段ないものがある!」って感じで自然と集まってきてましたよね。
YOSHIROTTEN:寝転んでいいよって空間があんまりないもんね。普通は怒られるというか。
こないだ別な公園のベンチに寝転んでたら足をのせないでくださいって警備員に言われたよ笑
シンプルな形だからこそなのか、ぐるぐる回ったり、寝っ転がったり、階段登るみたいによじ登ったり。低めにできたから3歳の子とかでもギリギリ登れる感じが良かったよね。
——子どもが能動的に動ける空間になったんですね。6月はロンドンや南仏にも行っていた様子です。
YOSHIROTTEN:霧島アートの森へのモチベーションにしたいなと思って、リサーチに行きました。まずは僕の好きなアーティストのヴィクトル・ヴァザルリの美術館「Fondation Vasarely」に向かいました。彼が生きている間につくった美術館なのですが、平面だけではなく、彫刻、建築などさまざまにグラフィックらしい作品を昇華したアーティストとして、すごく近いものを感じていて。
YOSHIROTTEN:そこから20分くらい車を走らせたところにあるフランスの「シャトー・ラ・コスト」も行きました。そこは一面ブドウ畑が広がってる中に杉本博司、ルイーズ・ブルジョワ、ソフィ・カルなどさまざまな作品が展示されていて。野外、彫刻、自然というロケーションは、霧島の森で描くイメージとも近いなと感じました。霧島アートの森美術館も、本当に日本有数の自然の場所で火山湖に囲まれている場所かつ、神話もたくさんあって。僕が考える、自然とSFの世界観が混ざった風景が自ずと現れてきてくれているなあと最近感じてます。ジェームス・タレル、イサム・ノグチ、オノ・ヨーコ、ドナルド・ジャッドなどの作品が置かれていて、なかなかここまで揃っている美術館はないと思うので、この機会にぜひ霧島アートの森にきてほしいですね。
ノリ:いま絶賛制作中! ヨシローくんから、これは実現したらやばいぞ!っていうアイデアがでてきた。さて、準備頑張るぞ!
アーティストYOSHIROTTENの「TRIP」
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グラフィックアーティスト、アートディレクター
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR