ジュエリーメゾンが芸術の新たな扉を開く、ダンスフェスティバルが今秋開催

  • 写真:土屋崇治(TUCCI)
  • 文:岡見さえ
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10月4日に開幕する「ダンス リフレクションズ」のプログラムのひとつ、マチルド・モニエの『ソープオペラ、インスタレーション』。 photo: Marc Coudrais

2022年のロンドンを皮切りに世界をまわってきたフェスティバル、「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」が今秋日本で開催される。なぜハイジュエラーがダンスと関わるのか? プログラムのディレクターを務めるキーパーソンに話を訊いた。

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セルジュ・ローラン●ヴァン クリーフ&アーペル ダンス&カルチャー プログラム ディレクター。フランスの高等教育機関エコール・デュ・ルーブルで美術史や博物館学を学ぶ。1990〜99年までカルティエ現代美術財団でキュレーターを、2000〜19年までポンピドゥー・センターで舞台芸術企画部門の責任者を務める。19年より現職。

世紀を超えて紡がれる、ヴァン クリーフ&アーペルとダンスの物語

ヴァン クリーフ&アーペルとダンスの物語は1920年代に遡る。1906年にメゾンが最初のブティックを開いたヴァンドーム広場は、パリ・オペラ座ガルニエ宮から徒歩10分ほど。創業者のひとりルイ・アーペルはバレエを愛し、後にメゾンのアメリカ展開の核となる甥クロードを連れ、バレエ公演に通っていたという。メゾンは40年代にダンスの瞬間の美をジュエリーの永遠の輝きに昇華させた「バレリーナ クリップ」を発表し、卓越した技術と芸術性を証明しつつダンスにオマージュを捧げる。

同じ頃、ニューヨーク五番街にアメリカ初の店舗がオープンし、50年代からシティ・センターを本拠地とする振付家ジョージ・バランシンとクロードとの交流が始まった。このネオクラシック・バレエの巨匠は、67年にエメラルド、ダイヤモンド、ルビーにインスパイアされた珠玉のアブストラクト・バレエ『ジュエルズ』を世に送る。その後もバレエを中心とするメゾンのダンス支援は続いた。

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1940年代に初めて制作され、メゾンのアイコンとして長く愛されてきた「バレリーナ クリップ」。発表年は左から1941年、43年、45年。
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ニューヨークのブティックにて『ジュエルズ』の衣装につけるジュエリーを選定する、左から創業家2代目のピエール・アーペル、バレリーナのスザンヌ・ファレル、振付家のジョージ・バランシン(1976年頃)。

物語に新章を開いたのは2020年、コンテンポラリーダンス対象のメセナプログラム「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」の誕生だ。なぜバレエではなく、現代ダンスなのか? それはメゾンが舞踊芸術の歴史と進化に関心を抱いているからだという。「ハイジュエリーメゾンの歴史を、ダンスの出現とともに綴るアイデアがありました」と、プログラムを統括するセルジュ・ローランは語る。

パリの名だたる現代美術館の要職を歴任したローランは、ダンスを広い芸術の文脈で捉え、明確なヴィジョンをもって「ダンス リフレクションズ」を推進する。鍵となるのは、メゾンの哲学と響き合う「創造・継承・教育」という3つの価値だ。活動の第一レベルを成す「創造」については、世界各地のアーティストへの創作支援と、世界15カ国50組織のネットワークを通した上演支援を行っている。「一年中、世界のどこかでダンス リフレクションズがサポートするダンス公演が行われています」とローランは言う。

22年に始まったフェスティバルは、いわば「ダンス リフレクションズ」の第二レベルであり、「継承」「教育」とリンクする。毎回開催国が異なり、地域性よりいま見るべき振付家・作品が選ばれている理由について「さまざまな場所で観客にダンスを届け、私たちのヴィジョンを共有し、観客一人ひとりがダンスを通して新たな価値を発見することを望んでいます」とローランは語る。公演には振付家のトーク、初心者から経験者までのワークショップが伴い、多様な観客に向けた鑑賞にとどまらないダンス体験の機会が提供される。

「リフレクションズ」には、未知の美学との出会いを通した「反映」「内省」のふたつの意味が込められている。今秋のフェスティバルで多彩なダンスと出会い、響き合い、私たちはいかなる内省へと導かれるのだろう?

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