19世紀末フランスを代表する画家、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864〜1901年)。南仏のアルビに伯爵家の息子として生まれると、幼い頃から、絵を描くことに関心を抱く。13歳と14歳の時に左脚と右脚を相次いで骨折し、以降、下半身の成長が止まり、絵画に専念するようになる。1884年の頃よりパリのモンマルトルにアトリエを構え、カフェ・コンセール、ダンスホール、キャバレなどに集った歌手や芸人、娼婦たちの姿を描き出すと、素早い描線と大胆な構図によるポスターが一世を風靡した。しかし過度な飲酒など放埒な生活を送ったために肉体と精神を害し、療養の末、母の居城があったマルロメで36歳にして亡くなった。
東京・新宿のSOMPO美術館にて開催中の『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』では、ロートレックによる紙作品(グラフィック)の個人コレクションとしては、パリのルーヴル博物館やアルビのロートレック美術館に次ぐ規模を誇るフィロス・コレクションを紹介。素描作品、ポスターを中心とする版画作品、雑誌や書籍のための挿絵、ロートレックが家族や知人にあてた手紙、また私的な写真など、画家に肉薄した作品と資料にて、「ほら、劇場(キャバレ)の喧騒が聞こえる。」と銘打つように、世紀末パリの街をいろどり、時代を生きた人々のすがたを浮かび上がらせている。
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過去に何度も国内で開かれたロートレック展との違いとは…?それはフィロス・コレクションの最大の特徴である、素描やスケッチが大変に充実していることだ。「線の画家」ともいわれるロートレックが残した素描は約5000点弱。最初に素描を手がけた7歳の頃から最晩年の36歳まで、単純に計算すると1日に1点は素描を描いたことになる。フィロス・コレクションでは、完成作として描かれたものから、ポスターや油彩画の修作、さらにロートレックが目にした光景の簡単なスケッチまで、約70点の素描を有している。そうした版画と違って世に1点しか存在しない素描からは、ロートレックの繊細でかつ時に大胆な筆の息遣いをダイレクトに感じられる。
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ポスターは屋外に掲示されるため、多くに破損や変色などが見られるが、フィロス・コレクションは状態の良いものを厳選し、さらに第三者が文字入れをする前の刷りを主に収集。よってロートレック自身のデザインをオリジナルに近い状態で目の当たりにできる。これらの一連のコレクションを築いたポール・フィロスは本展の開催に際し、「単に作品を並べるのではなく、意味が通るように見せたい」として、「アーティストの人生を追体験できるような展示をした」語っている。アメリカや中国など、過去約20回ほど同コレクションを紹介する展覧会が開かれた中、日本では初開催となる本展にて、ロートレックが何を見て、どのように表現し、生きていたのかについて迫りたい。
『フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線』
開催場所:SOMPO美術館
東京都新宿区西新宿1-26-1
開催期間:開催中〜2024年9月23日(月・祝)
https://www.sompo-museum.org/