東京国立博物館にて開かれている『内藤礼 生まれておいで 生きておいで』。美術家の内藤礼(ないとうれい)が、同館の収蔵品、建築、歴史と向き合い、いまだかつてないような空間を作り上げている。内藤礼の制作と展示の見どころとは?
「地上の生の光景」を見出す。内藤礼の制作とは?
1961年に広島県で生まれ、現在は東京を拠点に活動する内藤礼。過去に国内外にて多くの展覧会を開きながら、光や空気、水や重力といった自然の事象を通して、「地上の生の光景」を見出す空間作品を生み出してきた。こうした自然の諸要素や、見過ごしがちな日常のささやかな事物に目を向け、精緻に構想される作品は、訪れる人々にさまざまな気づきをもたらし、心を落ち着けて深く思索するような瞑想的ともいえる世界へと誘う。
東京国立博物館の空間で、縄文時代の土製品と内藤の作品が交感!
「母を思わせる女性の胴体を示した、縄文時代の土製品である土版との出会い」が展覧会のきっかけになったとする内藤。そして土製品から「生まれておいで、生きておいで」という声が聞こえ、そこに「生の内と外を貫く慈悲」を感じたという。さらに「死はかつての生であり、私たちと同じ地上に生まれ、生きていた。その生を今ここにある生と同じように感じられるのだろうか?」と問う。縄文時代の土製品と内藤の作品が時空を超えて交感する瞬間を、約150年の歴史を有する同館の空間で味わえるのが最大の見どころだ。
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過去数十年、誰も見たことのなかった景色が目の前に
会場は平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジの3つ。このうち大きく空間が変容しているのが、同館で最も風格を感じる本館特別5室だ。内藤の希望をきっかけに通常閉ざされている大開口の鎧戸を開放。自然光を取り入れつつ、カーペットと仮設壁をとり除き、出来る限りにおいて建築当初の姿に戻している。そして床には縄文時代の土製品や鹿骨などを収めたケースが点在し、宙には小さなガラスビーズが無数に吊るされ、光を反射しながらきらきらと瞬いている。少なくとも数十年、誰も見たことのなかった光景に思わず息をのんでしまう。
水面に映る景色と鏡の向こうに開ける世界とは?
緑豊かな庭園を望み、モザイク壁やアールデコ調の照明が美しい本館ラウンジの展示も見逃せない。空間の中心に置かれた桐による座の上には、ガラス瓶が重ねられ、上の瓶に水がたっぷりと満たされた《母型》が展示されている。水の表面には扉の外の景色などが映り込み、別の空間が広がっているように思えるが、モザイクの壁に4つ設置された極小の鏡による《世界に秘密を送り返す》にも留意したい。その小さな鏡へ、少し離れた場所から自分の顔が映らないように覗き込むと…?美しく、はかない小宇宙が開けて見える。
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いままで見えてなかったものが見えてくる
担当学芸員の鬼頭智美が「内藤さんの作品を見たのち、他の展示を見た時に、今まで見えなかったものが見えてくるのではないか」と語る本展。空間に新たな意味や美しさを見出す内藤の静謐な作品は、鑑賞者との対話を促すだけでなく、感覚をも鋭敏にし、日常の中で見過ごされがちな微細な事象や変化を感じとるような力すら育む。「生と死は分けられない」とする内藤による新たな展示を、縄文から現代までが協和する3つの会場を回遊しながらじっくりと味わいたい。
『内藤礼 生まれておいで 生きておいで』
開催場所:東京国立博物館 平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジ
開催期間:開催中〜2024年9月23日(月・休)
https://www.tnm.jp/
※8月1日(木)より事前予約制になる予定、詳細は公式サイトにて。