「空想旅行エージェンシー」と名乗ったアーティスト、ジャン=ミッシェル・フォロンとは?

  • 文&写真:はろるど
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『空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン』展示風景。2000年にフォロン自身によって作品の保管と一般公開を目的に設立された、フォロン財団(ベルギー)のコレクションが公開されている。

20世紀後半のベルギーのアーティスト、ジャン=ミッシェル・フォロン(1934〜2005年)の国内では30年ぶりとなる大回顧展が、東京ステーションギャラリーにて開かれている。自ら晩年の名刺に「AGENCE DE VOYAGE IMAGINAIRE」、つまり「空想旅行エージェンシー」と名乗ったフォロンの人物や作品の魅力とは?

ベルギーからパリへ。アメリカの有名雑誌に注目され、一躍世界へと羽ばたく

マグリットの壁画に感銘を受け、絵画世界に惹きつけられたフォロン。21歳でベルギーを飛び出し、パリ近郊にてドローイングを描く日々を送る。そしてアメリカの雑誌社に作品を送ると、『タイム』といった有力誌で注目され、1960年代初頭には表紙を飾った。その後はオリベッティ社(イタリア)のグラフィック・デザインを任されたり、ヴェネツィア・ビエンナーレ(1970年)へのベルギー代表として参加するなどマルチに活躍していく。

挿絵から公共空間の壁画まで。瑞々しく美しい色彩に注目!

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左上:『Mac Man』(1983年頃)フォロンの作品はスティーブ・ジョブズの目にも留まり、1983年にはアップル社よりコンピューターの中で「暮らし」、利用者を驚かされるキャラクター「ミスター・マッキントッシュ」(愛称:Mac Man)の制作を依頼される。しかし開発期間や技術的問題によって採用されることはなかった。

フォロンが制作したのは、本の挿絵から企業・団体のポスター、それに公共空間の壁画や装飾までとさまざま。しかも技法も墨からカラーインク、水彩、版画、写真を駆使し、オブジェや彫刻を手がけるなど極めて多岐にわたる。本展でもドローイングや水彩画、版画など約230点もの作品が紹介されているが、最大の魅力は何と言っても瑞々しい色彩。1つの作品に使われる色数は決して多くはないものの、グラデーションや滲みなどを駆使し、美しく詩的な世界を創造している。

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謎めいた男「リトル・ハット・マン」とあちこちを指す「矢印」とは?

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左:『無題』(1970年)右:『無題』 ドローイング、水彩、ポスター、彫刻など大小さまざまなすがたによって現れるリトル・ハット・マン。マグリットの描く人物やチャップリンの映画の人物などを思わせる。

たびたび登場するリトル・ハット・マンと矢印に注目したい。目は2つの黒い点、口は直線、そして頭と体がコートと帽子で覆われたリトル・ハット・マンは、時にひとりで現れたり、群衆状態の中で人間性を失ったすがたなどで登場。フォロンの分身のようでもあり、誰でもない謎めいた人物として描かれている。そして矢印はあちこちに飛び出したり、迷路のように曲がりくねったりと、見るものの行手を惑わすかのよう。絵の中で立ち止まったり、その行方を想像しながら矢印を追いかけたい。

環境や人権問題など社会の現実を告発。「世界人権宣言」の挿絵も描く

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左:『アムネスティ・インターナショナル』(1986年)右:『グリーンピース 深い深い問題』(1988年)環境や社会問題に強い関心を抱いていたフォロン。自身も森林破壊に警鐘を鳴らす『木は死んだ』という画集を出版している。

幻想的でかつ色彩豊かで、一見、爽やかにすら感じられるフォロンの作品。しかし環境問題や人権問題といった、社会の現実を告発するメッセージが込められているのも見過ごせない。たとえば《深い深い問題》では、海の中を魚ではなく魚雷の群れが泳ぐ光景を表現。また太陽の光やかごの中の鳥をミサイルに変えたドローイングなど、戦争をテーマとした作品も多く描いている。アムネスティ・インターナショナルより依頼された「世界人権宣言」の挿絵もフォロンの仕事として重要だ。

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フォロンの描いた空想への旅を展覧会で追体験しよう! 

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左:『飛翔』(1985年)右:『モランディの国で』(1996年)1968年にパリ近郊の小さな農村、ビュルシーに家族とともに移り住んだフォロンは、1985年に南仏のモナコにもアトリエを構える。そこから望む自然の雄大な景色は、フォロンにとって重要なインスピレーションの源となった。

地平線や水平線を望む地にアトリエを構え、船や鳥などのモチーフを描いてフォロンは、「私はいつも空を自由に飛んで、風や空と話してみたいと思っているのです」との言葉を残している。美しく詩情に満ちながら、ユーモアも感じられる作品は、社会のさまざまな問題を見据えつつも、ポジティブなイメージへと変えたフォロンならではのオリジナリティに溢れている。パンデミックや戦争の続くいまこそ、希望を見出す旅をフォロンの作品とともに出かけたい。

『空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン』 

開催場所:東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1)
開催期間:開催中〜2024年9月23日(月)
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/