20世紀後半のベルギーのアーティスト、ジャン=ミッシェル・フォロン(1934〜2005年)の国内では30年ぶりとなる大回顧展が、東京ステーションギャラリーにて開かれている。自ら晩年の名刺に「AGENCE DE VOYAGE IMAGINAIRE」、つまり「空想旅行エージェンシー」と名乗ったフォロンの人物や作品の魅力とは?
ベルギーからパリへ。アメリカの有名雑誌に注目され、一躍世界へと羽ばたく
マグリットの壁画に感銘を受け、絵画世界に惹きつけられたフォロン。21歳でベルギーを飛び出し、パリ近郊にてドローイングを描く日々を送る。そしてアメリカの雑誌社に作品を送ると、『タイム』といった有力誌で注目され、1960年代初頭には表紙を飾った。その後はオリベッティ社(イタリア)のグラフィック・デザインを任されたり、ヴェネツィア・ビエンナーレ(1970年)へのベルギー代表として参加するなどマルチに活躍していく。
挿絵から公共空間の壁画まで。瑞々しく美しい色彩に注目!
フォロンが制作したのは、本の挿絵から企業・団体のポスター、それに公共空間の壁画や装飾までとさまざま。しかも技法も墨からカラーインク、水彩、版画、写真を駆使し、オブジェや彫刻を手がけるなど極めて多岐にわたる。本展でもドローイングや水彩画、版画など約230点もの作品が紹介されているが、最大の魅力は何と言っても瑞々しい色彩。1つの作品に使われる色数は決して多くはないものの、グラデーションや滲みなどを駆使し、美しく詩的な世界を創造している。
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謎めいた男「リトル・ハット・マン」とあちこちを指す「矢印」とは?
たびたび登場するリトル・ハット・マンと矢印に注目したい。目は2つの黒い点、口は直線、そして頭と体がコートと帽子で覆われたリトル・ハット・マンは、時にひとりで現れたり、群衆状態の中で人間性を失ったすがたなどで登場。フォロンの分身のようでもあり、誰でもない謎めいた人物として描かれている。そして矢印はあちこちに飛び出したり、迷路のように曲がりくねったりと、見るものの行手を惑わすかのよう。絵の中で立ち止まったり、その行方を想像しながら矢印を追いかけたい。
環境や人権問題など社会の現実を告発。「世界人権宣言」の挿絵も描く
幻想的でかつ色彩豊かで、一見、爽やかにすら感じられるフォロンの作品。しかし環境問題や人権問題といった、社会の現実を告発するメッセージが込められているのも見過ごせない。たとえば《深い深い問題》では、海の中を魚ではなく魚雷の群れが泳ぐ光景を表現。また太陽の光やかごの中の鳥をミサイルに変えたドローイングなど、戦争をテーマとした作品も多く描いている。アムネスティ・インターナショナルより依頼された「世界人権宣言」の挿絵もフォロンの仕事として重要だ。
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フォロンの描いた空想への旅を展覧会で追体験しよう!
地平線や水平線を望む地にアトリエを構え、船や鳥などのモチーフを描いてフォロンは、「私はいつも空を自由に飛んで、風や空と話してみたいと思っているのです」との言葉を残している。美しく詩情に満ちながら、ユーモアも感じられる作品は、社会のさまざまな問題を見据えつつも、ポジティブなイメージへと変えたフォロンならではのオリジナリティに溢れている。パンデミックや戦争の続くいまこそ、希望を見出す旅をフォロンの作品とともに出かけたい。
『空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン』
開催場所:東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)
開催期間:開催中〜2024年9月23日(月)
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/